オープンソース・コミュニティを目指すXara

Xaraは、プロプライエタリ・ソフトウェア企業として四半世紀近い歴史を持つ老舗である。そのXaraが2つの報道発表を行い、オープンソース・コミュニティに真剣に参加する姿勢を鮮明にした。これにより、ベクター・グラフィックス・ソフトウェアの勢力図が大きく変わるかもしれない。

最初の報道発表は9月下旬に行われ、オープンソースUber-Converterの開発支援を明らかにした。この汎用ベクター・グラフィックス変換ソフトウェアUber-Converterにより、ベクター・グラフィックス・ファイルの形式を変換するという長年の懸案が解決される。

そして、今月11日、Xaraは2本目の報道発表を行い、オープンソースに向けてさらに一歩踏み出した。新製品Microsoft Windows版Xara Extreme のリリースを発表するとともに、Linux版とMac OS X版の開発を公表し、将来はGNU General Public License(GPL)の下でソースを公開すると宣言したのである。

Xaraの最高経営責任者Charles Moirによれば、こうした動きは同社の成長と市場占有率を見据えたもので、とりわけAdobeによるMacromediaの買収――世界でもトップクラスにあるグラフィックス企業2社の合併――を考慮したものだという。この買収によってXaraはCorelに次ぐグラフィックス企業第3位に後退するが、Moirはこの点を気にしているのである。

「この6か月間、今後予想される競争状況に向けていかなる対策を取るべきかを検討してきました。今回の対策は当社にとって大きな賭です。これまでになかったことです。しかし、この業界全体が、今、統廃合の時代――目の離せない時期にあるのです」

そして、この賭は、実は、過去数年にわたるLinuxの「驚異的発展」が生んだチャンスなのだと言う。Linuxは「将来本当にMicrosoftを脅かす存在になるでしょう。ですから、Linuxに目を向けるのはビジネスとして意味のあることなのです」

最初の賭は、オープンソース・ベクター・グラフィックス・プロジェクトの中で最大級の人気を持つInkscapeの支援である。このプロジェクトには、大規模な独自のコミュニティもある。

Moirは、Inkscapeの創設者Bryce Harringtonに電子メールを送り、「Xaraの路線変更」について説明し、Inkscapeとの関係強化を望んでいることを伝えた。2人の話題は、直ぐに、ファイル形式に関わる問題に落ち着いた。

「Moirは、Inkscapeのコミュニティを支援できないかと考えていました」とHarringtonは言う。「Xara Extremeはファイル形式を公開しています。公開自体は素晴らしいことなのですが、残念ながら.svg[Scalable Vector Graphics(SVG)]をサポートしていません。ところが、.svgはInkscapeの中核的な形式であり、オープンソースの世界では2次元ベクター・グラフィックスの標準になりつつあります。ですから、Xaraの.svgサポートはとても重要な機能に思えたのです」

HarringtonがScratch Computingの創設者Eric Wilhelmに会ったのは、今夏のことである。Google Summer of Codeプログラムの一環としてInkscapeに参加していた学生の作品DXF Format――CADで主流のファイル形式――の変換プログラムについて評価するために、長年CADファイルに携わりファイル形式変換問題に取り組んできたWilhelmを招いたのだった。

Harringtonによると、Xaraからライセンスを受けてCorelがXara Studioソフトウェアで使用していたXar形式を見たWilhelmは、自身が1年ほど前から手がけているCADソフトウェア・ファイル変換ソフトウェア「uber-converter」でXar形式を扱えるだろうと直感したという。そこで、Harringtonは、Moirに連絡するようWilhelmに勧めた。Inkscape-to-Xara変換問題を解決できる可能性があると伝えるためである。

Moirは言う。「さまざまあるベクター・アプリケーションのファイルを変換するのは長年の課題だったのです。Wilhelmのアイディアは素晴らしく、納得できるもののように思えました。ですから、直ちに検討し、Wilhelmに資金を提供することを決めました」。Xaraは、Wilhelmの汎用ベクター・グラフィックス変換ソフトウェアに10,000ドル提供することを約束したのである。

Wilhelmによれば、この変換ソフトウェアのアイディアはCAD-Linuxメーリング・リスト上での議論から生まれたもので、あるメンバーがテキストベースの形式を使ってエンティティを個別のファイルに分割するプロトタイプを作ったのがきっかけだという。

Wilhelmの説明によると、Uber-Converterの基礎にあるのはハブという概念である。ハブは互いに類似している幾つかの形式を繋ぎ、それらの形式のすべてを表現可能な新しい形式に変換するのだという。そして、この変換ソフトウェアはプログラマにとっても大きなメリットがあるが、最大の受益者はエンドユーザーだと言う。

「エンドユーザーから見た場合、Inkscapeのようなグラフィカル・ソフトウェアでは、インポートやエクスポートなどとして提供される機能です。しかし、Uber-Converterのラッパーを持つソフトウェアをグラフィカル・インタフェースでしか使わないユーザーにとっては、ファイル・メニューの一つにしか見えません」

この変換ソフトウェアのコネクターはすべてオープンソースであり、Wilhelmが開発したものを、InkscapeとXaraがファイル変換に使用しているように利用しているプロプライエタリ・ソフトウェアがあると指摘し、プロプライエタリ・ソフトウェアは利用するだけでなくプロジェクトに相応の貢献をしてほしいと述べた。

あと2か月もすれば、XarをSVGやDXF(一部)に安定的に変換するソフトウェアがScratch ComputingのWebサイト上で利用可能になると言う。

Uber-Converterの開発が進行する一方、XaraもHarringtonの支援と指導によってXara ExtremeのLinuxバージョンの作成、オープンソース化、Mac OS X版の準備を進めている。

Moirによれば、コミュニティに「大規模なコードを下ろす」場合の注意点をHarringtonから聞き、その助言に従って段階を追って作業を進めているという。まず、ソフトウェア自体を提供し、次いで、残りを、HarringtonとInkscapeコミュニティの支援を受けながら徐々に提供するのだという。

「当社だけでできることではありません。ですから、コミュニティの人々に意見を求めています」。LinuxコミュニティにXara Extreme for Linuxを提供するには9か月ほどかかるが、「本当によくできたベクター・グラフィックス・アプリケーション」であり待つだけの価値はあると言う。

Harringtonは、Inkscapeがオープンソース・アプリケーションとして、またコミュニティとして成功しているからこそアプローチがあったのだという見方に同意する。そして、コミュニティの心配を理解し、実際にコードが提供されるまで報道発表には大して意味はないと述べた。

「この件では、もっと意味のある事実がたくさんありますよ。Xaraはきちんとやっているようです。自社のコードベースをオープンソース化したという事実を見れば、十分明らかでしょう」

この協力関係でHarringtonの役割がどうなるかは明確ではない。しかし、Harringtonは楽観的だ。XaraとInkscapeが何らかの形で協力し、両方に時間を割かれたり一方を優先したりするのではなく、開発者たちが速やかに動き、最上級の製品を生み出すだろうと考えている。

Harringtonによれば、OpenOffice.orgFirefoxも、「オープンソースが実用に耐える性能を持ち優れていることをWindowsユーザーに示して」きた。しかし、Windowsのパッケージに含まれているオフィス・スイートやWebブラウザの方がユーザーの目につきやすい。これに対して、グラフィックス・アプリケーションの場合は、ほとんどの人のコンピュータにはインストール済みのものがないという点で状況が異なるという。

「Inkscapeは、グラフィックス・アプリケーションがオープンソース・アプリケーションとして成功できることを身をもって示しました。おそらく、私たちの成功がオープンソースXaraへの決定を促したのです」

Harringtonは、先行きについて、「この試み全体が成功裏に終わり、企業がオープンソース・コミュニティと協力してアプリケーションを開発する先行事例となることを期待しています」と述べた。

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