Mozillaを組織レベルで普及させるには

正式版であるMozilla 1.0がリリースされてから、早や1年。 この1年の間に、MozillaはLinuxユーザーは勿論のこと、Windowsや Macを使うごく普通のパソコンユーザーにも認知され、ある雑誌社選定 のベストソフト賞を戴くほどにもなった。 しかしながら、決してNetscape7/Mozillaのシェアがこの間に急激に 伸びたということは無く、まだまだMozillaの素晴らしさを広く知って もらうためには何かが必要なようだ。

「もじら組」では、Web ブラウザー Mozilla のコミュニティを 盛り上げるべく、毎年4月にMozilla Party Jpと題してイベントを 開催している。 今回はMozillaをより多くの人に使ってもらい、更に一般的に認知 してもらうためには、まず官公庁や企業でMozillaが使われていく 必要があるだろうという観点から、コミュニティの内外から パネリストを招聘して「Mozillaを組織レベルで普及させるには」 といったテーマでパネルディスカッションを行った。

パネリストは電子政府関連の仕事をされている富士ゼロックスの 田邉栄一氏、Webにおけるセキュリティ問題に詳しい 産業技術総合研究所の高木浩光氏、 Netscape/AOLより桃井勝彦氏、 そして「もじら組」から筆者の計4名。 勿論オープンソースコミュニティでのイベント故、 これだけのメンバーでありながら皆さんにはボランティアで参加いただいた。

果たして企業ユーザーにとって、 Mozillaの最大の「売り」は何であろうか。 タブブラウザなのでWindowを幾つも開かずに場所を取ることがないとか、 HTMLやXMLなどの標準仕様に準拠しているなどといったことは、 企業で使う上での決定的要因とはならない。 ごく簡単にMozillaが他のブラウザよりも優れていると思われる点を挙げると、 以下のようになる。

  • W3C等の定めるWebの標準、つまりオープンスタンダードに準拠しているた めに互換性が高い。
  • オープンソースなので、どのような仕様や実装になっているのかユーザー が理解しやすい。
  • ユーザー側にある程度の知識があれば、ソフト購入のコストがかからない。
  • 官公庁等、国家機密を扱う場合、特定企業の提供するアプリケーションに依存するのは、情報の守秘面(アプリケーションを通して開発メーカーに国家機密が漏れているかもしれない)と文書の保存面(10年後、20年後にも特定のアプリケーションで作成した文書が開けるかは保証されない)で危険性が伴う。 オープンソースであれば、ソースコードがあるのでそうした問題は回避可能である。(但しパスワードを付けて保存するといった芸当は、プレーンなテキストであるHTML/XML文書では出来ない)。
  • セキュリティ関連モジュールの充実
  • セキュリティホールの発見から比較的早い時期にパッチをリリースしてきている。
  • 多言語対応しているので、多国籍の従業員が勤務する企業でもPCを共有して使う等の用途に対応が容易である。
  • ユーザーインターフェースがXULで構成されているため、組織独自のカスタマイズが比較的容易。

確かに Mozilla が組織レベルで使用された状況を想定した場合、ビジネスの現場でも期待に応えられるだけの実力は備えているように思われる。 しかし、肝心なのは「もし組織で使われても使えるのか」ではなく、「組織で使って貰うにはどうすればいいのか」の動機である。 そうした視点でみると、贔屓目に見てもこれだけでは物足りないように思われる。

例えばあなたが社内のOA管理者だとしよう。 もしMozillaが他のブラウザよりもセキュリティホールが少なく、いちいち パッチを適用する機会が少ないとしたら、セキュリティ対策に余計な心配をする必要は減るのではないだろうか。 また、プロキシサーバーなどのネットワーク設定や社内のセキュリティポリシーに従って、ブラウザの設定オプションを予め決めた内容で全てのユーザーに同一の内容で簡単にインストールが出来るようなカスタマイズツールがあれば、管理者は楽ではないだろうか。

セキュリティホールについてはその問題の重要度や問題が起こりうる 可能性、問題自体が発生した数を具体的に比較するのは非常に難しい。 しかし、他のブラウザと比べても決して多くはないし、問題が見つかった時の対応は比較的早期に解決していると思われる。 カスタマイズについては、近いうちにかなり詳細な設定が出来るツールを Mozilla.orgが発表する予定だ。

それが営利法人であれ、非営利法人であれ組織において 最も関心があるのはコストの問題、いわゆるTCOであろう。 そして正にセキュリティ対策であれ、システム管理であれ、 或いは国家の情報戦略や様々なトラブル対応であれ、それらは全て TCOという観点で表されるものである。 実際にMozillaが他のブラウザよりもTCO 面で優れ、 そのことが認知されるならば、むしろインターネットに接続するために パソコンを購入したような個人ユーザーよりも、 組織で使われることでシェアが拡大していく 可能性のほうが遥かに高いのではないだろうか。

MozillaがTCOで他のブラウザよりも優れていることを証明するのは、 現時点での日本では難しいかもしれない。 例えばブラウザだけを変えても、それが動作するためのOSが 変わらなければ結局は管理コストは変わらないかもしれない。 また、日本では無償のオープンソースのソフトウェアを使って 自分で責任を負うよりも、却って有償でも責任の所在をメーカー に持たせられることを好むような日本の企業風土もある。 そうして考えると何らかのトラブルが起きたときに対応できる、 サポート窓口が有るのか/無いのかを含めてはっきりとしないのもマイナスだろう。

今回のセッションでは、われわれMozillaコミュニティにとって 大きな宿題が残った。 だが、Mozillaが組織でも使われていくだけの将来性が確実にあること だけは明らかに出来たようだ。