ライバルに差をつけるオープンソースビジネス7つの戦略
IBMとHPのLinux関連サービスの年間売上げは、10億ドルを超える。Oracleは、”Unbreakable Linux”をスローガンに掲げてLinux事業を積極的に推進し、両社に近い売上げを達成している。Linuxの波に乗ろうと、米Computer Associatesや米Peoplesoftなどの企業は、Linuxへのアプリケーション移植を大胆なスケジュールで進めているところだ。
このコラムでは、ライバル企業に差をつけるための7つのオープンソース戦略を解説する。(編注 :以下のリンクを使って、それぞれの説明に直接移動できる。)
最適化戦略
デュアルライセンス戦略
コンサルタント戦略
年間契約戦略
パトロン戦略
ホスト戦略
組み込み戦略
今日、ソフトウェアの個人ユーザや企業ユーザは、コンピューティングやネットワーキングのニーズを満たす手段を多くの選択肢から選ぶことができる。OSSはその1つであり、選択肢の幅が広いという理由で好まれることも多い。たとえば、ソースコードを変更して、自社のニーズにより適したソフトウェアを作成できる。OSSを利用することによって、プロジェクトとアップグレードを段階的にスケジュール化し、統合を随意に決定し、OSSのコミュニティと直接意見をやり取りすることが可能になる。プロプライエタリなソフトウェアベンダの目標ではなく、自社の目標に忠実な方向へプロジェクトを具体化できる。OSSを利用すれば、少数のプロプライエタリなソリューションに限定されず、多種多様なハードウェアベンダ、ソフトウェアベンダ、サービスプロバイダを選択肢に入れることができる。こういったことや、その他の多くの理由で、LinuxとOSSが採用される勢いにはますます拍車がかかっている。
Linuxかオープンソースソリューションスタックかは別として、オープンソースプラットフォームのアプリケーションとユーティリティには多くの戦略がある。これらの戦略は、現行のマーケティングやサービスに代わる、クリエイティブで高度な競争力を持つマーケティング、サービスを実現する。たとえば、オープンソースが先駆けた技術が、後に業界標準になる場合もある。オープンソースがもたらすマーケティング意思決定のわかりやすい例として、企業や製品の復活がある。たとえば、IBMは「パトロン」戦略を駆使してオープンソースソフトウェアを拡張し、新しい市場を確立したり、優勢なライバル企業に効果的に追いつこうとしている。オープンソースの戦略には、理解しやすいものと、ソフトウェアセグメントの独占化や特許ポートフォリオのレバレッジのように実践方法がわかりにくいものとがある。同様に、OSSから生まれる製品戦略やビジネスモデルが、古参のソフトウェアベンダには受け入れにくいことも多い。Sun、BEA、Wind Riverといった企業は、OSSによって自社のソフトウェアポートフォリオの一部がコモディティ化される恐れがあるため、OSSが事業に影響を与えると感じている。
次の図に、OSS戦略を利用して製品の価値を高め、顧客をひきつけ、利益を上げている企業を示す。個々の戦略やモデルについては、この後で詳しく解説する。
最適化戦略とは、Clayton Christensenの「モジュール保存の法則」をオープンソースで表現したものである。この法則をOSSに適用した場合、ソフトウェアスタックの1つの層が「接着用のモジュール」となり、両隣のソフトウェア層の「最適化」を可能にする。この接着用モジュール層はコモディティであり、利益をまったくかほとんどもたらさないソフトウェアビジネスである。たとえば、Linuxオペレーティングシステムがこれに該当する。Linuxのような接着用モジュール型オペレーティングシステムに起因する破壊は、Sun、Wind River、Microsoftなどの他のオペレーティングシステムベンダの利益を侵食する。Christensenの法則下では、ソフトウェアスタック内で相互に依存する隣接層、最適化によってアプリケーションの価値が高められる層、価格面で優位性のある層が勝者となる。米Mainstay PartnersによるROI評価に、Oracleが実際に行った隣接層最適化の例を見ることができる。
このケーススタディは、米Electronic Artsが人気ゲーム”Sims”のオンラインバージョンをサポートするために信頼性の高い高速のサーバを必要としたことに始まる。Oracleは、Oracle9i Real Application Cluster(RAC)のLinuxバージョンを提案した。Oracleには、複数のオペレーティングシステムをサポートしてきた長い歴史がある。事実、クロスプラットフォームの移植性があることは、初期のOracleに競争力を与えていた。移植性があるので、特定のハードウェアやオペレーティングシステムのベンダに縛られずに済むという安心感を顧客は得ていた。
このプロジェクトを勝ち取るために、Oracleは自社データベースソリューションにLinuxとサーバハードウェアといったコモディティを組み合わせて、Oracle RACをLinuxクラスタに最適化した。こうすることで、より高い利益の得られる価格をソフトウェアに設定できたのである。コモディティハードウェアでLinuxを使用する場合と同等のパフォーマンスをOracle Unix(非RAC)ソリューションのハードウェアで実現するとしたら、200万ドル以上のコストがかかる。OracleはLinux RACソリューションを80万ドルで提供したが、これでもElectronic Artsにとっては130万ドル以上の節約になった。
デュアルライセンス戦略の下では、ソフトウェア会社は、一定の制限があるがフリーで利用できるソフトウェアと、商用配布権とより多くの機能を備えているが有償のソフトウェアを提供する。この戦略では、フリーでソフトウェアを利用するには条件が付く。たいていは、変更したソフトウェアを配布する場合にソースコードの公開が義務付けられたり、フリーバージョンを製品やソリューションのコンポーネントとして商品化できなかったりする。この措置によって、サードパーティが元のオープンソースソフトウェアのライバルとなるような製品を開発することが防止される。
通常、デュアルライセンス戦略は統合された1つのライセンスの形をとらない。2つのライセンスのどちらかを顧客が選べるようにするビジネスポリシーである。2つのライセンスとは、商用ライセンスと、たいていはGPL(General Public License)である。では、デュアルライセンスベンダにとって、料金をとらずにソフトウェアのライセンスを与える動機は何だろうか。フリーの選択肢があることは、さまざまな形で新しいビジネスにプラスに働く。顧客に製品の存在を知らせ、採用に踏み切らせるきっかけを広げたり、市場での競争力を強めたり、ユーザの裾野が広がることでバグの発見やソフトウェアの改善意見が増えたりする、といったことが期待される。
興味深いことに、デュアルライセンスを使用するとアプリケーションの開発とテストを痛みを伴わずに実行する道が開ける。開発者は、ややこしい契約の手続きをとらずに、ソフトウェアを試験プロジェクトで実地に試すことができる。ソフトウェアを内部的にフリーに使用できて、どこをどう変更しようが公開する義務がないことは、返金保証に優る好条件である。口うるさく管理される試用ライセンス供与に比べると、競争力の点で非常に有利だ。
一般に商用ライセンスでは、なんらかの単位に基づいて顧客に請求する必要がある。たとえば、MySQLデータベースを商用利用すると、サーバ単位で料金が発生する。MySQLの使用料は誰が払ってもかまわない。配布元が払ってもいいし、アプリケーションのユーザが払ってもいい。Sleepycatデータベースの商用ライセンスの場合、任意のプラットフォームで1つのアプリケーションに限って使用が認められる。大方のOEMライセンスとは違って、米Sleepycatのアプリケーション限定ライセンスは、OEMライセンスを選定し再配布するには便利で扱いやすい単位である。MySQLとSleepycatの両社は、サポートされる機能の数に応じて料金がスライドする階層式の料金体系を採用している。
デュアルライセンス戦略では、保守サービスを通じてコンサルタント料やトレーニング料を得ることで、従来の商用ソフトウェアモデルの補完的な収益源を提供する。デュアルライセンス戦略は、大きなユーザ基盤を獲得できる。フリーソフトウェアが、多数ダウンロードされ、高い知名度を得ることは珍しくない。それとは対照的に、実に多くのソフトウェア会社が、合わせれば数10億ドルにもなる費用をこれまでに(そして今なお)投じ続け、ようやく一握りの顧客(対価を払った顧客とまったく払ってない顧客を含め)しか獲得できないといった現状がある。デュアルライセンス戦略は、市場に堅固な地位を築くための強力な武器となる。たなざらし状態のソフトウェアプロジェクトがある多くの企業やVCは、そういったプロプライエタリなソフトウェアのオープンソースとしての値打ちを──特に、既に収益を上げている事業により多くの見込み客を引き寄せる手段になるかどうかを──再評価してみてもよいだろう。
1999年にClay Shirkyは、ある記事にこう書いた。
30年前、この国のあらゆるIT部門は、カスタム製品の作成をビジネスとし、ソフトウェア業界はそれを前提として成長した。現在、オープンソースは、基本機能が無料で提供されるほぼ純粋なサービスモデルを提唱し、すべてのコストはカスタマイズに費やされている。
実際、1999年の米McKinsey Consultingの内部資料によると、エンタープライズソリューション費用の30%がライセンス料で70%が開発費である。2000年の米商務省のレポートによると、1962年以降、パッケージソフトへの投資額が全ソフトウェア投資額の30%に達したことはない。ということで、Linuxであろうとなかろうと、ソフトウェアライセンスが情報技術(IT)投資に占める割合は減少し、コンサルタントとサービスの占める割合が一貫して増加している。
オープンソースコンサルタント業の米10X Softwareは、MySQL、Apache、JBoss、Tomcat、Eclipseなどの代表的なオープンソースソフトウェアを対象にエンタープライズ統合コンサルタントを提供している。同社の顧客には、ミッションクリティカルなアプリケーションを実行する大手企業が含まれる。BEA Weblogicのようなプロプライエタリなソフトウェアからオープンソースのソリューションスタックにミドルウェアを移行するプロセスを改良し促進するため、JBossと提携を結んでいる。Red Hatによると、Linuxベースのソリューションの収益全体にLinux自体が占める割合は4%に過ぎない。顧客ソリューションを提供するには、ハードウェア、ソフトウェア、保守の統合が必然的に必要になる。ミドルウェア統合は、コンサルティングビジネスにとってうまみのある分野の1つだ。顧客アプリケーションのコンサルティングが顧客に最も近いベンダであるシステムインテグレータや付加価値再販業者(VAR)によって行われることは、ますます多くなっている。これらのベンダは、OSSの長所を理解し、これまでMicrosoft、BEA、Oracleと関係のあったVARや再販業者の目を幅広いOSSベースソリューションへと向けさせている。Red Hat、Novell、Sunが提供するLinux認定プログラムをよりどころにして、JBossはOSSに対する顧客の不安感を取り除いている。コモディティサーバ、Linux、OSSデータベース、Webサーバ、ミドルウェアがClay Shirkyの予測どおりに採用されれば、10X Softwareのようなシステムインテグレータは、提示するソリューションに含まれるライセンスコストをほぼゼロに抑え、低価格、高収益で最良の提案を顧客に提示できる。
Culpepperによると「サービスからの収益──保守とコンサルティングの両方からの収益──は、ライセンスからの収益に比例して増加する。20年を超えると、標準的なソフトウェア会社ではライセンスからの収益1ドルに付きサービスからは2ドルの収益が得られる。」
以下の表は、Novellに見られるこの傾向と、多くのOSS企業で採用されている年間契約戦略を示している。Novellは有力なLinuxディストリビューションのサプライヤであるSUSEを買収したが、その背景にこの戦略がある。この表には、Red Hat Linuxディストリビューションからの保守収益を急増させているRed Hatの業績も示した。NovellのNetWareとは違って、Red Hat Linuxディストリビューションはライセンス収益をRed Hatにもたらさない。しかし、Red Hatの保守収益は明らかにNovellの保守収益を上回るペースで増えている。SUSEを買収したおかげで、Novellは先細りのNetWare保守収益を、急成長を見せるLinux市場に基づく保守収益で補うことができる。また、200万台の老朽化したWindows NTベースサーバを、保守契約を含めLinux OSで更新するチャンスもある。
NovellとRed Hatのほかにも、年間契約モデルが利用されるオープンソース領域や市場は他にたくさんある。たとえば、米Covalentは、LAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)と呼ばれる定番の組み合わせのOSSを中心として年間契約とサポートビジネスを構築している。Sunは、StarOfficeと、開発者およびエンタープライズソフトウェアの多くを年間契約モデルで提供している。同社は、年間契約とメンバーシップが好まれることをよく知っているのだ。米Lindowsは、オープンソースデスクトップアプリケーションを集めた大規模なライブラリを1年間利用できる年間契約を提供している。米EJB Solutionsは、年間契約をベースとしてディストリビューションを100以上のオープンソースプロジェクトに提供している。
IBMのような企業が、あるいはどのような企業であれ、時間、エネルギー、開発者、コードをオープンソース組織に無償で提供するのはなぜだろうか。そこには戦略的な理由がたくさんある。IBMがそうするのは、標準の採用を促進し、膠着した市場にくさびを打ち込むためである。ある企業がオープンソースソフトウェアを独立した組織に寄贈する場合、その背後には、デファクトスタンダートと支持コミュニティがそのソフトウェアの周辺に集まることを期待する思惑がある。また、パトロン戦略を使うと、ソフトウェアスタックの特定の層をコモディティ化し、その層から収益を得ているライバルを排除することもできる。たとえば、IBMはLinuxの大物パトロン企業として、x86オペレーティングシステムをコモディティ化し、Microsoft WindowsやSun Solarisに支払うサーバ費用を除去することを目指している。そうすることで、クラスタ化、可用性、プロビジョニング、セキュリティ、管理ソフトウェアを通じてソフトウェアスタックの価値を高めるチャンスがIBMには訪れる。
パトロン戦略を成功させるには、パトロンがソースコード以上のものを提供する必要がある。また、リーダーシップと一貫性も欠かせない。Mozillaは、この点で失敗したプロジェクトの例だ。1998年1月、ブラウザ市場の60%を握っていたNetscapeは、Microsoftにシェアを奪われつつあった。1998年4月1日、Netscapeはソースコードを一般に公開した。後にこれがMozillaに姿を変える。明らかにMicrosoftは簡単な標的に狙いを定めた。Mozillaプロジェクトからのリリースは遅れ、バグが多発した。2004年1月には、Microsoftのシェアは95%に達し、Mozillaはシェア2%にまで没落した。ソフトウェアをオープンソースコミュニティに寄贈するだけでは、Netscapeブラウザの後継者を救うのに十分ではなかったのである。
Apache Webサーバも興味深い例だ。IBMは、社内に熱心な支持者がいたが社外ではほとんど支持されなかった自社Webサーバを断念した。当時、ApacheはWebサーバ市場で約50%のシェアを占めていたが、Microsoftが着実にシェアを伸ばしていた。IBMはApacheを採用することで、Microsoftにブラウザプラットフォームの覇権を奪われたNetscapeの二の舞を避けた。Apacheの普及にさらに拍車がかかり、現在ではWebサーバ市場の70%を占めている。IBMのパトロン戦略は、MicrosoftによるWebサーバ市場独占を阻止することに成功したのである。
IBMは、4000万ドルを費やして開発したEclipseコードをオープンソースとして公開し、統合開発環境(IDE)の枠組みを再構築した。EclipseはLinux、Java、またはWindowsをターゲットとする開発をサポートできるので、IBMのRationalツールを簡単に統合できる標準クロス開発プラットフォームがSunまたはMicrosoftのIDEに置き換わる見込みがある。
IBMは独自のソフトウェアを開発するためにEclipseを使用できるが、それを別としても、EclipseにはIBMの活動の場を大規模な開発コミュニティにまで広げる可能性がある。フレームワークをコモディティ化することによって、IBMは一連の開発ツールの付加価値を高めることができる。開発プラットフォームに高度に統合されたツールであれば、顧客はIBMにライセンス料を支払ってそのツールを購入するだろう。また、Eclipseはフリーなので、プログラマが教育の一部としてEclipseを学習する可能性が高い。Eclipse IDEを習得したプログラマは、IBMのRational製品ラインとして提供される堅牢なソフトウェアツールの終生の利用者になるだろう。IBMには、大学ライセンシングプログラムを通じてビジネス開発を追求することもできただろうが、そうはしなかった。代わりに、コンピュータサイエンスとエンジニアリング教育に関わる者ならどこの誰でも利用できるオープンソースソフトウェアに長期的に4000万ドルを投資した。Eclipseコミュニティグループのデータによると、Eclipseのダウンロード数は1日あたり10,000件を超え、450以上のEclipse関連プロジェクトが活動している。このような活動は、IBMのRationalツールの見込み客を生み出すだろう。しかし、他の大手ソフトウェアプロバイダと同様に、IBMはこのオープンソースソフトウェアがRational、Websphere、DB2、Notesなどの自社製品と競合しないように慎重に舵取りする必要がある。比較的近い将来に、オープンソースはそれらの領域を侵食し、IBMやその他の独立ソフトウェアベンダ(ISV)は付加価値を提供する別の分野を見つけることを迫られると予想される。
IBMは、どの領域のオープンソースを後押しするか検討に検討を重ねてきた。社内には、Open Source Steering Committeeという組織があり、多くのOSSイニシアチブを承認してきた。IBMのOSSイニシアチブは、明らかにデスクトップ分野よりもサーバ分野に集中している。その結果、IBMはSun Solarisオペレーティングシステムをコモディティ化し、データセンターでのMicrosoftサーバの採用を減速させることに成功した。ただし、Microsoft Officeのデスクトップ独占を打ち破ることにはまだ成功していない。
ほとんどの大手OEM(Original Equipment Manufacturer)とソフトウェアプロバイダは、パトロン戦略をある程度まで実行している。現在、HPは、自社製品の展開やカスタマイズに役立つツール、ユーティリティ、ソリューションを提供する60以上のオープンソースプロジェクトを支援している。また、SGIは、同社の得意とする高性能コンピューティング市場をターゲットとした多数のオープンソースプロジェクトを支援している。
2004年1月、Java Developer’s Journalのインタビューの中で、Scott McNealyは次のような予測を語った。
ソフトウェアライセンシングモデルとソフトウェア開発モデルは、徹底的に簡素化されるだろう。2003年は、多数の企業がサービスプロバイダモデルをようやく軌道に乗せた年だ。米Salesforce.com、eBay、Googleのような企業は、ソフトウェアビジネスに身を置いてはいるが、ソフトウェアを販売してはいない。利用させたり貸したりしているのである。2004年には、この分野の活動がさらに活発化する。同様に、2004年3月のOpen Source Business Conferenceでは、Tim O’Reillyが「オープンソースパラダイムシフト」と彼が呼ぶものについて論じ、「隠れたサービスビジネスモデル」を探すよう企業に提言した。その例として「GoogleとAmazonでは、Webアプリケーションとそのデータをプログラム可能コンポーネントとして扱うAPIが使用されている」と指摘した。
オープンソースビジネスモデルを見ていくと、サービスプロバイダがOSSから得られるものは明らかに多い。GPLライセンスソフトウェアを、制限なしに、変更したコードを公開する義務なしに、内部で利用できる。そのため、オープンソースを利用しても、競争上のリスクは皆無に等しい。GPLライセンスは、変更したコードに対する知的所有権の保持と秘匿を認めている。ソフトウェアを配布しない限り、変更したコードを公開する必要はない。オープンソースを使用することで、コストを抑制でき、なおかつ高度な信頼性を備えたエンタープライズ品質のサービスを入手できる。
たとえば、2003年6月に、Salesforce.comのCTO、Dave MoellenhoffはオープンソースのEclipseとLinuxを利用していることをLinuxPlanetに明らかにした。アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)であるSalesforce.comは、月単位のユーザ年間契約モデルに基づいてネットネイティブの顧客関係管理(CRM)アプリケーションを提供している。金融アプリケーションとCRMアプリケーションを提供する別のASP、米NetsuiteもOSSを積極的に利用してサービスを顧客に提供する企業である。
Amazonを見てみよう。同社の売り上げは、毎年数10億ドルに達する。AmazonはOSSの大口ユーザだ。AmazonのSECファイリングに関する数年前のCNETの記事によると、「コストの安いテクノロジインフラストラクチャを利用するLinuxベースのテクノロジプラットフォームに移行することで」数百万ドルが節減されたという。
GoogleがLinuxとコモディティサーバを使用して達成したコスト削減はさらに大きく、サーバインフラストラクチャのコスト削減は数百万ドルに上る。Google創立者の1人Sergey Brinは、2002年のLinuxWorldで行った基調講演の中で、Googleが10,000台を超えるサーバでLinuxを稼動させ、スピードと正確性で有名な検索サービスを通して広告収入を得ていると述べた。うわさによると、現在Googleでは100,000台を超えるLinuxサーバが稼動しており、このサーバインフラストラクチャを単なる検索をはるかに超える用途に活用することが計画されている。
2002年のComputerworldでは、IT化のリーダー的存在である金融サービス企業がLinuxサーバの配備を急速に進めていると報告された。代表的な例が米E-Tradeで、同社はインターネットを基盤とするオンラインバンキングとセキュリティトレーディングのサービスで成功を収めている。
こういった企業に共通するものは何だろうか。それは、OSSをITプラットフォームの基礎とするホストサービス企業だということだ。
Linuxは、組み込みシステム市場の半分以上で使用されるオペレーティングシステムである。TIVOなどのコンシューマ製品や、サーバから携帯電話までの大小さまざまなデバイスで利用されている。全世界で、多くの低コスト通信製品にLinuxの採用が急速に進められている。
Linuxを採用することで、実用性と拡張性を備え、最小限のコストですばやく実装できるプラットフォームをハードウェアベンダが入手できることはよく知られている。新しいプロジェクトを立ち上げるときに、ほとんど苦労せずに、Linuxを使ってデザインと実行可能性のテストを始められる。Linuxは汎用ハードウェアで動作するので、エンジニアリング、プロトタイプ、デモンストレーションのハードウェアコストは最小限で収まる。ハードウェアベンダは、このような長所によって節減される予算を、顧客にとって価値あるものを作る目的に回すことができる。
Red HatのCTO、Michael Tiemannは、2002年5月にLinux Devicesの論説で、ある技術戦略を提唱した。その戦略でキーとなるのは、プロプライエタリなオペレーティングシステムを置き換える単なる製品としてLinuxを使うのではなく、オープンソースをプラットフォームとして見ることだ。「Linuxを無料でライセンスできることは、状況をほとんどまったく変えない」と彼は言う。ハードウェアベンダは、Linuxを含む標準とコモディティをプラットフォーム戦略として利用するべきであり、実際に価値あるものを生み出すソフトウェアを開発することでこの組み合わせの地位を高める必要がある。たとえば、セットトップベンダが真にオープンなプラットフォームと標準を追求していたとすれば、この分野はもっと有力なビジネスになっていただろう。しかし、オープンソースを使えばただで手に入るソフトウェア機能を開発するために、相変わらず企業は資金を浪費している。こういった企業は、サードパーティのプロプライエタリなプラットフォームを購入したり、独自にプロプライエタリな開発プラットフォームを作成したりすることにこだわるが、そういったプラットフォームに際立った長所があるわけではなく、顧客に訴える魅力にも乏しい。
対照的に、Linuxなどのオープンソースソフトウェアが組み込み市場にもたらす価値は大きい。Linuxには組み込みシステムに適した技術的長所として、安定性、小さいフットプリント、ネットワーキングがある。IPv6の実装により、Linuxは多数の組み込みデバイスに対応できる。Linuxカーネルの安定性には定評があり、レイテインシは比較的低く、組み込みデバイスのハードウェア全般を扱う能力もある。組み込みアプリケーションに高度なリアルタイムパフォーマンスが要求される場合、LinuxカーネルをリアルタイムOS下でタスクとして実行することもできる。Linuxには、ドキュメントの整備されたデバイスドライバがある。大規模な支援コミュニティが存在し、多くのプロプライエタリベンダから提供されるサービスよりも充実した、すばやい対応が可能だ。embedded Linuxの開発ツールは、改良が進められている。
2003年12月、Business 2.0に、embedded Linuxとオープン標準の強力な潜在力を解説する記事が掲載された。Linuxをコモディティハードウェアで実行することで、ネットワークデバイス開発の米Neoterisは、付加価値ソフトウェアの開発に集中的に取り組むことができた。Neoterisは、機能の豊富な製品をライバルより数か月早く、より低価格で出荷した。この戦略は、2003年10月に明白な形で報われることになる。設立3年目のNeoterisは、米Netscreenによって2億6500万ドルの株式と現金で買収されたのである。
結論:進むべき道を決める
オープンソースビジネス戦略を適切に計画する方法はいくつもある。オープンソースは、収益カーブをより早く上昇に向かわせ、製品により高い価値を与え、ライバルの機先を制するための強力な武器となる。このコラムで紹介したビジネスモデルには、従来からの商用ソフトウェアとよく似ているものと、新しいサービスやビジネスを生み出すものとがある。Amazon、Google、Neoterisなどの例は、Linuxやその他のOSSが、厳密にはソフトウェアビジネスに属さない企業の飛躍的な成長や比較的短期間での黒字化にも役立つことを示している。
経営者は、オープンソースビジネス戦略を理解し、どれを採用するのが自社にとって都合がよいか判断する必要がある。投資家は、ポートフォリオに加える企業を評価するときに、このコラムで紹介したモデルを考慮に入れる必要がある。トレンドをいち早くつかんで手を打てば、競争に優位に立つことができる。このコラムが、ソフトウェア業界を根本的に変えるオープンソースビジネス力学を理解するための明快な序章となることを願う。
John Koenig──ソフトウェアビジネス、サービスビジネス、エレクトロニクス産業を対象とする経営コンサルタント企業米Riseforth, Inc.の創立者である。Fortune 500企業のGeneral ElectricとTektronixに勤務し、米Mercadoと米Myrioの創立に参加した。米nCUBEの顧問兼役員として6年間在籍し、その後、日本の大手ソフトウェア企業Zukenの現地法人で社長に就任した。連絡は、(650) 726-7775またはjkoenig@riseforth.comまで。