古典的なソフトウェア窃盗の隠れた意義(?)

今日のソフトウェア市場で勝利を収めている数々の企業は、少々後ろめたい秘密を抱えている。それは、ソフトウェアの不正コピーが各社製品の販売サイクルに一役買っているということだ。

たとえば、PhotoShopのような高度なアプリケーションの一般的な購入サイクルは次のとおりである。まず、友人や同僚、あるいはインターネットからソフトウェアのコピーを入手する。次に、そのソフトウェアを試し、使い方を覚え、そのソフトウェアなしではいられないようになり、最終的に製品を購入する。つまり、既に持っている不正コピーを「合法化」するわけだ。

おそらく、PhotoShopの製品版を自分用に購入しているPhotoShopユーザは全ユーザのうち5%もいないだろう。私はPhotoShopを個人で購入したという人に今まで会ったことがないが、おそらくどこかに存在してはいるに違いない。PhotoShopを覚えた人の中で、自分用の製品版を購入している人がたった5%しかいないならば、残りの95%は一体どこで使い方を覚えたのだろうか? 学校や、前の仕事場、トレーニングコース、終業後のオフィスのマシンなどで覚えた人もいるだろうが、大半は自宅の自分のコンピュータ上で、人から「借りた」またはダウンロードしたソフトウェアを使ったものと想像される。

つまり、アプリケーションを十分に試す機会をユーザに提供するために、企業はユーザに製品をコピーさせる必要があるのだ。

では、デモ版では不足なのだろうか? 機能が限定されているデモ版では、アプリケーションの機能を十分に学ぶことはできない。保存ができなかったり、他の機能が制限されていたりするデモ版では、結局は何もできないのだ。試用期間が制限されているアプリケーションも、やはり無意味である。なぜなら、PhotoShopのような複雑なアプリケーションの使い方を覚え、それなしでいられなくなるほど使い込むためには、たった30日では足りないからだ。

Adobeをはじめ、多くのソフトウェア企業は、ソフトウェアの不正コピー防止対策に莫大なエネルギーを投じている。しかし、たとえAdobeが公式に認めていなくても、同社はある意味で不正コピーに負っているのだ。同社の価格戦略はこのことを反映している。PhotoShopを使ったことがなければ、それを購入するよう会社に働きかける人がいるはずもないし、1本699ドルもするのでは、個人的にPhotoShopを買おうとする人はほとんどいないはずである。

急いで付け加えておくが、私はソフトウェアの不正コピーを正当化しようとしているわけではない。ここで問題にしたいのは、人々が不正コピーを行うときに持ち出す屁理屈ではなく、不正コピーが企業と顧客の間にもたらす本質的に機能不全的な関係についてである。公平に言って、Adobeは現在の状況を問題視している。もしも不正コピーがもたらすメリットを数学的に証明できたとしても、同社はそれに反論するだろう。他の企業各社はもう少し計算高く、自社の製品が市場を支配するまでは不正コピーを黙認し、その後は販売額を増やすために取り締まりを厳しくすることだろう。

顧客を犯罪者にする可能性なしにソフトウェアの販売額を増やすもっとよい方法はないものだろうか? 我が社では、当社製の開発ツールに二重ライセンスを適用することを検討している。つまり、このツールをGPLの下で使用してオープンソースアプリケーションを開発するか、商業ライセンスを購入して商用のクローズドソースアプリケーションも開発できるようにするか、そのどちらかを顧客に選択させるのだ。

このような契約でどうやって儲けを得るのかを人々に理解させるのはなかなか難しいが、「無料コピーの使用から購入へ」という流れを説明すると、たいていはすぐに納得してもらえる。つまりこれは、まずはソフトウェアを自由に使わせ、実際の成果物を作るときには料金を支払ってもらう、という方式なのだ。この方式は我々自身の経験に一致している。自分のハードディスク上の不正コピーを「合法化」するために製品版を購入した経験が一度もない人はほとんどいないだろう。

二重ライセンスは、ユーザへの対処法という点でも真っ当な方法である。この方法を採用すれば、本当はユーザにソフトウェアをコピーしてもらう必要があるのにユーザの不正コピーを責めるという矛盾が解消される。また、ユーザを悪者にせずに済み、企業とユーザとの間にしばしば生じる不必要な敵対関係を避けることができる。この方法は、ツールを心ゆくまで試す機会をユーザに与え、結果的に、忠実なお得意様と企業利益の獲得につながるものと言える。

John O’Sullivan ― オープンソースアプリケーション/開発ツールの作成を手がけるHotsprings Inc.(在トロント)の販売、マーケティング、製品管理を担当。同社のテクノロジは、Hotline Connectの開発元でP2PアプリケーションのパイオニアであるHotline Communicationsから買収したもの。