インタビュー:Alex de Landgraaf(Morphix創始者)
Morphixはまだ実験段階だが、人気は高まってきている。MorphixのISOイメージには、ローエンド・システム向けのXFCE4ベースのものから、よりハイエンドなデスクトップ向けのGnome 2.2やKDE 3.1、そして、ゲーマー向けのゲーム用ISOなどがあり、用途に合わせて選ぶことができる。
Prakash Advaniが、Morphixプロジェクトの創始者であり、管理者も務めているAlex de Landgraafに電子メール・インタビューを行った。Alexは、アムステルダムのVrije Universiteit(Free University)で人工知能と情報科学を学ぶ21歳の学生である。彼が好きなのは、コーディング、Debian、ゲーム、ビール、音楽、そしてまたビールだという。一方、彼が嫌いなのは、バグ(生きている虫も、自分が作り出すものも)、視野の狭い人々、度を超した新鮮な空気だそうだ。
Morphixプロジェクトを始めたのはいつですか?そして、その動機は?
2002年12月ごろ、Knoppixをいじっていて、knoppix.netにもよく参加していました。私はオランダ語版の軽いディストリビューションを作ろうと考えていたので、KnopNLというリマスター版を持っていました。当時(現在もですが)、Knoppixを基にしてオリジナルのディストリビューションを作ろうという活発なコミュニティがあったのですが、みんなが「Knoppixをスリムに」しなければならなくなっているのを何度も目にしました。また、Knoppixに加えられた変更を統合するのに必死で、役に立つ機能を追加するのもままならない状態でした。 kixという、かなり軽量の変形版はありましたが、私はもっと小さなものが欲しいと思っていました。そこで、モジュール式の設計でlive CDを作ることを思い付いたのです。これなら、変更を反映させる必要がないので、リマスター版を作る際に、自分の作業だけに集中できます。このようにして、KnoppixからMorphixが生まれたのです :)
Knoppixをベースにしようと考えたのはなぜですか?
うーん、live CDのLinuxといえば、Knoppixだったからですね。Knoppixは完璧に近いハードウェア認識機能を備えているので有名ですし、しかもDebianベースです。これ以上の完成度は難しいと思えるほどです。でも私たちも最善を尽くしていますよ!
Debianベースであるメリットは何ですか?
やはり、パッケージ管理がまともであることですね :) 個人的には、何かいいアイデアが見つかるのではないかと思い、ほかにもいろいろなディストリビューションを試しています。でも結局は、1万ものパッケージが利用可能で、数秒でインストールでき、依存関係を(ほとんど)完璧に処理できるというのは、あまりに理想的すぎますね :)
MorphixのバイナリがPentium向けに最適化されていないのはなぜですか?
カーネルはi486 PC向けに最適化されています。標準のパッケージは一切最適化されていません。PC向けの最適化というものは大して役に立たない(live CDを実行する場合はなおさらです)というのは誰もが知っていることですから、最適化を行う代わりに、コーディングをしたり、ビールを飲んだり、いろいろ楽しいことができたほうがいいですよね ;)
MorphixとKnoppixの主な違いは何ですか?
Knoppixは、レスキューCDや、Linuxのデモンストレーション用CDとしての役割が大きいですが、Morphixは、独自のlive CD作成を支援するためのものです。主な違いは、Morphixがモジュール式の設計になっている点ですが、ほかにも、新しいカーネルやパッチ、さまざまなパッケージを試していることや、Debianライクな、できる限り簡単なインストールが実現できるよう工夫していることも、違いとして挙げられるでしょう。
Knoppixもモジュール式のシステムに移行することが決まりましたが、それでもMorphixの人気は維持できると思いますか?
Knoppixが本当にモジュール式になるなら、Morphixよりも優れたデザインを期待しますよ。Morphixを超えるものが出てきたら、2つを統合させることができるかもしれないし、少なくともモジュールに互換性を持たせることはできます。
実際のところ、「Morphixの人気が持続するか」ということよりも、「KnoppixはMorphixになるのか」ということの方が重要です。Knoppixチームと私はいくつかの問題について協力してきましたが、この2つがすぐに統合されるとは思いません。Morphixが時代遅れになって、意義がなくなれば、当然姿を消すことになるでしょう。しかし、状況はその逆で、今のところMorphixは生き残っていけそうですよ :)
最新のリリースであるMorphix 0.4の特徴は?
大量のバグフィックス、数多くの新しいミニモジュール、これまでミニモジュールとして利用可能だったQ3AとUT2003に代わって、Gameバージョンに「Enemy Territory」が収録されたこと、新しいバグの山(ほとんどは私の責任です。ありがたいことに、ベータ版のユーザたちが次々にバグを見つけたり、直したりしてくれています)、LightバージョンとGameバージョンに「Firebird」が収録されたこと・・・と、数え上げればきりがありませんが、忘れてはいけないのが、bootsplashスクリーンです(bootsplash.orgには本当にお世話になりました)!
Knoppix以外に、Morphixが参考にしたものはありますか?
今まで使ったことのあるすべてのディストロを参考にしましたよ。いや、本当に、いろいろな人の話を聞いて、何か新しい機能やアイデアがあると知れば、片っ端から試してみました。問題は、実装できなかったアイデアがあまりにも多く、それらに対応する時間が圧倒的に足りないということですね。私は古いMac OSを主に使っていたので、Morphixの最終目標(作業を簡単に行えるということ)として頭に描いているのはMac OSです。でも、Windowsの機能の中にも、検討の価値があるものはあると思っているので、それらが実現可能かどうかを今後考えていくことになります。UIのデザインに非常に興味があるので、時々、1つのディストロで満足できるかどうか疑問に思うことがあります。でも、今のところXFCE4に不満はありませんよ :)
Morphixからフォーク(派生)されたディストリビューションはありますか?
Morphixはできるだけフォークしやすいように作ってあります。そのために作られているといってもいいくらいです。Morphixをベースにしたディストリビューションはたくさんあり、Morphixに近いものから、そうでないものまで様々です。今後数ヶ月間でもっと多くのフォークが誕生することを期待していますし、フォークされたモジュールを簡単にダウンロードできる方法があるといいと思います。いま、モジュールの管理者たちによるコミュニティを作ることを考えていて、計画は順調に進んでいます。
現在までにMorphixは何回ダウンロードされているのですか?
4万?6万?8万かな?分かりません。sf.netからは4万回程度ダウンロードされていると思いますが、DistroWatchなどのように、各ファイルに直接リンクしているものはカウントされていないかもしれません。バージョン0.3-5以降は、sf.netだけでホスティングされています。
Morphixを採用している大企業はありますか?
聞いたことがないですね、ありがたいことに。バグだらけなのは少しずつ改善されてきていますが、それでも、Morphixは大きな組織向けのフル・プラットフォームとはいえません。最近、Debianのサブ・プロジェクトとしてDebian-NP(non-profit:非営利)が立ち上げられましたが、彼らはMorphix/Knoppixベースのシステムを配布するつもりのようです。これがどんな展開を見せるかは非常に興味のあるところです。ワークステーション側ではMorphixは問題なく動きますが(もちろん、まだやらなければならないことはありますが)、手軽に配備できるようになるには、サーバ向けディストリビューションも必要でしょう。2種類のlive CDですぐにネットワークがセットアップできたら、素晴らしいですね :)
CD起動のLinuxディストロは今後主流になっていくと思いますか?
もちろん。そうでなければ、Morphixプロジェクトを始めることもなかったでしょう :) Knoppixの人気を見れば、説明は必要ないと思います。live CDはすばらしいシステムで、そのへんのRed Hat CDよりもずっと便利です。手軽で、簡単に使うことができ、配布も安価ですみます。また、インストールが簡単であれば、ハードディスク用ディストリビューションとしても利用できます。中には、7枚のCDを取っかえ引っかえするのが苦にならない人や、scratchでシステムを構築したいという人もいるでしょう。それはもちろん素晴らしいことですが、誰かさんがGNU/Linuxを方向転換してくれれば、マシンを起動してCDを挿入するだけですむようになります。素早さという点に関しては、インストールが必要なディストリビューションはlive CDに絶対にかないません。しかし、柔軟性の面では、インストールが必要なディストリビューションに軍配が上がります。Morphixはハイブリッドなので、最終的にどのような形で利用するかをダウンロード時に選択できます。
これによって、デスクトップでのLinuxの採用は進むと思いますか?
GNU/Linuxの取っつきにくさは改善されるでしょうね。でも個人的には、OpenOffice.orgやEvolution、Mozillaなどのプロジェクトの方が、多少影響力が強いのではないかと思います。手を煩わせるだけの価値があり、ちゃんと機能してくれれば、ユーザはインストールする手間を大目に見てくれるでしょう。live CDは、インストールという作業を強要するとどうなるかを誰かさんに思い知らせる存在かもしれません。