ネバダのLinux成功談
このときO’Barrは、ハードウェアをアップグレードするのに20,000ドルかかり、さらにCisco Systemsにライセンス料金を支払わなければならないことを知った。そこでO’Barrは、Linuxでファイアウォールを作成してみようと決心した。当時のO’Barrは、オペレーティングシステムを扱った経験はあまりなく、それをファイアウォール環境で使った経験もほとんどなかったが、やり遂げるだけの知識を身に付ける自信はあった。
O’BarrはDell Computerから小型のラックマウントサーバを約1,300ドルで購入し、Red Hat Linuxをダウンロードし、ファイアウォールの作成に取り掛かった。その結果、O’Barrが言うことには、同学区がそれまでPIXで実現していたどのファイアウォールよりも優れたファイアウォールができあがった――それも、かなり安いコストで。
この成功の後、O’BarrはすっかりLinuxに夢中になった。Linuxについて学習できることはすべて学習し、口うるさいLinux支持者となり、伝統的にMicrosoft製品を支持していたネバダ州の情報技術局にとって頭痛の種になった。彼はLinuxに精通し、他のプロジェクトにも積極的に関与するようになり、すぐに大きなチャンスをつかまえた。
ファイアウォール・プロジェクトの完成後まもなく、O’Barrはチャーチル郡学区を離れ、ネバダ州矯正局のネットワーク管理者に就任した。そこで彼は大きな難題に直面した。彼はNCIS(Nevada Criminal Information System)という受刑者記録管理システムの保守とトラブルシューティングを1年間担当した後、昇進を果たし、同局のネットワーク、通信、およびインフラストラクチャをツイストペアEthernetとTCP/IPを中心に整理統合する仕事を任された。
同局のシステムは多様なプラットフォーム上でさまざまなネットワーキングスキーマを使って構築されていたので、この仕事は非常に手ごわかった。NCISは、RevelationというPICKベースのDOSデータベース開発環境で開発されたもので、ソフトウェアはARCnetケーブルおよびIPXで接続されたNetware 3.12サーバと286クライアントマシンの上に置かれていた。2つ目のシステムは、インターネット経由のファイル共有を可能にするためのもので、Windows 2000 Serverを実行するDell PowerEdge 4400上に置かれていた。3つ目のシステムは、DB2ベースの銀行取引システム/受刑者経理システムであり、Twinaxケーブルと専用SNA回線を持つIBM AS/400上に置かれていた。
O’Barrはまず、ネバダ州のMicrosoftベースのWebサーバを、寄付されたDell Pentium IIワークステーション上にRed Hat Linux 7.1、Apache Webサーバ、そしてWebスクリプト言語PHPをインストールしたものに置き換えた。さらに、オープンソースデータベースであるPostgreSQLをインストールし、それを使って受刑者検索機能を追加した。これにより、それまでは州職員しか見ることのできなかった受刑者データに州職員、弁護士、および一般市民が従来のNCISシステムからアクセスできるようになった。このシステムは2001年9月10日に稼動を始めたが、直後に起きた例の大事件によって影が薄くなってしまったので、一般市民に正式に告知されることはなかった。
しかし、宣伝されなかったにもかかわらず、このWebベースのシステムは大きな人気を集めている。最近のある月では、同サイトはのべ35,000人の訪問者を数え、毎月平均で10%の伸びを見せている。今日では、警察が最近釈放された受刑者の中に容疑者がいないかどうかを調べるためにこのサイトをチェックしたり、弁護士が陳述を組み立てるための参考として利用したり、一般市民が服役中の親戚の収容場所と面会時間を調べるために利用したり、犯罪被害者が加害者がまだ服役中かを調べるために利用したりしている。
O’Barrの考えは正しかった。Linuxはまさに適役であり、かかった費用もごくわずかだった。O’Barrは、寄付されたPC機器とダウンロードしたソフトウェアを使用して、自分の作業時間の他にはコストをかけずにシステムを構築した。これはきわめて重要なポイントだった。O’Barrによれば、特にネバダのように、急激に発展して、増え続ける住民にこれまでどおりの財源でサービスを提供する手段を見つけ出さなければならない州にとっては非常に重要なことだった。
使用量が増えれば、節約される経費の額も大きくなる。「我々は、うまく利用すればWebサイトがいかに有益な広報ツールになり得るかという点をかなり過小評価していた」とO’Barrは述べている。「このWebサイトは、広報課が受ける電話や質問の量を大幅に減らし、住民の情報収集にも大いに役立っている。」
この矯正局でのLinuxの成功に自信を得たO’Barrは、今度はNSIS(Staffing Information System)に目を向けた。これは、Visual BasicとMicrosoft Accessで開発された人員配置/残業管理システムである。Accessは拡張性に難があり、生成されるデータ量に効率的に対処できず、WANリンク上での動作に問題があるので、O’Barrと彼のチームは、バックエンドでPostgreSQLを使用するMicrosoft Accessのフロントエンドを開発した。クライアントコンピュータには既にAccessがインストールされていたので、人件費を除く純費用はゼロだった。
そのうちに、O’BarrはLinuxのもう1つのメリットに気が付いた。州政府(特に矯正局)にとっては、セキュリティが最重要課題である。O’BarrはMicrosoftのセキュリティは一流だとしているが、その一方でこうも述べている。「オープンソースソフトウェアは前線の塹壕で作成されたものだと思ってもらえばよい。荒削りで、必ずしも洗練されているとは言えないだろうが、設計としてはより安全である。」
O’BarrのLinuxのセキュリティについての自信は、経験から生まれてきたものだ。ハードディスク/コントローラの問題のせいで予定外にサービスを中断しなければならなくなった2回の事態を除いては、このシステムは2年間もダウン時間なしで機能し続けたのである。彼によれば、「塀の中」で動作するシステムにとってこれは特に重要な点である。
どんな環境でも、Linuxを機能させるには、ネットワーク管理者にシステムの使用方法とトラブルシューティング方法を教え込むことが重要である、とO’Barrは述べている。O’Barrは、「Linuxの管理は、ネットワーキングについて理解している人にとってはそんなに難しいことではない。しかし、そうでない人――Windowsネットワークを実行している人の多くは本当の意味でネットワーキングを理解していないのだが――は非常に苦労するだろう」と語っている。問題を防ぐために、O’Barrはこのオペレーティングシステムの全詳細を学ぶ時間を取ることを勧めている。そうすれば、日々の管理もWindowsの管理と同じくらい簡単になるということだ。
しかし、このLinuxの明白なメリットが、すべての人にとってそうであるとは限らない。O’Barrは、ネットワーク管理者ならばこのオペレーティングシステムを管理できると請け合う一方で、全般的な技術知識を持った熟練スタッフの必要性も説いている。
「スタッフの顔ぶれを見回して、既にLinuxの知識がある人、またはLinuxを学習できる人がいるかどうかを考えてみよう。そして、必要なソフトウェアが既にあるかどうか、または役に立つLinux用のソフトウェアをすぐに作成できるかどうかを自問してみよう。どちらの答えもYESならば、Linuxを採用しない理由はない。しかし、定期的にMicrosoftに電話をかけるようなスタッフや、Linuxでは使用できないキーアプリケーションを使っている環境ならば、商用ソフトウェアを使用した方がいいだろう」と彼は述べている。
O’Barrによると、ネバダに関して言えば、Linuxの将来は明るい。大きな理由の1つはコストである。
「現在の手持ちのPCにインストールするWindows XP Professionalを購入した場合、それだけで200ドルかかる。Microsoft Officeを使うならば、さらに340ドルかかる。実際に動かせるコンピュータを用意するために、Microsoftのソフトウェアだけで540ドルもかかるのだ。しかし、Linux上でOpenOfficeを使用すれば高額なコストはかからないし、それでユーザのニーズの80%に対応できる。」
O’Barrはユーザ層を拡大するために、Linuxを採用してくれそうな人々のためにLinuxシステムをセットアップすることを始めた。「Linuxの有用性を証明する唯一の方法は、まずその存在を知らしめることである」と彼は指摘している。パイロットがうまく機能すれば、当局がLinuxワークステーションをできるだけ多くのユーザに配ってくれる可能性もある。
しかし、デスクトップのLinux化に進む前に、O’BarrはNetWare 3からの移行を検討している。Netware 6.5にアップグレードすれば、移行計画を作成することになる。なぜなら、NovellネットワークサービスはLinux上に移植されているからだ。すべてが計画どおり進めば、当局のすべてのファイル/印刷サービスをLinuxカーネル上に移し、その上でNetWareサービスを実行できる可能性がある。このシステムは、現在のWindowsサーバと、現在ファイルと印刷の共有のために使われているNetWareサーバを置き換えることになるだろう。
O’Barrの成功談が広まるにつれて、彼は他の局もLinuxを使用しているか、使用を検討しているということを知るようになった。最近になって、ネバダ州の健康局が12台のLinuxサーバを運用しており、だれも表立って語ろうとはしないが、かなりの数の州政府機関がLinuxサーバの実験を進めていることが明らかになった。
O’Barrは次のように語っている。「だれもがMicrosoft贔屓であるような政治情勢の中で、そんなことをしていると告白するのは自分の首を絞めるようなものだ。だから、彼らは何も口にしない。しかし、彼らは重要なビジネスニーズを満足させ、偉大なことを成し遂げている。」
Karen D. Schwartz――ワシントンD.C.を拠点とするライター/編集者。主にテクノロジー/ビジネス関係の問題を扱う。