なぜ政府のオープンソース優遇措置を受け入れるべきか
しかし、政府を相手にしようとするビジネスには特殊な条件がつきものであり、「政府向けに販売するコードはすべてオープンソース化すべし」というソフトウェアベンダへの要求は、他のさまざまな政府購入条件に比べればそれほど理不尽なものではない。たとえば接着剤の例を考えてみよう。
私は何年も前に、軍用ブーツの靴紐の箱に紙ラベルを貼り付けるための接着剤の仕様書を読んだことがある。この仕様書は4ページにも及ぶもので、接着剤に求められる耐久条件がこと細かに書かれていた。たとえば、民間用の接着剤よりずっと高い/低い気温条件下でも粘着力を維持しなければならず、数年間は箱からラベルがはがれない程度の耐久力が求められる、といった具合である。もちろん、Elmerなどの一般向け接着剤ブランドはこの仕様を満たしておらず、それに近いとも言いがたい。
接着剤業界のロビイストが契約過程でこれは差別だと騒ぎ立てることは考えにくい。その代わりに、仕様を満たす接着剤を作ろうと考える接着剤業者は入札に参加し、その価値はないと考える業者は入札に参加しないというだけの話だ。これこそ自由市場である。
軍用規格の電子機器
一般家庭にあるPanatoshpunkt D-40ステレオ受信機などは、軍用規格に沿って製造されたものではない。北極の極寒条件下で、嵐に揉まれたヘリコプターの中で使用したらどうなるかはテストされていないし、華氏120度もある夏のイラクではおそらく正常に機能しないだろう。
軍部に電子機器を販売しようと思うならば、特殊な「軍用規格」を満たすチップ、ワイヤ、ケース、基盤を使用しなければならない。コネクタについても、通常の民間アプリケーションより高性能のものが要求される。さらに、機器の外装を、消費者向け電気店のディスプレイで使われるような明るい色ではなく、オリーブ色とカーキ色にする必要があるだろう。
IntelやAMDといった大手チップメーカーのほとんどは、特殊な軍用規格製品を製造している。実際のところ、この業界は軍用規格の電子機器を中心として成長してきたところがある。そしてこの業界では、仕様が変更されても不平を言う人はだれもいない。単に、製品を新しい要件に合わせて作り直すだけである。
リムジン会社も政府仕様に準拠
私はボルチモア/ワシントン地区にリムジン会社を数年間構えていたことがある。私は、政府職員が自宅と空港との往復に使用してもよい交通費の額を共通役務庁(General Services Administration:GSA)が決定するときに使う数式を知っていたので、自社のリムジンの価格を、GSAが認める最高額よりも常に下に設定しておいた。
競合他社の中には、政府の交通費返還率が低すぎると不平を言う会社もあった。私は自分のささやかなビジネスをGSA指定の料金構成の範囲内で利益を出せるくらいに効率よく運営していたので、かなり繁盛し、それなりの稼ぎを得ることができた。しかし、他の小さなリムジン会社の多くは、1回ごとの稼ぎを多くしようとした結果、私の会社の約半分の利用回数しか確保できず、結局は倒産してしまった。
メディケア(米国の医療保険制度)の患者を受け入れている医者も、政府の価格リストの制約を受けており、メディケアの支払いを回収するために何枚もの書類を書くという条件を飲まなければならない。薬局など、その他の医療産業も同じである。彼らはいずれも、メディケアのような政府の医療保険制度に伴う条件が気に入らなければ、こうした制度から自由に抜けることができる。
プロプライエタリソフトウェア企業を特別扱いする必要はあるのか?
もしも突然、連邦政府がオープンソースソフトウェアしか使用しないと決定したとしても、MicrosoftやAdobeといった大手のプロプライエタリソフトウェアベンダが政府契約への入札を禁止されたわけではない。政府相手のビジネスをしたいならば、ソースコードの一部を公開しなければならないというだけの話だ。
これらのベンダは、稼ぎ頭の製品の、民間バージョンとは一部機能の異なる特殊なオープンソースの「政府用」バージョンを作成し、「民間用」の機能は希望どおりプロプライエタリにしておくことができる。つまり、多くのチップメーカーが民間用と軍事用の両方のマイクロプロセッサを製造しているのと同じである。
政府に何かしらのサービス/製品を販売する企業は、守衛サービスから航空機製造会社にいたるまで、どんな業界の企業であっても、民間の顧客を相手にする場合より厳しい規則と仕様を受け入れなければならないのだ。
ソフトウェア業界も甘えてはいられない。ソフトウェア業界も他の業界と何ら変わりないことを認識する必要がある。さらに、他の業界と同様に、政府を顧客にしたいならば政府の購入規則に従う必要があるということを実感しなければならない。たとえその規則の1つが、「政府に販売するソフトウェアはすべてOSI公認ライセンスを持たなければならない」というものであってもだ。