ARMアーキテクチャの高速CPU搭載、フルモデルチェンジしたOpenBlocks徹底レビュー

 ぷらっとホームが超小型サーバー「OpenBlocks」の新モデルである「OpenBlocks Aファミリ」を発売した。OpenBlocks AファミリではARM系CPUの搭載によって処理性能が大幅に向上し、IAサーバーからの置き換えもできるという。本記事ではOpenBlocks AX3を試用し、ハードウェアおよびソフトウェアの特徴やベンチマークテスト結果、使用感などを紹介する。

 近年、PCの世界では本体サイズの小型化が進んでいる。ビジネス向けのデスクトップPCはコンパクトなMicroATXサイズが主流で、さらに筐体が小さいものや、液晶一体型の製品も広く普及している。いっぽうサーバーの世界では、一部例外はあるものの、未だに大型の筐体が主流である。24時間、365日の稼働が前提で、またメモリやストレージなどを多く搭載する必要があるため仕方がないことなのだが、設置スペースに制限がある場合などに、コンパクトなサーバーがほしい、というケースもある。

 このような場合、コンパクトなデスクトップPCをサーバーに転用するという方法もあるが、一般的なPCは長期にわたっての連続稼働を意図していないことが多く、信頼性において不安がある。このような需要に向け、ぷらっとホームが提供している小型サーバー製品が「OpenBlocks」だ。

 OpenBlocksは手のひらに載るコンパクトサイズながら、複数のイーサネットポートやシリアルポートを搭載するLinuxサーバー製品だ。2000年7月に初代モデル「OpenBlocks」をリリースして以来、「OpenBlocks S/R」、「OpenBlocks 266」、「OpenBlocks 600」と後継モデルが続いている人気シリーズである。そしてこのたび、最新モデルとなる「OpenBlocks AX3」および「OpenBlocks A6」(OpenBlocks Aファミリ)が発表された(図1、2)。

図1 OpenBlocks AX3
図1 OpenBlocks AX3
図2 OpenBlocks A6
図2 OpenBlocks A6

 従来のOpenBlocksシリーズはPowerPC系のCPUを採用していたが、OpenBlocks AファミリではARM系CPUを採用。特にOpenBlocks AX3では1.33GHzで駆動するデュアルコアCPU「Marvell Armada XP」(ARM Cortex-A9ベース)を採用しており、大幅な性能向上が期待できる。

 OpenBlocksについては導入実績も多く、価格も手ごろであるため注目している人も多いだろう。今回、編集部ではOpenBlocks Aファミリの上位モデルであるAX3のES版(エンジニアリングサンプル版、量産一歩手前のハードウェア)を借りることができた(図3)。そのハードウェア仕様や初期設定、性能、考えられる導入例などをチェックしていこう。

図3 OpenBlocks AX3の幅や奥行きは3.5インチHDDとほぼ同サイズだ
図3 OpenBlocks AX3の幅や奥行きは3.5インチHDDとほぼ同サイズだ

性能が大きく向上、お値段はほぼ据え置きのOpenBlocks Aファミリ

 OpenBlocks Aファミリは記事執筆時(2012年6月)現在、AX3とA6という2モデルが用意されている。AX3にはイーサネットポート数が異なる2モデルが用意されているので、厳密に言えばハードウェア構成は3種類となっている(表1)。

表1 OpenBlocks Aファミリの仕様
製品名 OpenBlocks AX3イーサ4ポート OpenBlocks AX3イーサ2ポート OpenBlocks A6
CPU ARMADA XP/1.33GHz ARMADA 310(600MHz)
メモリ 1GB(DDR3) 512MB(DDR2)
内蔵フラッシュROM 128MB(NOR) 64MB(NAND)
ネットワークインターフェイス(1000BASE-T) 4 2 1
シリアルATAポート 1 1
eSATAポート 1
USB 2.0ポート 2 1
RS232Cポート 2
mini-PCI Express x1スロット 1
SO-DIMMスロット 1
筐体サイズ 101.0×142.1×41.0mm(W×D×H、ゴム足含まず) 81.0×114.5×36.0mm(W×D×H、ゴム足含まず)
質量 約370g 約205g
消費電力(アイドル時/最大時) 10.0W/13.0W 9.0W/12.0W 4.5W/6.0W
OS Debian GNU/Linux 6.0
参考価格(税込) 59,800円より 36,800円より

 OpenBlocks Aファミリでもっとも最上位のモデルが、OpenBlocks AX3イーサ4ポートモデルだ。CPUにはARM Cortex-A9コアをベースとするMarvellのARMADA XPを搭載、駆動周波数は1.33GHzとなっている。ARM系CPUはコア部分のライセンスを受けて各メーカーが独自に製造を行っており、Cortex-A9はAppleのiPad 2やiPhone 4S、PlayStation Vitaなどにも採用されている。実際にOpenBlocks AX3の基板を確認したところ、搭載されているのはARMADA XPの「MV78260」というモデルのようだ。

 ARMADA XPはスマートフォンやタブレットのような携帯型デバイスだけでなくサーバーでの利用も視野に入れたCPUであり、I/O周りは一般的なPCに近い(表2)。

表2 MV78260の仕様
項目 仕様
最大駆動周波数 1.6GHz
コア数 2
L2キャッシュ 1MB
メモリ DDR2/DDR3、ECC対応
PCI Express 2.0 2 ユニット、x4 /quad ×1 1ユニット×4
ギガビットイーサネットポート 4ポート
SERDES Lanes 12 Lanes PCIe/SGMII/SATA/QSGMII/ETM
ローカルバス 32ビット

 メモリも最新のDDR3 SDRAMとなり、シリアルATAポートやeSATAポートといった最新のインターフェイスを搭載するなど、OpenBlocksの旧モデルと比べるとより現代的な仕様となっている(図4)。

図4 OpenBlocks AX3では、各種インターフェイスが前面にまとめられている
図4 OpenBlocks AX3では、各種インターフェイスが前面にまとめられている

 OpenBlocks AX3イーサ2ポートモデルはイーサネットポートが2基しかなく、またmini-PCI ExpressスロットやSO-DIMMスロットなどが省略されている。それ以外の仕様は4ポートモデルと同じだが、2ポートしか使わないからといって2ポートモデルを選択してしまうと、これらのインターフェイスが利用できなくなってしまうので注意したい(図5、6)。

図5 OpenBlocks AX3イーサ2ポートモデルの筐体は4ポートモデルとほぼ同じだ
図5 OpenBlocks AX3イーサ2ポートモデルの筐体は4ポートモデルとほぼ同じだ
図6 OpenBlocks AX3イーサ2ポートモデルではSO-DIMMメモリスロットやmini-PCI Expressスロットなどが実装されていない
図6 OpenBlocks AX3イーサ2ポートモデルではSO-DIMMメモリスロットやmini-PCI Expressスロットなどが実装されていない

 OpenBlocks A6はOpenBlocks Aシリーズの廉価モデルとなる。CPUはARM9コアのARMADA 310(600MHz)で、メモリは512MB(DDR2)、内蔵フラッシュROM容量は64MBと、AX3と比べるとスペックは抑えられている。ネットワークインターフェイスやUSB 2.0ポートも1ポートのみで、mini-PCI ExpressポートやSO-DIMMスロットも用意されていない。その代わり、AX3には搭載されていないGPIO端子が搭載されているのが特徴だ(図7)。

図7 OpenBlocks A6の前面にはGPIO端子が用意されている
図7 OpenBlocks A6の前面にはGPIO端子が用意されている

 ARMADA 310はMarvellの「ARMADA 300シリーズ」に属する製品で、特に低消費電力に注力したモデルとなる。ARM9コアは2000年代前半に発表されたものであり、またCPUの駆動周波数も600MHzと、AX3と比べるとやや性能的に見劣りするものの、従来モデルであるOpenBlocks 600のCPU(PowerPC 405EX、600MHz)と比較すると遜色はない(表3)。

表3 ARMADA 300/310の仕様
項目 仕様
最大動作周波数 2GHz/1GHz
L2キャッシュ 256KB
メモリインターフェイス 16ビット、DDR2もしくは3(最大1066MHzのデータレートにまで対応)
ギガビットイーサネットポート 最大2ポート
PCI Expressポート 最大2ポート
USB 2.0 1ポート
シリアルATAポート 最大2ポート

 消費電力はAX3シリーズの約半分で筐体サイズも1周り小さく、価格も3万6,800円からと購入しやすい。コンパクトなマシンが必要だがPCサーバー並のCPUパワーは必要ない、というケースに向いた製品だ。