政府機関オープンソースカンファレンス報告
Microsoft社の代表者は参加者から荒々しい質問を受けたが、広報スタイルの逃げ答弁を続け、プログラムのソースコードを見たいというユーザはごく一握りしかおらず、それを変更しようというユーザはさらに少ない、という主張を繰り返した。
唯一本当に面白かったのは、Microsoft社の代表者が、Microsoft Wordがオープンスタンダードに準拠しており、HTMLを含む数多くの標準書式で文書を保存できると言及したことだった。
このMicrosoft社の代表者は、Wordが生成する標準とはかけ離れたHTMLを見たことがないらしい。彼は、多くのユーザがWord専用の形式を使うのは、オープンファイル形式よりも「機能豊富な」Word専用形式の方が好まれているからだ、とも述べた。本当だろうか? ほとんどのWordユーザやOfficeユーザは、私が教えるまでは、文書を他の形式で保存できることを知らなかった。おそらく彼らは貴重な少数派だったのだろう。
反Microsoftを主張する者(全部で5、6人)は、(カンファレンス参加者から「なかなかいいね」と評された)植民地住民風の衣装をまとい、カンファレンス1日目の朝にロビーでリーフレットを配った。警備員からやめるように求めたが、彼らは拒んだ(警備員はそれ以上とがめなかった)。この抗議は人々の興味を引くこともなく、すぐに失敗に終わった。後に私は、彼らが何を主張しようと、いずれにしても「New Yorkers For Fair Use」の活動ではない、と指摘するEメールを受け取った。ふむ。
ワシントンモニュメントから10ブロックのところで抗議をした「トラクター男」の方が、──彼はソフトウェアにはまったく興味がなかったようだが、──カンファレンスにずっと大きな影響を与えた。いくつかの主要道路を含め、警察が通りを通行止めにしたため、カンファレンスの開催地であるジョージワシントン大学に隣接する通りを含め、ワシントン中心部の交通が麻痺した。
私がカンファレンスについて聞いた中で最も印象的な言葉は、あるヨーロッパ人のものだった。この人は、「米国ではまだオープンソースの支持について話している。ヨーロッパではもうその段階はとっくに過ぎて、今はインプリメンテーションについて話し合っている」とけげんそうに話した。
この言葉は部分的にしか正しくない。確かに、支持についての話し合いは行われているが、インプリメンテーションについても話し合われている。政府諸機関の多くのIT担当者は、オープンソースとフリーソフトウェアを使って納税者のお金を節約し、かつ彼らの作業を効率化し、さらに信頼性を高める方法について、ケーススタディを発表した。
GSA(共通役務庁)のある代表者は、このカンファレンスでの一番の収穫は、彼が独りではないことがわかったことだ、と述べた。米国政府では、彼が思っていたよりもずっと多くの場所でオープンソースが使われていることがわかった。そればかりか、いくつかのセッションから役に立つ手法を学び、何よりも、自分と同じ要望を抱えている他の機関の人々とのつながりができた。いくつかのプロジェクトを彼らと一緒に共同して行うことによって、開発と配備の効率をさらに高めることができる。
カンファレンスのプレゼンターは、フリーのセキュリティ専門家から政府関係者、HPやRed Hatのような企業の代表者やオープンソースの患者記録システムについて討論する医師まで、多種多様だった。
医療関係の人々は本当に多かった。彼らは最近になって急にオープンソースに注目し出した。その背景には、非常に小さな開業医でさえも、医療保険制度やその他の保険を扱うためにデータ処理の必要性が増していることと、病院や診療所の予算に対する絶え間ない圧力に対応するために、経費を節約するための新しい手段を探さなければならないという事情がある。
医療関係のプレゼンテーションで非常に興味深かったのは、Medsphere Systems CorporationのChief Medical OfficerであるDr. Scott Shreeveによるものだった。同社はパブリックドメインのVeterans Health Information Systems and Technology Architecture(VistA)パッケージおよびVA病院やその他世界中の主要な医療機関を運営するITインフラストラクチャに関するトレーニング、サポート、サービスを提供することによって、「医療機関のRed Hat」になろうとしている。
プレゼンテーションの後、Dr. ShreeveはQuick Compliance社(「あなたの医療組織をHealth Insurance Portability Accountability Act(HIPAA)に従わせるための総合的なe-学習、テスト、トラックソリューションを提供する」企業)の社長/CEOであるDr. John Danaherと話す機会を得た。Dr. Danaherには、WebMDや、その他いくつかの医療ITベンチャー企業に携わった経験がある。彼は病院や医師にIT関連のサービスを販売する事業においてはベテランであり、このカンファレンスは、Dr. Shreeveにとって彼の知恵を借りる機会となった。
Dr. DanaherはDr. Shreeveに、オープンソースコミュニティから好かれようとしたり、Red HatやHPのような企業と提携関係を築く努力をするのはやめて、$800,000の資本の多くに手を着ける前に、試験導入を実施するためにあらゆる努力をすべきだ、と話した。
「仮にあきらめなければならないにしても、導入をやりとげて運用を果たすべきだ」とDr. Danaherはアドバイスした。「開拓者となるのはだれにとっても辛いものだ。」
VistAは既に信頼を集めているが、Medsphere社はそうではない。現時点で、Medsphere社というのは単に、頭の切れる医者とITスタッフ、オフィス、Webサイト、いくつかの優れたアイディア、パンフレット、そして魔法の種である資本が集まっただけのものだ。Dr. DanaherはDr. Shreeveに、今は投下資本を探すことに時間を費やすべきではない、と言った。投下資本は現在ひどく干上がっているので、それを探し回ることにエネルギーを注ぐのはやめて、少なくとも1つの試験導入を無事に成功させることにMedsphere社の全力を注ぎ、その後で営業に専念すべきだ、と述べた。「私は最近営業の電話ばかりかけている。」彼は言う。「そこから抜け出し、仕事と収入を得る必要がある。それが君の成功の鍵だ。」
これは、カンファレンスにおいて指導者と学習者、ベンダーとクライアント、インプリメンテーションに関するヒントを共有し名刺を交換するさまざまな政府機関の人々、さらにはケニアから来た女性(国際連合の開発担当者が、ケニアで低コストのITインフラストラクチャを構築するために、彼女ならオープンソースをどうやって利用するかについて話している間、彼女はずっとメモを取っていた)の間で交わされた数多くの会話の一部にすぎない。
講演者も含め、多くの参加者は、政府との契約に結び付くようなつながりを作るために、このカンファレンスに出席していた。高い評価を集めているReiserFSジャーナリングファイルシステムの作成者であるHans Reiserは、ほぼ完成に近いReiserFS 4に対するDARPAのスポンサー契約が切れようとしているため、契約プログラミングの仕事を公に募集していた。
画期的なMozAppsプロジェクトを支える開発者のShaun Savageは、オレゴン州のポートランドにある自宅から自費でやってきて、経費を節約するためにバージニア州のポトマック川の向こうのホテルに滞在しながら、自分の仕事のスポンサーとなる政府機関または契約人を探すべく、カンファレンスに参加した。彼は破産寸前で、子供を育てなければならず、MozAppsにばかり時間をかけているわけにはいかないので、常勤の仕事に就くことを考えている。
これ以外にも、米国だけではなく世界中から数多くの契約人、コンサルタント、希望を抱いた人々が集まっていた。ただし、一部には、戦争が始まった場合に航空便に支障が出るのを恐れて、予定をキャンセルした外国人もいた。たとえば、日本政府の代表団はまるごとキャンセルした。しかし、カンファレンスの主催者であるTony Stancoは、戦争への不安によって参加者数が減っているとは思わない、と述べた。実際、前回彼が主催した政府オープンソースカンファレンスよりもずっと多くの人々が参加している、とのことだった。
1つ、大きな不満の声が上がったのは、「トラック」の数が多すぎることだった。朝早くから夕方まで4つのセッションが同時に進められ、多くの人々が長時間にわたる辛抱を強いられた。また、興味のあるセッションが2つか3つ、または4つ同時に進められたときにどのセッションに参加するかというのは、非常に難しい選択だった。もう1つ、不満が多かったのは、全員を一度に同じ部屋に集めるような「基本」セッションがないことだった。このようなセッションがあれば仲間意識も高まり、カンファレンスはもっと大規模に見えただろう。このため、近くの機関からやってきた政府関係者には、興味を持ったいくつかのセッションに参加し、すぐに仕事に戻ってしまう人が多かった。3日間のうち1日か2日しか来なかった人もいた。このため、大部分に関しては、カンファレンスの参加者は実際ほど多くは感じられなかった。
前評判の高かった(そして抗議を受けた)Microsoft社のプレゼンテーションでさえ、80人ほどしか集まらなかった。Microsoft社の代表者がプレゼンテーションを進める間、少なくとも100人は他の部屋にいて、真面目な技術論を聞いたり、医療管理におけるオープンソースの未来について話し合ったりしていた。さらに80〜100人(もしかするとそれ以上)は廊下や近場のテラス、カンファレンスセンターの階下の食堂で簡単なミーティングを開いていた。──または単におしゃべりをしていた。これは、常にカンファレンスには付き物の活動の1つである。というのも、このような機会に、数ヶ月、または数年もの間Eメールを交換していた相手と初めて顔を合わせることも少なくないからだ。
Stanco氏は、次回はもっと焦点を絞り、セッションや講演者の数も控えるつもりだと述べている。いずれにしても次回はそうせざるを得ないだろう。彼自身が、「とにかく多すぎた。私はあちこち走り回ってばかりで、自分でも8割のセッションは見逃してしまった。」と述べているのだから。
「Open Standards/Open Source for National and Local eGovernment Programs in the U.S. and EU」は、タイトルは長いが、重要なカンファレンスである。これは、政府のIT担当者を対象としたワシントンD.C.における唯一のオープンソース集会だ。このような集まりは、年に1回、できれば2回は必要である。2回目の開催において、1回目よりもずっと多くの人々が参加したことは喜ばしいことだ。3回目にはさらに多くの人々が参加し、政府におけるオープンソースの利用がさらに促進されることを期待したい。