オープンソースの短編アニメーション『Elephants Dream』

Elephants Dream』は、Orange Blender Projectが新たに制作した11分間のアニメーション映画だ。初めての「オープンムービー」と説明されている『Elephants Dream』のモデリング、動画編集、レンダリング、合成処理にはオープンソースソフトウェアが利用され、作品で実際に使われているすべてのコンテンツおよびデータファイルはCreative Commonsライセンスの下でリリースされている。この映画は、先月公開され、現在はDVDで視聴可能だ。

Orange Blender Projectを支える制作陣は、この映画をオープンソース ― 特に、3Dモデリング・アプリケーションBlender ― の力を披露する良い機会だと述べている。昨年、プロジェクトは、芸術分野の助成やDVDの事前販売を通して資金調達を行い、その資金をBlenderの追加開発作業に充てることで、『Elephants Dream』の制作に必要な機能の追加を行っていた。

その点で、『Elephants Dream』は少々損得が絡んだ取り組みであり、その主題は芸術的なものとしてではなく、特定の処理とツール群の信頼性を示すためのものと見られている。そのため、この作品の位置付けは微妙だ。純粋な芸術の領域からは完全に逸脱した作品であって、クリエイティブな価値の判断は避けるべきなのか。あるいは、フリーソフトウェアのすばらしさを誇示するために、クリエイティブな作品としても成功しなければならないのだろうか。

制作の過程

『Elephants Dream』の1シーン(クリックで拡大表示)

この映画自体にストーリーはなく、2人の登場人物を描いた7つのシーンをつなげたものになっている。自分たちの思考や言葉にさまざまな形で反応する巨大な機械の中を、彼らがさまよい歩くというシーンだ。一貫したストーリーが展開されるわけではないが、それぞれのシーンには独自の視覚的な面白さがある。

この点で、『Elephants Dream』は、短編アニメーションというよりもデモ映像のように見える。まるで、この作品のクリエイタたちが、年配の登場人物Prooqに成り代わって、(もう1人の登場人物、若きEmo ― 台詞の6割近くは彼の名前で占められている ― の役に相当する)観客を「Blenderが実現した世界(What Blender Can Do Land)」に引き込もうとしているようだ。このクリエイタたちに今回の倍の資金を提供すれば、それだけ多くの独立したシーンで優れた視覚的効果を見ることができただろう、と思うと残念だ。

確かに、こうした視覚的効果は見ていて飽きることがない。エレベータのシーンでは、『未知との遭遇』の宇宙船を思わせるSFチックな光景が壮大に描かれている。反対に、電話のシーンは、デイヴィッド・クローネンバーグ(David Cronenberg)の映画に見られるような不気味な静けさを漂わせている。

実際、この作品の視覚面に悪い点は見当たらない。照明の当て方は的確であり、映画の技術も玄人レベルだ。登場人物の見栄えもよい。身体の構造を踏まえて漫画的にデザインされているとはいえ、目や皮膚、そして表現の難しいことで知られる髪の毛まで丹念に描かれており、映画館で見る作品と比べても遜色ない。

ただ、登場人物の動きには改善の余地があり、シーンによって質にむらがある。非常になめらかな動きもあれば、木製のマリオネットのように見えるときもある。単に動きを見せるためだけに、EmoとProoqが手を振ったり、首をひねったりする場面が時折出てくる。こうした現象を表す言葉があるかどうかは知らないが、その動きは、2Dアニメーションや実写に対する3Dアニメーションキャラクタの優位性を損ねているように思えてならない。

『Elephants Dream』にはストーリーがないため、シナリオや脚本を批判するのは筋違いだろう。ところが、クリエイタたちに対するインタビューを読んで、『Elephants Dream』には一貫したストーリーがある、と彼らが考えていることがわかった。

この点に関しては、私がもう一度この映画を見たときには全編にわたってすべての音を消してしまいたいと思った、と述べておけば十分だろう。もし何らかのストーリーが存在したとすれば、編集の過程で消えてしまったのだ。Orange Blender Projectはこの作品を「オープンムービー」と呼んでいるが、個人的には、脚本も公募して最も優れたものを採用していたらもっとよい作品になっただろう、と思う。

DVDの内容

『Elephants Dream』のDVDに収録されているBlenderファイル(クリックで拡大表示)

もちろん、『Elephants Dream』がほかの短編アニメーションとまったく異なるのは、このプロジェクトがオープンソースおよびオープンコンテンツの方針を採用していることだ。DVDには、本編と共に、作品に使われたすべての音楽のほかに、 テクスチャ、画像、3Dモデル、地図、動画コンテ、Blenderプラグイン、Pythonスクリプト、効果音といった、シーンの制作に使われたすべてのデータが収められている。

これらのデータのすべては(各種のロゴおよび商標を除いて)、Creative Commons Attributionライセンスの下で提供されている。さらに、DVDの内容は、オンラインでも入手できる。

作品の多くは、Orange Blenderチーム内部で制作されたものだが、一部のコンテンツは、プロジェクトの公式ブログを介して外部の人々から提供されたものだ。また、作品の企画および制作の間、このプロジェクトはブログに公開され、進捗状況が頻繁に報告され、情報や予告、サンプルなども多数提供されていた。

1つのファイルに複数のバージョンが存在するものもあり、時間を追ってその変化を見ることができる。完成までのさまざまな段階でカットされたシーンも含まれている。おそらく、単純に、完成とリリースまでにかかる時間的な問題から削られたものだろう。ライセンス条項によれば、こうしたコンテンツを利用して『Elephants Dream』の全編を再編集したり、EmoとProoqを別の作品に登場させることも可能だ。これこそ、オープンソースのすばらしさであろう。

だが、それだけではない。Orange Blender Projectが掲げていた目標の1つは、この短編アニメーションの制作を通じて、利用するオープンソースソフトウェアの質を高めることだった。過去1年の間、プロジェクトは、書き換えられたキャラクタアニメーション処理、流体力学、粒子アニメーション、レンダリングパイプライン、合成など、Blenderの多くの機能に対して強化と拡張を行ってきた。また、Blender Foundationは、2005年のGoogle Summer of Codeにおいて数々のプロジェクトの指導にもあたってきた。

こうして強化された機能はすべて、Blenderの標準機能として追加され、以降の制作に利用されている。なお、BlenderのWebサイトでは、この期間に加えられた変更点の一覧が参照できる。

「すべてをオープンソースに」と息巻くこのプロジェクトを悩ませる問題の1つが音に関するプログラミングであり、結局、独占的ツールReaktorを利用して音の処理が行われた。Orange BlenderのTon Roosendaal氏は、チームが、外部にいるサウンドデザインのエキスパートたちと協力していくための現実的な決断だった、とWikinewsで語っている。オープンソースのツールを選びたかったのだろうが、それを絶対的な条件にはしなかったのだ。

オープンムービーの今後

最終的に、『Elephants Dream』が最も成功をおさめた点は、Blenderが持つ中核技術に深く関わる領域であり、そこから遠ざかるにつれ、成功の度合いは薄れている。この作品は、Blender ― ひいては、その他のオープンソースツール ― が近い将来に全盛期を迎えることを実証するためのものだった、と私は考えている。

さらに、制作途上でBlenderやその他のオープンソース・アプリケーションが改善されたことは、オープンソースの弱みではなく、強みを表している。こうしたオープンソースのツールは、課題が生じてもそれを解決できる適応性、柔軟性、修正可能性を備えていた。しかも、このツール群は、全力で制作が進んでいる最中に、(標準的な映画スタジオに比べて)限られた予算の範囲で、変更や機能強化が行われた。

そのおかげで、プロジェクトは、掲げていた目標 ― 専門的なクリエイティブ・アートの領域で、オープンソースが強力なツールになることの実証 ― を首尾よく達成できたのだ。ここで、今後オープンムービーは増えていくのだろうか、という大きな疑問が出てくる。おそらくそうなることだろう。Blender Foundationは、今回のDVDの売り上げによって制作費を回収できたらしく、既に別のプロジェクトの検討段階に入っている。

NewsForge.com 原文