Skypeにクローンが登場

この2か月あまりの間に、Skypeの評判は「メディアの寵児」から「一時の賑わいはいつ終わるか」に変わった。フォーラムやブログのお喋りから判断すると、Skypeに対する物珍しさは失われつつあり、最初に飛びついた人たちも飽きてきたようだ。しかし、インターネット電話の愛好者は心配する必要はない。標準ベースの代替製品があるのだ。

先日eBayによる買収が発表されたSkypeは、今、存亡の危機にある。製品の欠点を利用者が気にし出したということは、城門が大きく開いたことを意味する。そこから競合他社が襲いかかり洗いざらい持って行かれる危険性があるのだ。(Skypeのように)提供しているサービスが無償あるいは現金払いの場合は、とりわけ危険である。

もちろん、Skypeは人気に浮かれていたわけではない。SkypeInやSkypeZoneなどのベータテスト・プログラムを試みたり、呼び出し音やアバターを販売したり、顧客をつなぎ止める手だてをいろいろと打ってきた。

しかし、Skypeの中核製品はコミュニケーション・プラットフォームという生活必需品であるため、使い勝手が良く機能の優れた類似製品が登場すれば、Skypeは深刻な事態に陥る危険性がある。

衆目の一致するところでは、Skypeのアキレス腱はそれがクローズド・プロプライエタリ・ネットワークであるということであり、Session Initiation Protocol(SIP)に基づいた同等製品が提供されればSkypeは追いやられるだろうと見られている。

大方の人はインターネットの利用者全体にとってオープン標準が好ましいと考えているが、プロプライエタリなプロトコルおよびコーデックを使用するクローズド・ネットワークがすぐになくなることはあるまい。とはいえ、長い間悩む必要もないだろう。SIPに対応したSkype類似製品の第1世代が登場したからである。

半オープン・半クローズドの代替製品

まず、Gizmo Projectを見てみよう。Skype同様、クロスプラットフォームで、クライアントは、Windows、Mac OS X、Linux on x86用のものが用意されている。Pocket PC用はない。ユーザー・インタフェースは、実質的にSkypeと同じだ。連絡先一覧・状態・呼び出し記録のタブと、Playskoolのオモチャ向けにデザインされたようなアイコンがある。

Skypeと同様、Gizmoの親会社SIPphoneから追加サービスを購入すれば、公衆電話網(PSTN)の利用者と通話することもできる。

利用者にとって最も重要な違いは、相手の電話を探し出して通話の開始・切断をするのに、GizmoはSIPプロトコル・スタックを使用している点だ。したがって、Gizmoの利用者は競合するSIPシステムの利用者とも通話することができる。

Gizmoは、Skypeと同様に、GlobalIPSoundのプロプライエタリなiSACとiLBCコーデックを用いている。しかし、他のサービスと接続する場合に必要となるGSM、g711U/A、拡張版G711、iPCM-wbもサポートしている。Skypeの場合は、自社の提供するコーデックだけをサポートすれば、それで十分である。どちらのクライアントも、電話をかける際のコーデックは自動的に選択される。

Gizmoは、SIPをサポートし相互接続性を有している。また、「オープンソース版Skype」と呼ばれるのをよく目にする。だが、残念ながら、Gizmoのライセンスはオープンソースではない。SIPphoneの収益源はダイヤルインとダイヤルアウト・サービスであり、同社はオープン標準を支援・支持すると明言するが、そのソースを入手することはできないのである。

Skype、Gizmo、Wengophoneのクライアント

Linuxユーザー向けのGizmoクライアントは「アルファ」版である。現行版は.debパッケージのみが提供されており、Linspireユーザーは「click and run」(CNR)で使うことができる。しかし、それが仇となって、初めてGizmoを試用したときに問題が発生した。サポートされているオペレーティング・システム3種すべてについて試用してみようとしたのだが、友人がLinspireではないLinuxにGizmoをインストールしようとして深刻な事態に陥ったのである。

Mac、Windows、Linuxの各ユーザーと通話してみたところ、音質はSkypeと同等だった。しかし、Linuxクライアントでは、電話の基本機能は動作したものの、重要なUIは使えなかった。ほとんどのボタンが機能せず、Viewメニューは空、FileメニューはQuitだけなのだ。

Gizmoフォーラムによく報告される症状も経験した。CPU利用率が最初の呼び出しが完了するまで100%に張り付いてしまう、セグメント・フォールトが多発するなどといった症状に私も見舞われたのである。Linuxクライアントにはまだ多くの成長の余地が残されていると言っておこう。

それでは、GizmoはSkypeの代替たり得るだろうか。この質問に対する私の答えは否定的である。どちらもプロプライエタリなアプリケーションであり、Gizmoの唯一の利点は呼管理に広く認められた標準を使っているという点だけである。これをしてオープン標準への支持と考えるならば、それはオーディオ・コーデックの問題を見落としているからである。

SIPはコーデックを認識せず、オープン・プラットフォームには多くのコーデックがある。その中には、オープンソースであり特許に縛られないものもあるのだ。Gizmo Projectがサイトに掲げる「オープン標準への支持」がSIPの採用だけを意味するのなら(そのようだが)、それはあまりにも皮相的と言うべきである。SIPは全体の中の一つにすぎないのだ。

ビルドで入手可能な代替製品

しかし、ご安心あれ、Skypeを追いかけるGPLプロジェクトも幾つか存在する。紙幅の都合上、ここではその一つだけを紹介しよう。

WengophoneはSkypeやGizmoと同様のインタフェースを持ち、機能も類似している。VoIP-to-PSTNサービス・プロバイダNeuf Telecom(フランス)の製品である。同社がWengophoneを提供する目的は、明らかに、SIPphoneとSkypeの関係と同様、SIP-to-PSTNゲートウェイ・サービスの販売促進である。Wengophoneクライアントの安定リリースはWindows用のみ。Linux for 86用はベータ版、Mac OS XとPocket PC用クライアントは開発中だ。

Linuxクライアントは、.debと.rpmバイナリ・パッケージで提供されている。全プラットフォーム用のソースも、Subversionリポジトリからダウンロード可能である。

クライアントのインストールでは、Debianパッケージに問題はなかったが、.rpmパッケージはそうはいかなかった。バージョン・チェックもリンクもずさんで、人手が入らないとうまく動かない。メーリング・リストとフォーラムに質問したところ直ちに回答があり、次のリリースではこうした問題は改修されるという言質を得た。Wengophoneは、もちろん、いつでも、自分でコンパイルすることができる。

Wengophoneは、AMR、AMR-WB、PCMA、PCMU、GSMコーデックを使う。試しにWengophoneからGizmoの利用者を呼び出してみたが、このとき使われたコーデックは唯一の共通コーデックであるGSMである。音質は、iSACによるGizmo同士やSkype同士よりも明らかに優れている。しかし、GSMコーデックはフォールト・トレラントではないため、ネットワーク・トラフィックが不安定になることがある。また、8kHzでサンプリングしているため、音質の上限は「広帯域」コーデックのサンプリング周波数16kHzよりも低い。

Wengophoneの構成パネルにコーデック・タブが用意されているところを見ると、他のコーデックも使えるか、あるいはすぐに使えるようになるものと思われる。この点についてフォーラムに質問したところ、ユーザーがインストール可能なコーデックを次期リリースに向けて開発中だという。また、現行リリースでは、音声・マイクロフォン・呼び出し音などに使われるオーディオ装置を指定することができない――もっとも、私のマシンではデフォルトで十分だったが。いろいろと欠点を挙げたが、Wengophoneはまだ登場したばかりだ。製品レビューで云々するのは時期尚早である。

このようにWengophoneには欠点があるが、GPLであるということから、Gizmoより将来性があると私は考えている。その理由は幾つかある。まず、Wengophoneは、変更すれば、どのSIPゲートウェイ(現在だけでなく将来も含めて――この分野で親会社がいつまでもあるとは限らない)にも対応可能だ。また、サード・パーティーがオーディオ・コーデック(たとえ有償でも)や新しいプロトコル(IAXやXMPPの統合など)を加えることもできる。さらに、誰でも、Wengophoneを他のオペレーティング・システムや新しい機器に移植できるからである。

こうした点は、Skypeが生活必需品としての価格政策により利用者の乗り換えを座視している中、Wengophoneの明らかな利点となる。つまり、その間、オーディオ・コーデック問題がWengophoneを含むすべてのオープンソース・ソフトフォンにとって克服すべき最大の課題となる。

おわりに

私はSkypeの行く先が短いとは決して思わない。しかし、VoIPの成長余力は大きく、5年後は、おそらく最も規模の小さい製品でも、その利用者数はSkypeの現在の利用者数よりも多いだろう。だが、Skypeの類似製品はSIPをサポートしており、この点でSkypeよりも一歩先んじている。

ただし、半分オープン・半分クローズドのソリューションには、サポートする価値はない。VoIPソフトフォンが広く普及するのを願う人々にとって、特許化され使用料が必要なオーディオ・コーデック(ビデオ・コーデック)だけをサポートするSIPクライアントは、一歩前進一歩後退である。

もし商用OSを使用している友人からSkypeについて尋ねられたら、Gizmoではなく、使い勝手が良くGPL下にあるクロスプラットフォームのクライアントを推薦するとよいだろう。私はと言えば、オープンソース・クライアントやプロプライエタリ・クライアントがフリーの音声コーデックを速やかにサポートするよう手だてを講じたいと思う。