Outlook以外のメールクライアントでExchangeを利用できる「DavMail」

 メールや予定表の管理にMicrosoft Exchangeを導入している企業は少なくない。中には新バージョンのExchange 2010に移行を進めている部署もあるだろう。だが、Exchangeは基本的にOutlook以外からはアクセスできず、Becky!やThunderbirdといったメールクライアントを使っているユーザーや、MacやLinuxで開発を行っている技術者にとっては非常に不便だった。そこで利用したいのが「DavMail」である。

 DavMailは、Exchangeサーバのデータを一般的なメールクライアントから利用可能なように変換するゲートウェイサーバだ。Exchangeサーバには外部からブラウザでメールを読み書きするための「Outlook Web Access」(OWA)というウェブメール機能が用意されている。DavMailは、このOWAに含まれている「WebDAV」機能(Exchange 2010では「Exchange Web Service」(EWS)機能)を利用して、POP/IMAPによるメール受信、SMTPによるメール送信を実現している。これに加えてLDAPによるアドレス検索や、CalDAV/CardDAVによる予定表/アドレス帳の同期まで実行可能だ。

 DavMailはサーバソフトなのでローカルPCにインストールして使うだけではなく、サーバ機にインストールして外部のPCから接続することも可能である。設定もサーバソフトとしては簡単で、複雑なネットワークの知識などは必要ない。クロスプラットフォームアプリケーションであり、OSを問わずにさまざまなメールクライアントを使えるのもありがたい。ただし、Exchangeサーバの設定によってOWAが無効にされている場合は利用できないので注意されたい。また、企業によっては使用を禁じられていることもある。管理者に必ず確認をとってから導入するようにしよう(図1)。

図1 好きなクライアントでExchangeにアクセスできる「DavMail」
図1 好きなクライアントでExchangeにアクセスできる「DavMail」

DavMailのインストール

 DavMailはダウンロードページから入手できる。Mac版、Linux版も用意されているが、Windowsで利用するなら、Windowsのロゴとともに「DL」と書かれたボタンをクリックし、.exe形式のインストーラをダウンロードすればよい。.zip形式のファイルはサーバ用でGUIが付属しないため注意されたい(図2)。

図2 Windowsのロゴが書かれたボタンをクリックしてインストーラを保存する
図2 Windowsのロゴが書かれたボタンをクリックしてインストーラを保存する

 DavMailはJavaアプリケーションなので、動作にはJavaランタイムが必要になる。PCにランタイムがインストールされていない場合は、あらかじめダウンロードして導入しておこう(図3)。

図3 「無料Javaのダウンロード」をクリックしてランタイムを保存し、インストールしておく
図3 「無料Javaのダウンロード」をクリックしてランタイムを保存し、インストールしておく

 ダウンロードしたDavMailのインストーラを実行し、インストールを行う。インストーラは標準的なウィザード形式なので、言語の選択画面で「English」を選択した後に、画面の指示に従って「Next」をクリックしていけばよい。特に迷うところはないはずだ(図4、5)。

図4 言語選択画面では「English」を選んで「OK」をクリックする
図4 言語選択画面では「English」を選んで「OK」をクリックする
図5 インストールは「Next」をクリックしていくだけだ
図5 インストールは「Next」をクリックしていくだけだ

DavMailの基本的な使い方

 インストールの終了時、「Run DavMail<バージョン番号>」にチェックを入れて「Finish」をクリックするか、デスクトップに表示されるアイコンをダブルクリックするとDavMailが起動する。起動したDavMailは通知領域に常駐し、以降はPCを立ち上げた際に自動で起動するようになる。なお、初回起動時にはWindowsファイアウォールによる警告画面が表示されることがあるが、「ブロックを解除する」をクリックすればよい(図6)。

図6 初回起動時にWindowsファイアウォールの警告が表示されたらブロックを解除しておこう
図6 初回起動時にWindowsファイアウォールの警告が表示されたらブロックを解除しておこう

 通知領域に表示されるDavMailのアイコンをダブルクリックするか、アイコンを右クリックして「Settings」を選択するとDavMailの設定画面が表示される。まずは最上段の「OWA(Exchange)URL」に、ExchangeのウェブメールURLを「https://」から省略せずに入力する。Exchangeのバージョンが2003以前の場合、URLは「https://〜/exchange/」となっていることが多い。2007あるいは2010の場合は「https://〜/owa/」となっていることが多い。ただし、サーバの設定によってURLが大きく異なる場合がある。必ず管理者に確認をとってから設定してほしい。そのほかの設定は特に変更しなくてもよい。ポート番号が衝突している場合や、メールクライアント側でポートの設定を行いたくない場合はポートを適宜変更しておこう。設定が終了したら「Save」をクリックして画面を閉じる(図7)。

図7 「OWA(Exchange)URL」にExchangeサーバをブラウザから利用する際のURLを入力する
図7 「OWA(Exchange)URL」にExchangeサーバをブラウザから利用する際のURLを入力する

 DavMailの設定が完了したら、次にメールの送受信に使うメールクライアントの設定を行う。設定すべき項目は表1の通りである。POP3とIMAPは使用するプロトコルのどちらか一方を設定すればよい。Exchangeはサーバ上にフォルダを作成できるので、基本的にはIMAPを使う方が便利だろう。Active Directoryのユーザー名はウェブメールのログインに使うものと同様だ。Exchangeサーバのバージョンが2003の場合は「ドメイン名\ユーザー名」の形式で入力する必要があるので注意してほしい。ここでは例として「Becky!」と「Thunderbird」の2つのクライアントについて解説する。

表1 メールクライアントの設定
設定項目 設定
POP3サーバ localhost:1110
IMAPサーバ localhost:1143
SMTPサーバ localhost:1025
ユーザー名 Active Directoryのユーザー名
パスワード Active Directoryのパスワード
接続の保護/SSL なし
POP・IMAP認証方式 標準/平文
SMTP認証 あり
SMTP認証方式 LOGIN/平文

※Active Directoryのユーザー名は、Exchange 2003の場合「ドメイン名\ユーザー名」、Exchange 2007およびExchange 2010の場合「ユーザー名」にする

 Becky!の場合、メニューバーの「ファイル」−「メールボックス」−「新規作成」を選択し、任意の名前でメールボックスを作成する。メールボックスの設定画面が開くので、「名前」と「メールアドレス」を入力しよう。「サーバー情報」欄の「受信プロトコル」から「POP3」か「IMAP4rev1」を選択し、「POPサーバー(受信)」または「IMAPサーバー(受信)」、および「SMTPサーバー(送信)」に「localhost」と入力する。「ユーザーID」と「パスワード」に管理者から与えられたActive Directoryのユーザー名とパスワードを入力する(図8)。

図8 Becky!でメールボックスを作成し、サーバとユーザーの情報を入力する
図8 Becky!でメールボックスを作成し、サーバとユーザーの情報を入力する

 「詳細」タブを選択し、「サーバーのポート番号」にある「SMTP」および「POP3」、「IMAP4」をそれぞれ「1025」および「1110」、「1143」に変更する。最後に「SMTP認証」にチェックを入れて「OK」をクリックすれば設定完了だ。あとはツールバーの「受信」あるいは「リモートメールボックス」をクリックすると、Exchangeサーバ上のメールがDavMailを介してBecky!で受信される。送信も通常通りツールバーの「新規メール」から行えばよい(図9、10)。

図9 ポート番号とSMTP認証の設定を行ったら設定画面を閉じる
図9 ポート番号とSMTP認証の設定を行ったら設定画面を閉じる
図10 POPの場合はBecky!のツールバーから「受信」、IMAPの場合は「リモートメールボックス」をクリックするとExchangeのメールを受信できる
図10 POPの場合はBecky!のツールバーから「受信」、IMAPの場合は「リモートメールボックス」をクリックするとExchangeのメールを受信できる

 Thunderbirdの場合、メニューバーの「ファイル」−「新規作成」−「メールアカウント」を選ぶ。「あなたの名前」と「メールアドレス」を入力し、「パスワード」にActive Directoryのパスワードを入力する。「続ける」をクリックするとMozilla ISPデータベースから設定の検索が行われるが、自動設定は不可能なので「中止」をクリックしよう。設定画面下部に表示される「ユーザ名」にActive Directoryのユーザー名、「受信サーバ」と「送信サーバ」に「localhost」と入力する。中央のプルダウンで「POP」か「IMAP」のどちらかを選択し、ポート番号をPOPなら「1110」、IMAPなら「1143」に変更しよう。下段のSMTPポート番号も「1025」に変更しておく。「接続の保護」はそのままにして「手動設定」をクリックする(図11、12)。

図11 Thunderbirdで新規アカウントを作成し、メールアドレスなどを入力する
図11 Thunderbirdで新規アカウントを作成し、メールアドレスなどを入力する
図12 ユーザ名とサーバ情報を入力して「手動設定」をクリックする
図12 ユーザ名とサーバ情報を入力して「手動設定」をクリックする

 設定画面が表示されたら左の欄から「送信(SMTP)サーバ」を選択する。SMTPサーバの一覧から「localhost」を選んで「編集」をクリックしよう(図13)。

図13 SMTPサーバの設定画面で「localhost」の編集画面を呼び出す
図13 SMTPサーバの設定画面で「localhost」の編集画面を呼び出す

 「認証方式」で「平文のパスワード認証(安全でない)」を選び、「ユーザ名」にActive Directoryのユーザー名を入力したら「OK」をクリックし設定画面を閉じる。あとはBecky!同様にツールバーから受信の操作を行えばよい。メール送信時にはパスワードの入力画面が求められるので、その際にActive Directoryのパスワードを入力しよう(図14)。

図14 SMTP認証とユーザー名の設定を行うとExchangeサーバのメールが送受信可能になる
図14 SMTP認証とユーザー名の設定を行うとExchangeサーバのメールが送受信可能になる

LDAPで人やアドレスを検索する

 DavMailを経由してメールクライアントからLDAPを利用すると、Active Directoryから人やアドレスを検索することが可能になる。LDAPクライアント機能は現代のメールクライアントの多くに標準搭載されているので、是非とも設定しておきたい。設定すべき項目は表2の通りだ。

表2 LDAPを利用する設定
設定項目 設定
サーバ名/ホスト名 localhost
検索開始位置/ベース識別名 ou=people
ポート番号 1389
エントリ識別名/バインド識別名 Active Directoryのユーザー名
パスワード Active Directoryのパスワード
SSL 使わない

 Becky!の場合、アドレス帳を表示したらメニューバーの「ファイル」−「新規アドレス帳」を選択する。「アドレス帳の名前」に任意の名前を入力したら「LDAPサーバー」を選ぼう。「サーバー名」に「localhost:1389」、「検索開始位置」に「ou=people」と入力する。「エントリ識別名」と「パスワード」にActive Directoryのユーザー名とパスワードを入力し「OK」をクリックする。一覧から作成したアドレス帳を選んで、検索ボックスに名前やメールアドレスを入力すると検索が行える(図15、16)。

図15 Becky!では「新規アドレス帳」からLDAPの設定を行う
図15 Becky!では「新規アドレス帳」からLDAPの設定を行う
図16 作成したLDAPのアドレス帳を選ぶと、検索ボックスからメールアドレスなどを検索可能だ
図16 作成したLDAPのアドレス帳を選ぶと、検索ボックスからメールアドレスなどを検索可能だ

 Thunderbirdの場合、アドレス帳を表示したらメニューバーの「ファイル」−「新規作成」−「LDAPディレクトリ」を選択する。「名前」に任意の名前、「ホスト名」に「localhost」、「ベース識別名」に「ou=people」と入力する。「ポート番号」を「1389」に変更し、「バインド識別名」にユーザー名を入力したら「OK」をクリックしよう。あとはBecky!と同様だ(図17)。

図17 ThunderbirdもLDAPの設定はBecky!とほとんど変わらない
図17 ThunderbirdもLDAPの設定はBecky!とほとんど変わらない

Exchangeの予定表とアドレス帳をThunderbirdで管理

 メールクライアントがThunderbirdなら、CalDAVやCardDAVに対応したアドオンを導入することで、Exchangeサーバ上の予定表やアドレス帳もThunderbirdで管理可能になる。ここでは簡単に設定方法を紹介していこう。予定表を管理するにはカレンダー・Todoアドオンである「Lightning」を利用する。インストール後にメニューバーの「ファイル」−「新規作成」−「カレンダー」を選択すると、新しいカレンダーの作成ウィザードが表示されるので「ネットワークのサーバに保存する」を選び「次へ」をクリックする(図18)。

図18 カレンダーの作成で「ネットワークのサーバに保存する」を選択する
図18 カレンダーの作成で「ネットワークのサーバに保存する」を選択する

 「フォーマット」から「CalDAV」を選択し、「場所」に「http://localhost:1080/users/<メールアドレス>/calendar」を入力する。メールアドレス部分は管理者から用意されたExchange用のアドレスを入力しよう(図19)。

図19 「CalDAV」を選んでからURLを設定する
図19 「CalDAV」を選んでからURLを設定する

 任意の名前を入力したら、カレンダー上で予定に付けられる色を選んで「次へ」をクリックする(図20)。

図20 カレンダー名と色を選んでウィザードを進める
図20 カレンダー名と色を選んでウィザードを進める

 ユーザー名とパスワードの入力画面が表示されるので、Active Directoryのユーザー名とパスワードを入力して「OK」をクリックする。サーバから予定がダウンロードされ、カレンダーに表示される。日時や設定によってはリマインダーやアラームも表示される(図21)。

図21 ユーザー情報を入力するとカレンダーの同期を実行できる
図21 ユーザー情報を入力するとカレンダーの同期を実行できる

 アドレス帳の管理や同期を行うには「SOGo Connector」を利用する。インストールを行ったら、Thunderbirdのアドレス帳を表示し、メニューバーから「新規作成」−「Remote Address Book」を選ぶ。「Name」に任意の名前を入力し、「URL」に「http://localhost:1080/users/<メールアドレス>/contacts」と入力する。メールアドレスはカレンダーと同様、環境に合わせて変更してほしい(図22)。

図22 新規の「Remote Address Book」でアドレス帳の名前とURLを設定する
図22 新規の「Remote Address Book」でアドレス帳の名前とURLを設定する

 アドレス帳のツールバー上で右クリックし、コンテキストメニューから「カスタマイズ」を選択する。表示された「ツールバーのカスタマイズ」ダイアログに「Synchronize」というボタンが表示されているはずなので、これをアドレス帳のツールバーにドラッグ&ドロップして登録する(図23)。

図23 カスタマイズで「Synchronize」ボタンをツールバーに登録する
図23 カスタマイズで「Synchronize」ボタンをツールバーに登録する

 先ほど作成したアドレス帳を選択し、ツールバーの「Synchronize」をクリックする。表示されるユーザー名とパスワードの入力画面でActive Directoryのユーザー情報を入力すると、アドレス帳の同期が行われる(図24)。

図24 「Synchronize」をクリックするとアドレス帳がサーバ上と同期される
図24 「Synchronize」をクリックするとアドレス帳がサーバ上と同期される

今回紹介したツール:DavMail