ヨーロッパにおけるソフトウェア特許と偽「オープンソース代表者」との関係
「オープンソース代表者」を自称するGraham Taylorは、オープンソースの普及に努めると謳っている、Open Forum Europeという団体の代表だ。Taylorは昨年、ヨーロッパ各地のさまざまな見本市に姿を現し、オープンソースに関してもっともらしい意見を述べてきた。Open Forum Europeは、IT Forum FoundationとInterForumの一部である。InterForumのメンバには、ヨーロッパにおけるソフトウェア特許に興味を持つ、多くの大企業が名を連ねている。また、Taylorのスポンサー団体は、EU政府と深いつながりを持っている。
私は、Taylorにはいままでのようにオープンソース・ソフトウェアを「布教」してもらって構わないと思う。しかし彼には、Linuxやオープンソース、そしてフリーソフトウェア開発者のコミュニティを代表する資格は「ない」のだ。オープンソース界がソフトウェア特許に強く反発している中で、それとは正反対の意見を持っているという時点で、その資格がないことは明らかだ。 Taylorはよく講演を行っていたが、実際のところは、オープンソースのプロジェクトや開発者と直接かかわりがあったわけではなく、また、この問題に関して、Free Software FoundationやOpen Source Initiative、Software in the Public Interestなどの団体と意見を交換したこともないようだ。 本当のオープンソースの代表者なら、開発者のコミュニティから了承を得ずに、政府に対してこのような立場を取ることは絶対にない。
米国とヨーロッパにおいては、ソフトウェア特許が、オープンソース・ソフトウェアに致命的な影響を与える可能性がある。ソフトウェアの配布によって利益を得ていないため、特許権者に対して使用料を支払うことができないからだ。 この場合、特許権者は、特許料の支払いを求める訴訟ではなく、オープンソース開発者に対して、ソフトウェアの配布や開発をそれ以上行わないよう求める訴えを起こす可能性が高い。プロプライエタリ・ソフトウェアを開発している企業は、このような訴訟を起こしてオープンソースを蹴落とそうとするだろう。
特許を認められているアルゴリズムがあらかじめわかっていれば、それを避けてソフトウェアを開発できることもあるが、オープンソース開発者は、特許権を侵害していると訴えられた場合(たとえそれが不当な訴えでも)、自身を弁護する手段がない。米国では、特許権侵害の裁判にかかる弁護費用は50万ドルを超えることもある。空き時間を利用して、個人で開発を行っているオープンソース開発者は、弁護費用を捻出できない。無一文にならないためには、訴訟の本案にかかわらず示談にするしかないが、自分が開発したソフトウェアの著作権は手元に残らないだろう。
オープンソース開発者が特に困るのは、利用料が発生するソフトウェア特許が、業界標準に含まれてしまっている場合だ。特許を持つアルゴリズムを指定している標準に準拠するには、そのアルゴリズムの特許を「侵害」する以外に方法はない。相互運用性の観点から、標準への準拠は欠かすことができない。つまり、標準でソフトウェア特許を指定するというのは、Linuxを離れ小島にするのと同じだ。例を挙げると、IEEE 1488(FireWire)標準は、FireWireとやり取りするソフトウェアに適用される特許を背負い込んでおり、特許権使用料の徴収は、その標準と連携して行われている。FireWireをLinuxに実装すれば、それは特許権の侵害にあたり、追訴されれば、オープンソースのソフトウェアがFireWireデバイスに合法にアクセスすることはできなくなる。
IBMやHPなどのベンダが、特許保護や一般的なソフトウェア特許の面からオープンソースを助けてくれることは期待できない。これらの企業はオープンソースの味方になってくれることもあるが、彼らの求めるものと、オープンソースが求めるものは必ずしも一致していないからだ。ソフトウェア特許を利用して、収入を得たり、自分たちのビジネスを専売化したりしているベンダもある。つまり、オープンソースとの協調を掲げていながらソフトウェア特許の拡大を求めるIBMの態度は、完全に矛盾しているのだ。
このような企業には、自分たちのビジネス・パートナーと対立してまでオープンソースを支持しようという気持ちはない。2002年、Microsoftはビジネス・パートナーの各企業に向け、オープンソース・プロジェクトに対して著作権侵害の訴訟を起こす計画があると発表した。この考えが明らかにされたのは、2001年にまでさかのぼる。Microsoftの副社長であるCraig Mundieが、Open Source conferenceにおいて発表したのだ。Microsoftは、ヨーロッパで懸案となっているソフトウェア特許が認められなくなると困る、という考えから、この問題が終結するまで、この計画を実行に移すのを延期しているのかもしれない。また、HPは昨年、Microsoftとの間に「不可侵条約」を締結した。これにより、この2社が今後オープンソースに味方してくれる可能性は低くなったといえる。IBMに関しては、Microsoftを敵に回してでもオープンソース・プロジェクトや個人のオープンソース開発者を擁護してくれるかどうかは不明だ。
ソフトウェア特許の拡大に反対する上で1つ問題なのは、今のところ、オープンソース・コミュニティが受けたダメージが非常に少ないことだ。最低でも1社はオープンソースへの対抗策を明らかにしているが、オープンソース開発者がこれまでに特許権侵害で訴えられたケースは数えるほどしかない。私の予測では、訴訟を起こすつもりのある特許権者は、ヨーロッパでソフトウェア特許に関する決定が下されるのを待っているものと思われる。今訴訟を起こして、仮に敗訴すれば、ソフトウェア特許の正当性に疑問を持たれてしまう心配があるからだ。
このとおり、ソフトウェア特許はオープンソースにとって大きな脅威となる。米国と同様に、ヨーロッパもソフトウェア特許の拡大に乗り出すとすれば、死活問題になりかねない。 その上、Taylorの署名が添えられた文書はオープンソースを擁護するものからは程遠く、オープンソースが受けたダメージを政府がモニタして、報告書を作成するよう提案しているだけだ。
さて、このようにTaylorの誤りを指摘してきた私はいったい何者なのか、そして、どういった理由からLinuxやオープンソース開発者を代表して発言するのかを説明したいと思う。
私は1993年以来、オープンソースの開発者とプログラマのコミュニティでスポークスマンを務めている。また、非課税の非営利団体であるSoftware in the Public Interest社(SPI)を共同で設立し、取締役を務めている。SPIは、数々の優れたフリーソフトウェア・プロジェクトをサポートしている。SPIのメンバは個人で、多くがオープンソース・ソフトウェアの作者だ。私は、Open Source Definition(オープンソースの定義)の作者でもある。これは、ソフトウェアにおけるオープンソース宣言だ。1987年には、自作のフリーソフトウェアを初めて配布し、1993年以降はLinux開発に第一線で携わってきた。私が書いたフリーソフトウェアは、広く商業利用されており、スペースシャトル内でも利用された。私の履歴書はここでご覧いただける。
私は通常、Open Source Initiative、Software in the Public Interest、Free Software Foundation、そして数多くのソフトウェアプロジェクトなど、大きなグループのメンバの総意に基づいて行動している。しかし今回、このような警告文を個人的に書いたのは、あと2日もたたないうちに下される、政府の決定に関するものだったからだ。もちろん、今後の対応については、前述の各団体と協議するつもりだ。
この警告文の執筆にあたっては、次の各氏からご提供いただいた情報を参考にした。
- Hartmut Pilch, FFII & Eurolinux Alliance
- Bernard Lang
- Francois PELLEGRINI
Bruce Perens
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