Web 2.0 3日目 ─ ばかげたビジネスプラン
このような評価は、一部には、会場のいたるところにベンチャーキャピタリスト(VC)がいるという事実から来ている。たとえば、多数の生リンクだけでなく社会的文脈にも基づいて検索結果をはじきだす次世代の垂直統合型マルチメディア検索エンジンのアイデアを持っている人にとっては、これは資金提供者にめぐりあうための大きなチャンスだ。
VCにとっても、これはすばらしいカンファレンスである。なぜなら、才能ある起業家が会場のそこかしこにいるからだ。たとえばあるVCは、私とO’Reillyのシステム管理者に対して、面白いWebブラウザを開発している若いプログラマを見つけたと語った。そのWebブラウザは、タブブラウザ機能、新しいセキュリティ機能、さらにユーザがブラウザのルックアンドフィールをワンクリックで自分好みのスタイルに変更できる機能を備えているというのだ。しかも、そのVCが言うには、これらはすべて世界で一番普及しているInternet Explorerの追加機能として実装されるそうだ。それを聞いて我々がどんな顔をしたか想像してみてほしい。
件のシステム管理者も私も、その「高度な」機能は一つ残らず既に無料ダウンロード可能なFirefoxに搭載されているので、同じことをするIEアドオンを開発しても意味がないだろうと指摘した。
VCの意見はこうだった。「でも、私のようにFirefoxのダウンロード方法を知らない人にとっては意味があるんじゃないか?」
Firefoxのダウンロード方法やインストール方法を知らない人が、いったいどうやってIEのアドオンをダウンロードしてインストールできるんだ?――と言ってやりたいのは山々だったが、私はあいまいに言葉を濁すだけにした。
(このVCは決して我々をからかったわけではなく、本気の本気だった。たいして能力もない人物に大金をつぎ込む金持ちというものは本当にいるのである。)
「ホット」になりつつあるアイデア
ある会社は、1時間かそこらでいくつもの新会社を紹介するというWeb 2.0の「ランチパッド」の中で、旅行ブログサイトのアイデアを発表した。この旅行サイトは、基本的にはグループブログの形式を取り、ユーザが旅行の体験談を投稿して、ホテルの口コミ情報や、コスメルでの過ごし方、プリンセスラインクルーズの楽しみ方といった情報を皆で共有できるようにするというものだ。私は同じような試みをしているサイトを何十個も見たことがあるが、そのほとんどは閑古鳥が鳴いていたし、掲示板もさびれていた。そんなものをもう1つ新たに作る意義がどこにあるだろうか? 私にはさっぱりわからない。もしかしたら、その必要性を実感して、出張や旅行の体験談を自分のブログではなくこうした旅行サイトに投稿してくれる奇特な人もいるのかもしれないが。
また、「タグ」という技術(Web 1.0の頃は「キーワード」と呼ばれていたもの)についての話もよく耳にした。タグとは、写真管理・共有サイトのflickr、ブックマーク管理・共有サイトのdel.icio.us、タグ対応のブログメタサイトなどであなたの写真、ブックマーク、ブログを探しやすくするための1単語の参照情報である。タグのアイデアは非常に盛り上がっており、少なくともWeb 2.0界隈では花盛りである。近いうちに、あなたの写真やブログやあれこれを最大限に露出するためのタグの選び方を指南するプロの「タグ付け屋」が登場することだろう。ちょうど、あなたのサイトを検索エンジンの上位に持ってくるためのアドバイスをする検索エンジン提案サービスや検索エンジン最適化ビジネスが次々に現れたのと同じように。
では、Googleのキーワード購入の効果を最大限にするための助言をするビジネスはどうだろうか? そのビジネスは既に存在する。私はそのCEOに会ったこともある。
もう1つ目を引いたのは、GPS対応のワイヤレスPDAやその他のハンドヘルドデバイスのための「メディアスペース」を作るという案だ。これが実現すれば、実際に周囲の人の話を聞く代わりに、小さなイヤホンを通じて今いる場所についての情報や面白い話が聞けるようになる。
考案者は、このアイデアを「強化現実(heightened reality)」と呼んだ。しかしこのビジネスも、あらゆる種類の超ローカルなオーディオ素材をアップロードしてくれる善意の(しかも無報酬の)ユーザをあてにしたものである。誰も面白い話をアップロードしてくれなければ、聞くものは何もないだろう。私が自分で何かアップロードしようと思っても、自分のブログやタグファイル、オンラインビデオライブラリを管理したり、ポッドキャストをした後では、きっと時間がないだろう。それに加えて、少なくとも自分の場合は、原稿執筆のような非常に時間がかかる「仕事」を持っているので、協力するのはなお難しい。もう少し時間に余裕のある仕事だったら、このようなVCの支援による「コミュニティベース」の企画のためにフリーコンテンツを作るぐらいの時間は取れたかもしれないのに。
私のWeb 2.0ビジネスプラン
ベンチャーキャピタルのベースビートに乗った起業家によるギターリフを聞いているうちに、どうやら毒されてしまったようだ。ここで私も、VCにプレゼンテーションするビジネスプランを1つ思いついた。
このアイデアが浮かんだのは、自分のいる場所の近辺についての情報を聞ける「メディアスペース」について考えていたときだ。この企画のポイントは何か? それは、ユーザが既にそこにいるということだ。では、PDAや携帯電話やビデオiPodなどを使って、ユーザをどこか他の場所に連れていくようなクリップを見せたらどうだろうか。たとえば、真冬のニューヨークの地下鉄の中で、フロリダのシエスタキービーチの風景や音を見たり聞いたりできれば面白いのではないだろうか。
このビジネスの収入モデルは明白だ。ユーザは着メロのダウンロード料金を払うのと同じ方法で、クリップのダウンロード料金を支払えばいい。
次に必要なのは、面白くて覚えやすいドメイン名だ。たとえばBeThereNotHere.comのような――このドメインは既に私が登録済みである。
後は、数百万ドルの開業資金を出してくれるVCを見つけるだけだ。そういうわけで、原稿の執筆はここまでにして、VCを探しに会場を一巡りしてくることにしよう。
原文