オープンソースへと向かう米国政府

米国政府は、Linuxとオープンソース・ソリューションの採用へと動いているのだろうか。答えはイエス。残された疑問はただ1つ。その速さである。

米国政府は、互いに関連性があるとは思えない省庁、専門組織、行政機関が不規則に広がったものである。仕事の進め方は行政機関により違い、その違いはIT構造にまで貫かれる。このような政府は多大なコンピューティング・パワーを必要とし、ベンダに巨大な市場を創出する。実際に、販売、プログラム作成、保守、サポートは膨大な量に達するので、ハードウェア、ソフトウェアを政府機関に提供することを主業務とする企業がかなりある。

バージニア州のHerndonに本社を置くDigitalNetは、そういった企業の1社である。2,300人の従業員のおよそ半数は、アクティブ・セキュリティ・クリアランス(機密書類閲覧許可証)を政府から取得し、ネットワーク・インフラストラクチャとセキュリティ・ソリューションの提供に従事している。

DigitalNetのソリューション・エンジニアリング担当副社長Roger Yeeは、複雑に広がった行政府で利用されるITの構造に通じた人物である。彼によると、一部の機関はかなりLinuxびいきで、特にそれが顕著なのが国防総省だという。実際、Yeeのチームは、膨大な量のレガシデータをApacheの人気オープンソースJavaサーバテクノロジであるTomcat向けに変換する大型プロジェクトを海軍から受託し、完了したばかりである。

このシステムは、気象データを共用するために利用される。「作戦行動のために嵐の中を飛行する場合、多くの条件が航空機に影響します。このデータベースをWebベースのオープンソースに移行したのです」と、Yeeは語る。

彼はJavaを使う案件をたくさん抱えている。Javaは、オープンソースのJava開発用ツールセットであるEclipseともども、今や政府関連の顧客が利用する「最重要コンポーネント」の1つだという。実際、標準でEclipseの付属するTomcat 5.5がリリースされたことで、開発者はSunのSDKを使わずに済むようになった。

アイダホ州Nampaに本社を置くMPCは、政府を顧客とする販売契約部門MPC-Gを設置し、事業の大きな部分をこの業務に充てている。MPC-GのシステムエンジニアJay Mastersonによると、オープンソース・ソリューションへと向かう動きは確かにあるという。

「ライセンス形態にうるさいMicrosoftには、本当に不満を持つ人が多いですよ。ライセンスに縛られる関係を変えることにした顧客もいました。しかし、大規模な移行は見たことがないですね」と、Mastersonは語る。

彼の知る範囲で、2つの機関がオープンソースのすぐ手前までやってきて、結局引き返していった。Idaho National Engineering and Environmental Laboratory(INEEL)とNational Weather Serviceである。「どちらも本気でしたが、何か邪魔が入ったのです。上からの指示なのか、その辺のことはわかりません。まだ何かの障壁があるらしいですね」

オープンソースに期待を寄せる政府機関がさらに増えるなら、MPC-Gはオープンソースのソリューションについてもっとよく調べなければならない。「弊社は、本来はMicrosoftの販売店です。このOSは、ダウンロードとして提供しています」と、Mastersonは言う。

「OS無し」というオプションも同社では提供しているが、このタイプのシステムを導入した顧客は、SUSEやRed Hatをインストールしている。選択の自由に目覚めるきっかけとなっているのだ。「この状況には、前よりもずっと真剣に注目しています。NovellがSUSEを展開していることが、注目する大きな理由です」

Mastersonは、Novellがもたらした見通しの明るさと高い評価のおかげで、Linuxソリューションには提供するだけの値打ちがあると見られ始めていると語る。また、同社がその方向に進むとすれば、Red Hatは最初に選ばれるディストリビューションの1つになるだろうが、実のところ、MastersonはRed Hatの姿勢を完全には理解していないという。

「Red Hatの新しいモデルにはどうも戸惑ってます」彼は、フリーに利用できるLinuxを提供することで収益をあげるRed Hatのビジネスに違和感を覚えているのだ。「Red Hatがうまくいってるのは料金を課しているからだ、そう思う人は多いでしょう。ある意味、ジレンマですよ」

しかし、こういった疑問にもかかわらず、彼はRed Hat製品については楽観的だ。「Red Hatは製品を安定させようとしてきました。これまでに、多くのリビジョンがリリースされました。ある時点で、彼らは開発をやめてこうつぶやくでしょう。『これからはこれをサポートすることにしよう。もう変更はしないで』とね」

Mastersonは、MPC-Gが政府関連の顧客にLinuxの提供を始めるには、まだ相当な準備が必要だと考えている。「インストールしたからには、当然サポートがあると期待されるわけです。現時点では具体的なスケジュールも見えません。とはいえ、サーバをもっと売りたいなら、オプションを今よりも多く提供しなければなりません」