LinuxとWindowsの攻防

ミュンヘン市議会にとって、LinuxはWindowsより少なくとも380万ドルは価値のあるオペレーティングシステムということになる。市が所有する1万4000台のデスクトップコンピュータをWindowsからLinuxに移行し、主要アプリケーションを入れ替え、トレーニングとサポートを実施する──これにかかるコストが締めて380万ドルというわけだ。

しかも、今回のこのLinuxへの移行は、議員投票の結果50対30という大差で決定されたものだ。この事実を突きつけられてもなお、「一部の人々の間でLinuxがWindowsより好まれているのはそれが無償で配布されているからに過ぎない」と考える人物がいるだろうか?

ミュンヘン市議会が下した今回の決定は、IT専門誌では大ニュースとして扱われ、一般業界やマスメディアの間でもある程度の注目を集めた。しかし、MicrosoftがSuSE/IBMベースのオファーより低い見積もりを出し、それでも契約更新に失敗したという事実は、ほとんど無視されているに等しい。

事のいきさつは、USATodayの記事を読んでもらえばわかる。以下に核心部分を掘り出してみよう。

既存のWindowsとOfficeスイートをすべて最新バージョンに交換するというMicrosoftのオファーはコスト面でも技術面でも競争相手をしのぐものだったと、ITコンサルティング会社Unilogは分析している。にもかかわらず、SuSE/IBMが勝利したのは、「そのオファーがミュンヘン市議会の掲げた戦略に合致していたからにほかならない」(Uniog社プロジェクトマネージャ、Harry Maack氏)

同市議会は、市のコンピュータに高いフレキシビリティを持たせ、それが長期的に見て市の利益になればよいと考えていた。そこでUnilogがあえて購入を勧めたのが、Microsoftの標準アップグレードパッケージ(3660万ドル)よりも高いLinuxパッケージ(3950万ドル)だったのである。

「コスト面、技術面ではMicrosoftがリードしていたがその差はわずかなものだった。一方、戦略面では明らかにオープンソースがリードしていて、Microsoftはその大きな差を埋めることができなかった」(Harry Maack氏)

自由の獲得

ミュンヘン市議会が最終決断を下すまでのいきさつを調べると、特定のベンダーの支配から逃れ自由を獲得することが彼らにとって重要だったということがわかる。そして、彼らが考える自由とは、はるか彼方の外国企業のペースに乗せられるのではなく、自らのペースでシステムをアップグレードすることなのである(もちろん、Windows NTのサポート停止を表明したことでMicrosoftが墓穴を掘ったことは言うまでもない)。

ミュンヘン市議会はFree Software Foundationの基本路線を、得体の知れないネオヒッピー思想などではなく、同市に利するものだと判断した。つまり、Free Software Foundationの思想は、長期的に見て最大の利益を納税者に還元することのできるIT投資ガイドラインとして、現実主義の為政者から迎えられたのである。

Steve Ballmer自らが市に乗り込もうと、Microsoftがドイツの行政当局に大幅値引きをちらつかせようと、自由を愛するミュンヘンの現実主義者たちが翻弄されることはなかった。

彼らの慧眼に心より敬服する。

ヨーロッパの戦況

Linuxへの移行に踏み切ったドイツ第三の都市の英断に、Linuxの下に集うパルチザンたちは大いに沸き立っている。その一方で、Linuxを標榜するWebサイトでは大きく伝えられてはいないが、フランクフルト(ドイツ)、リガ(ラトビア)、トゥルク(フィンランド)の3都市が最近、Microsoftと契約を交わしている。

つまり、ヨーロッパの自治体で使われているデスクトップマシンに関しては、Windowsが3勝1敗で優位に戦いを進めていると言える。

しかし、戦友諸君、悲観する必要はない。Linuxはヨーロッパの自治体におけるシェアを0%から25%に拡大することができたのだという見方もできる。その拡大ペースは驚くべきものだ。そして、ミュンヘンの勝利ではもう1つ驚くべきことがある。それは、Linuxが初めてコスト以外の観点から主要ユーザに選択されたという事実だ。