浸透するオープンソース

オープンソースソフトウェアについては、ここ数年間に非常に多くのことが語られてきた。そのため、オープンソースソフトウェアはすっかり飽和状態になっていて、そろそろ「次のトレンド」に移る時期だろうと考えている人もいるかもしれない。

しかし、今まだその時期ではないし、我々はオープンソースの可能性の限界に近づいてすらいないのだ。どうやら、オープンソースにはいくら期待してもしすぎることはないらしい。

オープンソースの主なメリットの1つは、よく喧伝されていることだが、それを利用すれば企業は大きな労働力を無料で(つまり給料を支払わずに)手に入れられるという点だ。何千人という開発者たちが、たいていはそれぞれの雇用主から各自の活動に対する直接的な報酬をもらわずに、Linux、JBOSS、Open Officeなどを共同開発している。このプロセスにおいて、HP、IBM、Novell、Red Hatなどの各社は、この優れたフリー/オープンコードを動かすハードウェアや、その上で(またはそれと協働して)動くソフトウェアを開発するという特典を得ている。

しかし、これはオープンソースが企業にもたらすメリットの1つにすぎない。これはおそらく最もわかりやすいメリットではあるが、最も興味深いものではない。私の考えでは、もっと重要なメリットとは、オープンソースによって企業――ITベンダ企業でもエンドユーザ企業でも――に多様な意見やアイデアが持ち込まれることである。

個人的な例になるが、私は約1年前の2002年7月にNovellに入社した。あまり実感されていないことだが、Novellは毎年10億ドル以上の収益を稼ぎ出している。これはつまり、同社が正しいことをしているということだ。そうでなければ、顧客がお金を出し続けてくれるはずがない。

しかし、Clayton Christensenの有名な『The Innovator’s Dilemma』(邦訳:『イノベーションのジレンマ』)で指摘されているとおり、まさにこの成功ゆえに、Novellのような企業が変革を忌避する体質になってしまうことがよくある。既存の顧客を満足させるよう努めている間に、井戸が干上がり、企業が崩壊してしまうというパターンだ。Novellは優れた技術を開発しており、この1年間に私が一緒に仕事をした人々は、彼らが保ち続けている技術力の優秀さを大いに誇りにしている。彼らはこの「伽藍」に閉じこもり、自分で自分を褒め、顧客のために優れた製品を開発することにひたすら集中している。

正直言って、私が昨年7月に入社したときのNovellは、ただそれだけをしているように見えた。私は、Novellに移る前は組み込みLinuxで有名なLineoに所属し、オープンソースのための実行可能なビジネスモデルを探すことに常に精力を傾けていた。つまり、オープンソースの概念と実践の最先端にいたわけである。Novellはそれには程遠い環境だったので、最初の6ヶ月間は非常にストレスのたまる日々だった。

しかし、状況は変わった。ある変化が起こり、それが良い結果をもたらした。その「変化」とはオープンソースである。

好むと好まざると、オープンソースは企業に入り込んでくる。それが急速に浸透するか、徐々に浸透していくかは企業の受け入れ態勢による。Novellの場合は、最初は私が入社するずっと前からオープンソースがじわじわ入り込んできていた。Brad NicholesのようにApacheに積極的に協力していた人もいたし、Dale Oldsのように一度はNovellを去ってLinux/オープンソース関連の企業(Daleの場合はTurbo Linux)に入社し、新しいアイデアと、古いやり方への抵抗感を持ってNovellに戻ってきた人もいた。その影響が生え抜きの社員たちに現れ始めていたときに、Chris Stoneが副会長に復帰した。彼の復帰は、火薬庫のマッチのようなものだった。

Novell内に起きた爆発は、きわめて前向きなものだった。Ximianの買収や、その他のLinux関連の動きが示すとおり、Novellはオープンソースを受け入れ、オープンソースの開発と研究に真剣に取り組んでいる。これまでの実績に満足してあぐらをかく代わりに、さらに前へ進み、日々変化するソフトウェア界において新しい領土を開拓しようとしているのだ。オープンソースは、過去の実績を手放さず、それに基づいてさらに発展するための方法をNovellにもたらした。NetWareは生き残っただけでなく、より優れた製品となり、顧客にさらなる選択肢を提供することになった。

新顔の私から見れば、このNovellの変化は、オープンソースの「破壊的」な性質がなければ起こらなかっただろうということは明白である。企業としてオープンソースを採用しないという選択をすることも可能だが、それが従業員のコンピュータに入り込んでくることは防ぎようがない。扉に鍵をかけ、新しいアイデアを締め出そうとしても、メーリングリストやニュースグループ、あるいはオープンソースコミュニティのその他のツールを通じて、従業員はオープンソースに感化されるだろう。そして、それは正しい方向だと思われる。

つまり、従業員が何らかの方法で「バザール」に参加することは防止できないし、そうするべきでもない。扉を閉ざさず、光を採り入れよう。この必然を受け入れれば、企業内の空気もより活発で、活気にあふれたものになるだろう。Novellがその実例だ。この前向きな「建設的破壊」が、我々の行動の仕方やソリューション開発に大きな影響を与えている。

Matt Asay ― オープンソースソフトウェアをお金にする画期的な方法を考案することにキャリアの大半を捧げる。組み込みLinuxであるLineoのネットワーク/通信ビジネスの統括マネージャを務め、LineoからNovellへの移籍後は、NovellのLinux/オープンソースソフトウェア戦略の計画を担当。スタンフォード大学で法学博士号を取得。大学ではLarry Lessigと共にGPLおよびその他のオープンソースライセンスの研究に取り組む。