企業でのオープンソース・ソフトウェア、主眼は「ゼニ」

Eric Raymond氏は最近、Microsoftの採用担当者に対して手厳しい対応を行った。それに対するLinuxコミュニティの反応は、はっきりと分かれている。にべもない率直な対応に対して喝采を送る者もいれば、そのぶしつけな態度や、自分自身の功績を強調しすぎだという点を非難している者もいる。

確かに、Raymond氏はもう少し遠回しで賢明な言い回しをしてもよかったろうが、Microsoftのような企業が、自社を特に辛辣に批判している人、おまけにその競合製品を熱烈に支持している人を採用しようとしたとなると、そうした対応もむべなるかなと思わずにはいられない。あまりに馬鹿げた状況だからだ。

Raymond氏の対応からは、企業でのオープンソース・ソフトウェア(OSS)の使用に関してさまざまな疑問が沸き起こる。ただし、セキュリティ、総所有コスト(TCO)、ベンダの囲い込みといった、よくある疑問ではない。LinuxやOpenOffice.orgなどのオープンソース・ソフトウェアで得られるメリットを企業のリーダーたちに納得してもらうにはどうするのが一番よいかという疑問だ。

オープンソース・ソフトウェア界の代表選手であるLinuxを取り巻くコミュニティは、2つのカテゴリに大きく分かれる。1つは、完全なフリー・ソフトウェアの考え方をどこまでも信奉している草の根コミュニティである。こうしたコミュニティは、ここ数年、代替OSとしてのLinuxの隆盛にとって力となった。これは、Free Software Foundationの創設者であるRichard Stallman氏などの人たちによる所が少なくない。

もう1つのカテゴリは、オープンソース・ソフトウェアをビジネスにする人たちである。Novell、IBM、Red Hatといった企業の経営陣は、このカテゴリにぴったり当てはまる。こうした人たちがLinuxなどのソフトウェアに力を入れる理由は、イデオロギー的な面よりも、経済的な面の方が大きい。

Stallman氏などの人たちは、オープンソース・ソフトウェアをITの表舞台に登場させる最初の段階で力となった。そして、Linuxにおいては、新参者は今でもこうした人たちの言葉に耳を傾ける。Linuxが現在の姿になったのは、フリー・ソフトウェアの理念の支持者たちの力によるものだ。だが、オープンソース・ソフトウェアを企業内で利用してもらうために肝心なのは、ビジネス・コミュニティである。

フリー・ソフトウェア・コミュニティを先導する人たちの多くは、クローズ・ソース・ソフトウェアに照らした場合のオープンソース・ソフトウェアの現実的なメリットを知っている。Free Software Foundationなどのグループは、オープンソース・ソフトウェアに移行するきちんとした理由を提示している。これに対し、声高に主張を唱える支持者たちの中には、きちんとしたビジネス上の理由ではなく、Microsoftに対する嫌悪が理由でLinuxに移行する者もいる。こうした移行組の中には熟練プログラマもいるが、現実的なビジネス原理についての経験を持つ者はほとんどいない。「クローズ・ソースではコンピュータから何が送信されているかわからない」とか、「Microsoftは悪党だ」といった主張は、真偽のほどは別にせよ、最終的な損益に主眼を置いているビジネス・エグゼクティブたちには受け入れてもらえない。

ビジネス環境では、政治的公正さ(人によっては道徳的誠実さととらえるかもしれない)には、あまり重きが置かれない。ビジネス環境が目指すのは、コストの抑制と利益の上昇なのである。そして、企業内でのLinuxの浸透に関して企業が一家言を持つのは、その部分だ。企業には、ビジネスやマーケティングの荒波の中で揉まれたノウハウと、それを支える資金がある。企業での利用に適したオープンソース・ソフトウェア・アプリケーションを開発するためには、その両方が必要である。

そこでジレンマが生じる。すなわち、大手企業の経験やサポートを取り入れつつも、草の根の支持者たちの功績は今後もしかるべき形で尊重していくためには、どのようにすればよいかということだ。

サーバにせよデスクトップにせよ、別のオペレーティング・システムへ移行するには、安からぬ費用がかかる。そのことは秘密ではない。Windows、Mac OS、Linux、他のUnix系OSのうち、どれからどれへの移行であるかは関係ないのだ。だが、少なくともMicrosoftは、この点を口実に利用して、Linuxは実際よりコストがかかると絶えず主張している。なかなかの脅し作戦だ。人によっては、これをFUD商法と呼ぶこともある。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏が、Linuxは283件の特許を侵害している可能性があると主張したような方法である。

Ballmer氏たちが言及しないのは、その反対のこと、つまり、LinuxからWindowsへの移行はもっとコストがかかるということだ(もしそんなことをする人がいればだが)。前述のような移行コストやトレーニングのコストがかかるうえ、サポートの必要性も生じ、おまけにソフトウェアのコストもかかる。たとえば、サーバにWindows Server 2003をインストールし、5台のデスクトップ・マシンにWindows XP Professionalをインストールし、さらに各デスクトップにMicrosoft Office 2003も入れたいという中小企業があるとする。この場合、ソフトウェアのコストだけでも2,500ドル以上かかる。中小企業が費やすには、かなりの額である。

Microsoftの大手顧客なら、「Linux」という言葉をちらつかせながらMicrosoftに掛け合って、アップグレード費用を強制的に下げさせることもできるかもしれない。だが、中小企業の大半には、値下げしてもらえるほどの影響力はない。

Linuxの本当の経済的メリットは、長期的に見た費用の節約という点にある。きちんと計画されたビジネスモデルによって、投資に対する長期的な利益が得られる方が、短期的な不当利益よりもずっと望ましいのは当然だ。オープンソース・ソフトウェアを推進するためには、オープンソースによって得られる、長い目で見た経済的メリットを強調するのが一番だ。Windowsなどのソフトウェアでは、ソフトウェアとハードウェアの定期的なアップグレードに対処せねばならず、いずれのアップグレードも高いコストがかかる可能性があるという点を指摘すればよい。

オープンソース・ソフトウェアでは、ソフトウェア・アップグレードにかかるコストは大幅に削減され、ゼロに近い場合すらある。しかも、オープンソース・ソフトウェアの場合は、そこそこのハードウェアで動作するのが普通である。そのため、定期的なハードウェア・アップグレードは必須ではなく、ぜいたくな散財である。

望むなら、政治的公正さや道徳的な面の理由についても、1つ2つ紛れ込ませてもよい。調査企業Assetmetrix社の最近の調査によると、2005年初頭の時点では、ビジネス用PC全体の約半数でいまだにWindows 2000が使用されており、この傾向は変わりそうにない。中小企業は、Windows Server 2003へのアップグレードにかかる費用に難色を示しているのだ。しかも現在では、Windows 2000のメインストリーム・サポートをMicrosoftが終了しているため、ハッカーやウイルスに対する脆弱性がますます高まっている。

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