ソフトウェア開発者は「オープンソース」的な労働組合を作れるか

ソフトウェア開発者の間で労働組合のような組織を作ろうという動きはこれまでにも何度かあったが、うまくいったという話は聞いたことがない。シアトルでWebデザインの会社を経営するIan Lurie氏は、「昔ながらの『産業別組合』を作ろうとするからうまくいかないんです。プログラマのニーズに合っていませんから。新しい発想が必要です。産業が生まれる前、クラフトギルドというのがありました。あの考えを土台にして『オープンソース』的な組織にしたら、出入りの激しいIT業界の人たちの生活をよくできるかもしれません」と力説する。Lurie氏は、昔ながらの大手労働組合から資金援助を受けて活動している。ただ見果てぬ夢を見ているわけではないのだ。今、IT業界は順風満帆ではない。職を失ったプログラマやシステム開発者たちが大勢いる。職探しの助けとなり、労働組合の恩恵を受けられる団体があれば、そうした人たちが喜んで加入する可能性は十分にある。

Lurie氏の活動を支援しているのは、International Association of Machinists and Aerospace Workers (AIM)という組合。AIMのWebサイトをデザインしたのがLurie氏の会社Portent Interactive だ。そして、Lurie氏とAIMが考え出したのがCyberLodge である。

CyberLodgeを立ち上げたのは、「私とAIMのCommunications Directorです」。「会社を経営して8年になります。ブームの中で生まれ『市場反落』を生き残ってきた中で本当に恐しい経営体験をしましたし、何度も海外の企業に仕事を持っていかれました。そこで私たちが下した結論は力の集結です。中規模以上のコンサルタント業者とソフトウェア/ハイテク企業が手を結べば、かなり影響力のあるロビー活動を展開できます。拠出できる資金も豊富です。ハイテク技術者はここぞというときに力を発揮しますが、全体的にまとまりがありません」

これに対しては次のような反応があるだろう。「ハイテク技術者はまとまらないでいるのが好きなんですよ」

「そのとおりです」とLurie氏はうなずく。そのうえで、「従来の労働組合はいろんな点で問題外」として次の点を指摘した。

  • 出入りが激しいため、ハイテク技術者が1つの「ユニオンショップ」に所属するのは難しい
  • ハイテク技術者を満足させる要因がない
  • 雇用者もCyberLodgeのような組織を求めている
「意見をうまく調整できなければなりませんし、その一方でハイテク技術者の今の働き方を崩さない柔軟かつ軽快な組織でなければなりません。そのバランスをどう保つかが大切です」

「いろんな人の話を聞くべきだとの思いから『オープンソース』という考えが浮かびました。オープンソース的な組織なら、ハイテク技術者が中心的となって組織を大きくしてくれるはずです」

CyberLodgeの活動は、Webサイト を開設することから始まった。Lurie氏によると、同サイトを訪れる人はひと月に10,000人を超えており、その数は今も着実に増えているという。コンテンツの中心は、IT関連の仕事が米国外に流れていくという問題のようだ。これは確かに米国のハイテク技術者にとって大きな問題だ。しかし、ハイテク技術者の労働組合がその問題にどう対処できるというのだろう。

「仕事が米国外に流れていかないようにするには、2つの戦略が必要だと思います。1つは労働力の活かし方を変えること、もう1つは大資本側の圧倒的な政治力を相殺することです。そして、こうした戦略が取れることを人々に気付かせる必要があります。それには、適切な規模の会員制組織が有効です。何も数万人規模の組織でなくてもかまいません」とLurie氏は説明する。

今のところ、CyberLodgeの会員数はゼロ。現時点では加入できないのだ。Lurie氏によれば、「今は、戦略の転換を図っているところです。ちょうどNOW(全米女性機構)のようにです。情報収集を終えて、会員勧誘のためのプロポーザルをまとめています」ということだ。

CyberLodge会員の大きな魅力の1つは、労働組合が資金提供する年金制の健康保険に加入できることだろう。AIMとコネがあるおかげだ。Lurie氏によれば、36歳のノンスモーカーの独身者の場合、標準的なプランの健康保険料は月に約120ドルになるそうだ。このプランは、「『バスに轢かれた』というような場合だけではない、標準的なヘルスケア向けの」災害保障である、という。

CyberLodgeの健康保険は、雇用者ではなく、被雇用者に「属する」。これは、さまざまな企業に出向する契約社員やコンサルタントにとって朗報だろう。まずはこうした人たちを対象に会員勧誘を進めていくことになりそうだ。

雇用者は、健康保険や401Kといった各種手当ての心配をすることなく、CyberLodgeの会員を雇うことができる。CyberLodge側が用意してくれるからだ。Lurie氏は、クラフトギルドが労働者に与えた見習い、職人、名人というような「称号」を技量や訓練や経験に応じて設定したいとも話す。たとえば、雇用者に「Javaプログラマの職人」を雇いたいと言われたら、その職種に実績のあるCyberLodge会員を紹介できるようになるのが理想だという。

「今後、教育と職業紹介がCyberLodgeの大きな柱となります」とLurie氏は語る。「雇用者と被雇用者をつなぐパイプ役になりたいと考えています。経験年数に基づいて会員を拒絶するつもりはありませんが、優秀な会員を揃えたいですね。Cyberlodgeの会員は会社に貢献してくれる優秀な契約社員・従業員だと雇用者に知ってもらうことが大切です」

ここで留意してほしいのは、Lurie氏は雇用者であって被雇用者ではないという点だ。Lurie氏も、「CyberLodgeを立ち上げた陰の動機は、私自身のために優秀な労働力を確保することです」と述べている。また、CyberLodgeの種をまいた分の対価をLurie氏(少なくとも氏の会社)が得ているという点にも注目したい。ただし、CyberLodgeに費やす時間の半分は何の見返りもなく、ボランティアと有給の仕事が「半々ぐらい」という。

「まじめな話、CyberLodgeを立ち上げたのは、被雇用者と同じくらい雇用者もCyberLodgeのような組織をいろんな意味で必要としていたからです。私がハイテク企業を経営しているせいもあります」

ここでまたふと疑問が沸いてきた。「Lurie氏の社員がみんなCyberLodgeに加入し、ストライキを決行したらどうするのですか」

「そんな心配はしていません。私は社員と一緒になって懸命に働いていますから。いい関係を築いていると思います。CyberLodgeもそうなるはずです」と、Lurie氏は応じた。