Darl McBrideからオープンソース・コミュニティへの公開書簡

現在進行中の著作権と知的財産権に関する論争は、IT業界で今、もっとも激しく議論されている問題といえるだろう。この論争は、主にプロプライエタリ・ソフトウェアの製造と販売を行うベンダと、オープンソース・コミュニティとの間で繰り広げられている。

弊社SCO Groupがこの議論の標的となったのは、IBMに対して訴訟を起こし、SCOのプロプライエタリなUNIXコードがフリーのLinux OSに不法に流用されていると主張して以来のことだ。この際、我々が現在のLinuxソフトウェア開発モデルには知的財産の面で明らかに問題があると指摘したことで、オープンソース・コミュニティの一部では怒りの声が上がっているようだ。

オープンソース・ソフトウェアをめぐる現在の議論は、健全で、意義深いものだ。顧客によって広く受け入れられるのを待たずして新しいビジネス・モデルが提案されることになり、長い目で見れば、業界にとってメリットとなる。しかし、8月の最終週には、オープンソース・コミュニティの長期的な信頼(大衆からの信頼と顧客からの信頼)を失墜させるような展開が2つ見られた。

最初の展開は、今から2週間前、SCOに対してサービス拒否(DoS)攻撃が2回にわたって行われた際に起こった。これで、ここ4ヶ月で3回攻撃が行われたことになる。ユーザがSCOのサイトにアクセスできなくなり、SCOの営業が妨害された。攻撃者がオープンソース・コミュニティに関係のある人物であることには疑いがない。オープンソースのリーダーであるEric Raymondは、攻撃者本人から連絡を受け、 攻撃者が自分の仲間だったことを知ったと述べているそうだ。Raymond氏の名誉のために付け加えておくと、彼は攻撃をやめるよう攻撃者に請願した。しかしながら、正義がなされるためには、彼がその攻撃者の素性を明かさなければならない。

情報時代のいま、経済はインターネットに大きく依存しており、DoS攻撃を始めとするさまざまな攻撃は、決して許されない行為だ。Raymond氏とオープンソース・コミュニティは、このような犯罪の取り締まりに積極的に協力するべきだ。さもなければ、これはオープンソースの運動全体に影を落とし、さらに、オープンソースがビジネス・コンピューティングの中心的な役割を担う存在としてふさわしいかどうかも疑問になってくる。「オープンソース・コミュニティの気に障るような行動を取れば、自分の会社も攻撃を受けるのではないか」という恐れを各企業が持つような状況は避けなければならない。この違法行為がきちんと制圧されるまでは、企業の顧客や社会の大部分では、オープンソースから遠ざかろうとする動きが多くなるに違いない。

2つ目の展開は、オープンソースのリーダーであるBruce Perensが、本来含まれていてはならないUNIX System Vのコード(SCOの所有物)が、Linuxに含まれていると認めたことだ。Perens氏は「Linux開発者のプロセスにおける誤り」により、「Linuxの所有物ではない」UNIX System VのコードがLinuxカーネルに含まれる結果となってしまった、と述べている(『ComputerWire』、2003年8月26日)。Perens氏は、「Linux開発者のプロセスにおける誤り」を正当化しようと次々に論拠を示している。しかし、Silicon Graphics社に雇われていたあるLinux開発者が、著作権で保護されたSystem Vのコード(厳密な使用条件のもと、Silicon Graphics社にライセンス供与されていたもの)から著作権の帰属に関する記述を取り除き、まるでSGIが所有・管理しているコードであるかのように、このソースコードをLinuxに流用したという事実は、決して変えられない。これは、SGIの契約と、SCOとの著作権契約に明らかに違反している。現在、我々はSGIと協力してこの問題を解決するべく努力している。

SGIがUNIXコードをLinuxに不正に流用したことは、Linuxの開発プロセスの根本的な欠陥を示す、いわば氷山の一角だ。実際のところこの問題は、エンタープライズ・コンピューティング用のソフトウェア開発において、オープンソースは信頼できる開発モデルとなりうるかどうかという点にまで及んでいるのだ。Linuxの知的財産の本質は、現在のモデルではシステムレベルで明らかに無効である。このモデルを通じて、現在までに、UNIX System Vの保護されたコードのうち、100万行以上がLinuxに流用されていると我々考えている。Linuxプロセスに固有のこの欠陥は、公に認め、修正されなければならない。

著作権の提供者が、オープンソースに提供されたコードの著作権を譲渡する権限を持っているかどうかを確認するために、最低でも知的財産のソースをチェックするべきだ。これは企業間の取引の基本となるデュー・ディリジェンスである。オープンソース・コミュニティは、SCO対IBMの訴訟の引き金となった、Linuxの「聞かざる、言わざる」方式の知的財産ポリシーに固執するよりも、顧客のニーズに耳を傾けるべきだ。オープンソース・ソフトウェアには、エンドユーザが信頼できる強固な知的財産の基盤があるということを示すべきだ。集合的なリソースや能力がせっかくあるのなら、エンタープライズ・コンピューティングの顧客のニーズから外れた、無効な知的財産ポリシーを擁護するのはやめて、この目的に活用するべきだということを、オープンソース開発者の皆さんに謹んで提言する。

オープンソースのソフトウェアモデルは、いま重要な発展段階にあると私は考えている。オープンソース・コミュニティの基礎となっているのは、反体制的な理想(巨大企業に対抗する「ハッカー」の概念)であるが、Linuxが発展してきたことにより、アメリカの主要な国内企業や国際企業に対してソフトウェアを開発する機会が生まれた。自らの製品が企業で受け入れられることを望むなら、社会の大部分を統治している規則や手続きに、オープンソース・コミュニティ自身が従う必要がある。これは、世界的な企業が求めることだ。また、オープンソースの今後を決めるのは、SCOでもIBMでもない。オープンソースのリーダーたちでもない。顧客たちなのだ。

ある企業は、IBMの名前があったからという理由でオープンソースを採用した。しかし、聞くところによると、IBMやその他のLinuxベンダは、顧客に対して知的財産の保証を行おうとしないようだ。つまり、Linuxのエンドユーザたちは、オープンソース製品の知的財産の基盤と、GPL(GNU General Public License)のライセンス・モデルそのものを注意深く確認しなければならないのだ。

オープンソース・コミュニティが、企業向けの製品を開発しようとするならば、法律で定められた規則を尊重し、それに従わなければならない。この規則には、契約、著作権、知的財産に関する法律が含まれる。SCOは数ヶ月にわたり、IBMに対して起こした訴訟に関わっている。議論喧しいこの訴訟において、SCOが強い立場でいられる根拠は、根底にある知的財産の原則である。これを次にまとめてみたい。

  1. 「公正使用」は、教育、公共サービス、そしてこれらに関連する利用法に適用されるものであり、営利目的での不正流用を正当化するものではない。教育目的やその他の非営利目的での利用を想定および認可した書籍やWebサイトは、営利目的でコピーすることはできない。一部のSCOソフトウェアのコードは、このような形でLinux OSに流用されたというのが我々の考えだ。これはSCOの知的財産権の侵害である。
  2. 著作権の帰属に関する記述は、所有権と帰属権を保護するものであり、変更したり削除したりしてはならない。著作権の所有者は、これによって自らの法的権利を管理し、所有権が無許可で譲渡されるのを防いでいる。SCOのプロプライエタリ・ソフトウェアのコードは、著作権表示が取り除かれてLinuxにコピーされたか、知的財産権を侵害して二次的な製品に流用された。これは違法である。
  3. 著作権法においては、所有権は、所有者が文書により明示的に許可しない限り譲渡することはできない。SCOのソフトウェア・コードは、GPLの下で配布されているソフトウェア内にあるため、SCOはこのコードに関する権利を放棄したと一部では主張しているようだが、実際はそうではない。SCOは、そのような許可も権限も与えていない。
  4. 著作権の所有権の譲渡は、しかるべき個人または団体が文書により明示的に許可していない限りは無効である。
  5. 著作権で保護された作品における二次的著作権の行使は、ライセンス供与の範囲内で定められている。許可された二次的著作物は、ライセンスの範囲を超えて使用することはできない。二次的著作物に関するライセンス供与の範囲は、ライセンスによって狭いものも広いものもある。つまり、ライセンスそのものは許可する使用範囲を定め、ライセンシーはその定義による制限を受けることに同意する。SCOがIBMを告訴した根拠の1つは、二次的著作物の扱いに関し、IBMとSCOとの間で結ばれたあるライセンス契約の条項にIBMが違反したという主張である。我々の持つ証拠は決定的であると確信している。
SCOの訴訟を裏付ける著作権の規則に関しては、議論の余地はない。これらの規則は、オープンソースを含む、あらゆるソフトウェア開発モデルにおいて強固な基盤となる。著作権法を無視したり、異議を唱えたりする代わりに、現代社会を形成した法律の規則を尊重すれば、オープンソース開発者たちはその理想を推し進めることができるはずだ。オープンソースがこのような方法で保証を確立して初めて、企業はその基幹業務にオープンソース製品を採用することができるのだ。顧客は、オープンソースが合法で、安定していることを確信できなければならない。

最後になるが、オープンソースが趣味の領域を抜け出して、企業レベルの信頼性を持つ開発モデルとなるには、継続的なビジネスモデルが必要だ。現在、フリー/オープンソース・ソフトウェアの恩恵を受けているのは、Linuxそのものではなく、Linuxをサポートするハードウェアや高価なサービスを販売している大規模なベンダだ。無保証のオープンソース・ソフトウェアを提供することで、これらのベンダはコストを削減するとともに、サービスによる収益を増やすことができる。これがオープンソースの唯一のビジネスモデルなのだ。このほかのLinux関連企業は、すでに姿を消しているか、生き残りに必死の状態で、安定して収益を上げられているものはごくわずかだ。この業界の個人や中小企業は、まず現状を理解して、生き残り、利益をあげるためのビジネスモデルを採用するべき時が来たのだ。長い目で見ると、企業の顧客にとっては、フリーソフトウェアよりも、ソフトウェア・ベンダの財政的な安定性と、そのソフトウェア製品の合法性のほうが重要なのだ。フリーソフトウェアの権利のために戦うよりも、新しいビジネスモデルを設計して、企業の顧客から見た、オープンソース・コミュニティの安定性と信頼性を確保するように努めるべきだ。

ソフトウェア開発の継続的なビジネスモデルは、知的財産の基盤がなければ構築できない。オープンソース・コミュニティは、自分自身のために、オープンソース・モデルの枠内でこの可能性を模索してみてはどうだろう。SCO Groupはオープンソース・コミュニティと協力し、ソフトウェア・テクノロジとその基盤にある知的財産から、SCOだけでなくすべての参加者が利益を得られるようにしたいと考えている。

現在のところ、私はSCOの知的財産権と契約上の権利を守るための努力を続けていくつもりだ。前進するのは決してたやすくはない。オープンソース・コミュニティの中には、交渉のテーブルに着くよりも、騒ぎを起こしたほうが楽だと考えている人もいるようだが、国際的な組織を対象としたソフトウェア開発を行っていくつもりなら、知的財産の尊重は必須だ。協力し合えば、これを実現する方法は必ずあるはずだ。

Darl McBride
CEO
The SCO Group

編集部注:この記事に含まれる意見はSCO GroupのCEO、Darl McBride氏のものであり、opentechpress.jp編集部やOSDNの経営陣の見解と一致するとは限りません。また、opentechpress.jpの編集者やライターも、SCOの行動に関して執筆する(または執筆しない)よう買収または強制されているという事実はありません。opentechpress.jpとOSDNはオープンソースコミュニティの正当性を信じる擁護者であることに変化はありません。