Debianの新しいプロジェクト・リーダーの選挙戦

例年Debianの開発者達に対しては、定員1名のDebian Project Leader(DPL)を選出するよう呼びかけられる。今年もその時期が訪れ、そして今回も候補者が乱立している。今年度の出馬を表明しているのは、Jeroen van Wolffelaar氏Ari Pollak氏Steve McIntyre氏Anthony Towns氏Andreas Schuldei氏Jonathan(Ted)Walther氏Bill Allombert氏の7名の開発者である。DPLから退陣するBranden Robinson氏に再出馬の意図はないそうだ。

今回の選挙における“投票者数”は、4月7日時点で開発者319名に止まっており、これは有権者数972名に比べるとかなり低い割合でしかない。

McIntyre氏の見解によると、今回の投票率が低迷している原因としては、複数の候補者間で「今後の活動方針が似通っていること」、あるいは「先のGFDL(GNU Free Documentation License)の投票から間がないことで有権者達が無関心に陥っている」ことが考えられるという。同じくAllombert氏も、DPLの選挙とGFDLの投票とが近接している点に言及し、「開発者の多くは週1ペースでDebianに関与しているわけでもなく、そうした人々にとって投票とは余分な作業が増えるだけのことであり、しかも候補者が7名もいるのでは仕方ないでしょう」と語っている。

あらためて言及しておくが、候補者の中には、他の候補よりも高い真剣味を持って選挙に臨んでいる人間も存在している。Pollak氏が自ら語るところによると、同氏が今年の「ひやかし半分の候補」として出馬したのは、「ひやかし度100%の候補となるには、私にはユーモア・センスが不足しているからです。もっとも仮に当選したとしても、私にできるのは兼業DPLが精々でしょうが」だそうである。同氏の提唱するDebian GNU/Plan 9ポートは「Snakes on a Plan 9」というあだ名も付けられ、楽しいと言えば楽しい意見に仕上げられているが、多数の投票を得るよう寄与するものではないだろう。

Walther氏は一見すると真剣な候補者のように思われるかもしれないが、同氏のプラットフォーム・ページを一瞥すると、いくつかの“隠し”参照なども含めてその真剣度に対して幾ばくかの疑いがわいてくる。

Debian New Maintainer(NM)プロセスは、その複雑さだけでなく、候補者が一人前のDebian開発者と見なされるまでに要する時間の長さから、悪名高い制度の1つとして知られている。Walther氏はNMプロセスが制定される以前に参加した1人だが、「現行の開発者でNMを体験したことのない者には、来年中にこれを体験してもらいます」としており、現存するすべての開発者は3年ごとにメンバーシップを更新させることを提案している。

こうした提案に対してDebian開発者たちの支持が集まるとは思えないが、Towns氏も「これは新規メンテナーの育成プロセスに投入するリソースを過大視するものであり、かえって新規の参入者達に過大な負担をかけることが懸念されます」と語っている。その一方で同氏は、試験的に実行してみることを提案している。「私が思うに、この方式を検証する一番簡単な方法は、意欲のある人間にDebianを一旦脱退してもらってから、新規メンテナー用のプロセスを経て再加入してもらうことでしょうし、プロセスを一通り完了した後に問題点をレポートしてもらえばいいでしょう。Tedが自発的にそう申し出るなら、私は喜んで彼をサポートしますよ」。

昨年の選挙における最大の争点は、Sargeの遅延問題であった。そしてSargeが無事に世に出た現在、DPLの候補者達が戦わせている最大の争点の1つは、Debian開発者間での意志の疎通に関する問題だと思われる。

McIntyre氏の提案では、Debianには「Ubuntuの行動規範から学ぶべき点があるでしょう。フリー・スピーチというのはDebianの参加者の多くが尊重している理念ですが、開発用のメーリング・リストには他人を中傷する口汚い言葉が氾濫しており、IRCチャンネルも生産的に使われているとは言えません。こうした状態が、プロジェクト内外の多くの人間に不信感を募らせ、テクニカルなディスカッションに参加する意欲を失わせているのです」とされている。こうした懸念を反映する形で、McIntyre氏のプラットフォームには、Debian開発者による行動規範への同意と遵守を求める呼びかけが記載されている。

その他に興味を引くトピックとしてはDPLチームによる提案があるが、このコンセプトは昨年度におけるRobinson氏の任期中に提出されたものである。Schuldei氏は、Robinson氏率いるDPLチームの一員であり、自身のプラットフォームには「私は、プロジェクトが進行する上でDPLチームは必須の存在であると確信しています。同好の士の集団が密接に協力して、相互にフィードバックをするにあたって、こうしたチームがいかに有効に機能するかを、私は身をもって経験しているのです」と記載している。

同様にvan Wolffelaar氏もDPLチームの一員であるが、同氏が訴えているのは、自身をトップに据えた上でのDPLチームという体制の存続である。これに対してTowns氏の語るところによると、同チームは「昨年度は目立った活動を行っていない」とのことであり、今年度において何らかの改善がされるとは期待できないとしている。「最低限に見積もっても、Branden氏によるマンスリー・レポート作成への十分な補佐をしておらず、また同チームのミーティングにおける議題や議事録を公開するという約束も果たしていない」。

有力候補達はIRCでのディベートにも参加しており、これはDebianサイトから参照できる。投票は4月9日の00:00:00(UTC)まで受け付けており、新任されたDPLの任期は4月17日から始まる。それでは、各候補者の健闘を祈るとともに、最良の開発者が選出されんことを。

訳注: 即日開票の結果、Anthony Towns氏がプロジェクト・リーダーに当選した。

原文