解説:SeagateとMaxtorの合併
この合併はストレージ業界にどのような影響を及ぼすだろうか。市場調査会社iSuppliのデータによると、Seagateは米国で最大のハードドライブ・メーカーである。今年第2四半期のシェアは出荷台数で約30.5%。一方のMaxtorは、第1四半期は16.3%で第2位だったものの、第2四半期には競合社のWestern Digitalに第2位の座を譲っている。Western Digitalのシェアは17.6%、Maxtorは13.5%だった。
ハードドライブ業界全体を見ると、第2四半期の出荷台数は8,970万台で、8,730万台だった第1四半期より2.8%増加している。iSuppliのデータによると、Maxtorのシェアは日立に次いで第4位。ストレージ専業の上位メーカーが、サムスン・東芝・富士通の総合メーカーと競う構図になっている。
市場規模は480億ドル近い。ハードドライブは製造コストが嵩むが、競争により利幅と価格に対する下落圧力が強い。その上、競争力を維持するには研究・開発への絶えざる投資も必要である。こうした市場構造からウォール街にはSeagateとMaxtorの合併に対する意外感はなく、ハードドライブ業界および両社にとってプラスであると受け止められている。
この合併により、最初の1年間に、Seagateの収益は現金ベースで10〜20%増加、営業経費は約3億ドル削減されると見込まれている。
以上のようにこの合併にはプラス面が多いが、もちろんそれはWestern Digital以外にとっての話である。同社については暫く前に現状を分析し、ハードディスク業界で鍵を握る企業として、その将来性を指摘した。実際、同社の株価はその後50%も値上がりしている。しかし、今は、規模の経済性を追及でき、明らかに価格設定力を持つ企業を相手に競争しなければならない立場になった。今回の合併が米国連邦取引委員会(FTC)の反トラスト部門によって精査されると見られているのは、そのためである。
万一FTCが合併を承認しなかった場合、SeagateはMaxtorに3億ドルの違約金を支払う義務を負う。したがって、Seagateは正式な提案をする前に十分な調査を行ったもの思われる。
Seagateの第1財務四半期(9月30日を末日とする四半期)の実績を見ると、収入は20.9億ドル(前年同期は15.6億ドル)、純利益は1株当たり54セント(同11セント)である。これには非現金株式報酬1,600万ドルとリストラクチャリング費用400万ドルが含まれており、前者は内600万ドルが販売コストに、1,000万ドルが営業経費に反映されている。前年同期の実績には、非現金株式報酬に伴うコストは含まれていなかった。
それでは、Maxtorと合併しなかった場合、Seagateの本質的価値はどれほどになるだろうか。直前12か月間の収益9億2500万ドル、ウォール街における5年間の平均収益成長率9%という数字を基にSeagateの収益をその後10年間外挿し、11%(S&P 500の平均利益)で割り引けば、正味現在価値は83.8億ドルになる。
11年目以降については、収益の成長率が6%に鈍化するものとし割引率を12%に上げると、正味現在価値は136億ドルになる。(計算の詳細は、RuddReport.comを参照)
この2つの数字を合算し、長期負債7億3600万ドルを差し引き、現在発行されている株式4億8100万株で割ると、1株当たりの本質的価値は44.27ドルとなる。これに対して、現在の株価は20.39ドルである。一方、Maxtorの本質的価値は、同社が赤字であるため算出することはできない。しかし、これらのデータから見る限り、合併後のSeagateはしっかりした財政基盤を持ち、手ごわい競争相手になるだろうことは容易に想像できる。