レビュー:StarOffice 7
StarOffice 7の新機能は、さまざまな面で使い勝手の向上に貢献している。Microsoft Officeフィルタは、完璧にはほど遠いものの、StarOffice 6よりも格段に改善されている。少なくとも、あてにならないテンプレート・システムとユーザーの無知が原因となって、Microsoft Officeの異なるインストール間で発生する悪夢のような書式に比べればはるかによい(どのオフィス・スイートにおいても、書式を確実に保持したければ、ドキュメントをPDFかPostScriptに変換することだ)。
FlashとPalm書式のエクスポート・フィルタやXMLエクスポート用のエディタなどの新機能は、オフィス・スイートよりも新しいテクノロジの台頭を印象付けている。その他の機能、たとえば右書きや縦書き(アジア系言語やヘブライ語向けバージョンを可能にした)は、OpenOffice.orgのローカライズですでに実現されていたものだ。MySQLのデータソースのサポート、Pythonスクリプティング、アクセシビリティのオプション、拡張されたヘルプ・メニューからは、StarOffice/OpenOffice.orgの開発者がユーザの声に耳を傾けたことがうかがえる。
これらの機能は、信頼性の高いコアの上に構築されている。StarOfficeにもクラッシュの可能性はあるが、限界点は他のオフィス・スイートよりも高いところにある。Microsoft Officeでは、ドキュメントのサイズが30メガバイトを超えるとクラッシュし、さらに、ファイルの破損が起きるおそれがある。一方StarOfficeは、私の経験上、マシンの仮想メモリとRAMの限界に達するまで安定性を保つことができ、ファイルが破損するのは非常にまれだ。万が一ファイルが破損した場合にも、ドキュメントのネイティブ形式が圧縮されたXMLファイルであることから、ファイルの内容を回復できることが多い。
パフォーマンス面のメリットとしては、まず、オフィス・スイート内の各アプリケーション間の優れたコネクティビティが挙げられる。これはおそらく、本来は別々のプログラムとして開発されたものを寄せ集めたのではなく、始めからいっしょに設計されたことによるものだろう。また、さまざまなデータベース(dBase、MySQL、Postgres、さらにはAccess)とも連動することができる。しかし、StarOfficeの最大のメリットは、インターフェイスとスタイルの使用という2点に尽きる。
インターフェイス
StarOfficeのインターフェイスは、親しみやすさと革新性の絶妙なバランスの元に成り立っている。まず、大部分のインターフェイスは、他のソフトウェアをお手本に作られている。例えば、新しいPDF Exportダイアログ(スクリーン表示、印刷、出版の3つのレベルから品質を選択できる)は、Adobe Acrobatのバージョン4.0で採用されている構造をまねたものだ。同様に、Templates and Document(テンプレートとドキュメント)画面はMicrosoft Officeの当該ウィンドウと非常によく似ている。記録された変更のAccept(許可)およびReject(破棄)画面も同様だ。さらに、FileメニューもMicrosoft Officeのメニューとそっくりだ。StarOfficeでもMicrosoft Officeでも、スペル・チェッカーがメニューの最初に表示されており、手動の書式設定の多くは、Formatメニューから行うことができる(Insertメニューで行うものもある)。
これらの類似点が幸いして、StarOfficeへの移行は簡単だ。私自身の経験から言うと、Microsoft Officeの一般的なユーザー(つまり大部分のユーザー)は、StarOfficeを使って午前中(コーヒー・ブレイクと早めの昼食を含む)を生産的に過ごすことができるはずだ。
この一方で、StarOfficeインターフェイスには革新的な部分もある。StarOfficeのオートパイロットはいずれも、Microsoft Officeのウィザードより気が利いている。また、Microsoft OfficeドキュメントおよびStarOffice 5.2ドキュメントを変換したり、各通貨をユーロに変換したりするバッチ・プログラムも革新的だ。しかし、最も強力なのは、Impress(StarOfficeのプレゼンテーション用プログラム)を起動したときに開始されるオートパイロットだろう。PowerPoint(Microsoft Officeのプレゼンテーション用プログラム)と同時に起動するウィザードでは、2つの選択肢がある。コンテンツを追加する前に、背景とレイアウトを選択するか、コンテンツタイプ、出力形式、各スライドの情報を選択するかだ。PowerPointウィザードを終了しても、プレゼンテーションのルックアンドフィールについての設定を行う必要がある。一方、Impressのオートパイロットには次のような項目が用意されている。
- 背景とコンテンツ
- スライドのデザインと出力形式
- スライドの進行方法(既定および自動)
- 名前や題名などの繰り返し情報
- 使用するコンテンツタイプのページ
Impressのオートパイロットを終了したら、プレゼンテーションの基本的な設定は完了だ。プレゼンテーションをより詳細に設定することもできるが、重要なのは、必ずしもその必要がないということだ。プログラムがどのように機能しているかを知らなくても、生産的に作業ができる。
レター、ファクスや標準のオフィス文書向けのオートパイロットはそれほど目を引くものではないが、いずれも非常に便利で、StarOfficeのサンプル・テンプレートが不要に思えるほどだ。
斬新なインターフェイスのもう1つの例は、StarOfficeに用意されたフローティング・パレットとプルダウン画面だ。私の知る限りでは、フローティング・パレットを採用したオフィス・スイートはStarOffice/OpenOffice.orgが初めてだ。StarOfficeのフローティング・パレットはNavigator(ドキュメント内の移動とアウトライン作成用のツール)とStylist(スタイルの適用と編集用のツール)だ。どちらも、小さなモニタでは邪魔に感じられるが、17インチ以上のモニタなら、NavigatorとStylistは構造や書式を重要視するユーザの時間短縮に大いに貢献してくれる。これらのフローティング・パレットは、フローティング表示させることも、StarOfficeウィンドウと一体化させることもできる。
プルダウン画面はフローティング・パレットほど多機能ではないが、同様に便利な機能だ。Galleryは、編集可能なクリップアートのコレクションで、編集画面の上部からプルダウンして、ドキュメントにグラフィックをドラッグアンドドロップするのに利用できる。クリップアートの多くはイラスト風のもので、ビジネス用途には不向きだが、非常に役立つものもある。たとえば、フローチャート・オブジェクトを使えば、StarOfficeをチャート・プログラムとして利用できる。また、クリップアートは自分で追加することができる。Data Sources画面では、データベースに格納されているアートに同じようにアクセスできる。どちらの画面も、使用しないときには隠される。
スタイル
StarOfficeで実現されたもう1つの革新性は、スタイルの強化だ。オフィス・スイートと呼ばれる製品は、いずれも文字と段落のスタイルを使用している。オブジェクト指向プログラミングの継承と同じく、スタイルでは、書式をその場で定義および編集して、すぐにドキュメント全体に適用させることができる。
StarOfficeはこのスタイルの概念を他の部分にまで拡大した。StarOffice Writerでは、ページ、フレーム、リストにスタイルを適用することができ、単なるワープロソフトとしてだけではなく、初級から中級のデスクトップ・パブリッシャとしても利用できるようになっている。同じく重要なのが、スプレッドシートのセル、ドローイングやスライド・プレゼンテーションのグラフィカル・テキストと通常のテキストにもスタイルを適用できる点だ。スタイルの概念を拡張したことで向上した生産性は、StarOfficeにとって市場での武器となるだろう。
StarOfficeのルックアンドフィールはMicrosoft Officeとそれほど変わらないが、各機能は競合製品に負けるとも劣らない。MS Wordのユーザにとって、本当の意味でのテキスト・フレームや、壊れない自動リストやマスタ・ドキュメントは夢物語だが、StarOfficeのユーザは数年前からすでにこれらを利用できていたのだ。
StarOffice 7には文法チェック機能がないが、Microsoft Office 2003には、Adobe Acrobatなしで利用できるPDFエクスポート機能がない(StarOfficeにはある)。PowerPointにはImpressのグラフィック編集機能に匹敵するようなものはないし、ExcelにはCalcにあるような充実した関数のカタログがない。つまり、どちらに分があるかは、ユーザのニーズによって決まるということだ。
StarOffice対OpenOffice.Org:元は取れるか?
StarOffice 7はOpenOffice.org 1.1開発ツリーのスナップショットである。OpenOffice.orgのスペルチェッカとは別のスペルチェッカなど、プロプライエタリなコードもわずかに含まれているが、主な違いはStarOfficeに用意されている次のような特長だ。
- タスクバー、ファイル・マネージャ内のStarOffice関連ファイル用のカラフルな独自アイコン
- 9つのプロプライエタリ・フォント(Arial NarrowやGaramondなどのメジャーなフォントも、Palace ScriptやBroadwayなどのマイナーなフォントも用意されている)
- 60日間の設定サポート
- 482ページのマニュアル(基本機能の解説とチュートリアル)
- WriterとImpress用の充実したテンプレート
これらの点が価格に値するかどうかは、ユーザのニーズ、予算、哲学によって決まる。StarOffice 7.0の小売価格は80ドルで、150人のユーザがいれば1人50ドルだ。Educationバージョンは無料(パッケージと配送は有料)。ライセンスはマシン1台ではなくユーザ1人に与えられ、1つのユーザ・ライセンスで最大5台の個人用マシンにインストールできる。StarOfficeの価格とライセンス条件は、他の商用ソフトウェアに比べればはるかに寛大だが、OpenOffice.orgのようなフリー・ソフトウェア・プロジェクトとは比べるべくもない。
さらに、StarOfficeの追加機能(またはそれに準ずるもの)の多くは、インターネットからのダウンロードによってOpenOffice.orgでも利用できる。たとえば、OO Extrasでいくつかテンプレートが提供されているし、ちょっと検索すれば何百もの無料フォント(品質には幅があるが)が見つかる。同様に、StarOfficeのマニュアルはSunのWebサイトで入手できる。また、OpenOffice.orgのサイトには、FAQや他のマニュアルへのリンク、ユーザからの質問に答えるディスカッション・リストが用意されている。オフィス・スイートに使う予算があるのなら、StarOfficeではなく、Solveig HauglandとFloyd Jonesの著書『The OpenOffice.org Resource Kit』に投資した方が賢いだろう。
しかし、多くの人にとって、最大の関心事はライセンスだろう。OpenOffice.orgは、LGPLとSISSLの両方でライセンスされている。プロプライエタリ・ソフトウェアであるStarOfficeが存在できるのは、この二重ライセンスのおかげだ。オープンソースの支持者にとっては、StarOfficeの拡張機能は、このソフトウェアが哲学的な意味でフリーでないという事実を変えるのには十分でないだろう。旧来の管財部門では、プロプライエタリ・ソフトウェアの方が安心できるかもしれない。ライセンスはその背後に企業が存在することの証だからだ。
いずれにしても、これらの議論はもっともなように思える。OpenOffice.orgはそのオフィシャル・サイトから1900万回もダウンロードされている。このソフトウェアは自由に配布できるので、このダウンロード数から見積もると、6000万から8000万のコピーが存在することになる。一方、正式な情報ではないが、StarOfficeのライセンスは5000万売れたという。これは、Sunが中国と技術支援の合意に達したという最近の発表よりも前のことだ。これは、その歴史が2年(オープンソース採用後のリリースであるStarOffice 6.0とOpenOffice.org 1.0以降)にも満たないソフトウェアにとっては大変な数字だ。知名度さえ上がれば、StarOfficeの本当の競合製品はMicrosoft Officeなどではなく、自らの影、OpenOffice.orgになるだろう。
Bruce Byfield:Stormix Technologiesのプロダクト・マネージャとProgeny Linux Systemsのマーケティング/コミュニケーション・ディレクタを歴任。Maximum Linuxの寄稿編集者を務める。OfficeOffice.org関連の書籍を執筆中。