メーリングリストの死

Mandriva Linuxというと、私などは旧名のMandrakelinuxのほうに馴染みがあるのだが、まあそれはともかく老舗のGNU/Linuxディストリビューションの一つである。Ubuntuが出てくる前の2004年ごろには最も注目されていたディストリビューションであり、現在でもヨーロッパや(ブラジルのConnectivaを買収・合併したので)南米を中心に根強い人気を誇っている。

ところで、古参のMandrivaコントリビュータの一人、Vincent Danen氏の最近のブログ記事によると、Mandriva関係のメーリングリストの流量が目に見えて落ち込んでいるそうである。確かに、開発者向けメーリングリスト(cooker ML)の流量は2007年まで年間4-5万通あったのが今年は1万5千通弱であり、コミュニティによるサポートリスト(expert ML)や新米ユーザ向け(newbie ML)に至っては5ケタが4ケタという激減ぶりだ。これを引いて彼は、「Mandrivaのコミュニティは急激に衰えている!」と懸念を表明した。

確かにMandrivaの場合、例えばニッチのかぶるUbuntuにユーザを奪われているという可能性も高いわけだが、それにしてもこれは数として減りすぎである。そこで、他に理由があるのではないか、という間違い探しが始まったのだが、とりあえず開発者向けメーリングリストの流量が今年になって急に下がったのは、どうやらBugzillaのログメールをメーリングリストに流さなくなったせいではないか、という話に落ち着いた。問題は、いわゆるユーザ向けのメーリングリスト二つのほうである。というのも、どうもMandrivaに限らず、GNU/Linuxの一般ユーザ向けのメーリングリストは、流量、加入者共にどこも頭打ちか、減少傾向にあるようなのだ。

考えられる理由の一つは、GNU/Linuxが製品としてある程度成熟し、昔のように何でもかんでも聞いて回らなくても大体按配良く動くようになったのではないか、ということである。現実問題として、最近ではGNU/Linuxのインストールも簡単だし、大方の周辺機器はとりあえずUSBに差せばそのまま動く。アーカイヴを(検索可能な形で)公開するところも増えているため、わざわざメーリングリストに参加しなくても情報が得られるようになったということもあるだろう(そもそも単にウェブで検索したほうが早いということもままある)。また、SPAM対策が進んでメーリングリストに迷惑メールが流れなくなり、その結果として目に見える流量が減ったということもあると思う。

ただ、少なくともMandrivaの場合、どうやら昔はメーリングリストに加入していたような(例えば質問がしたい)ユーザは、フォーラム(掲示板)に流れているらしいのである。やはりMandrivaの開発者であるAdam Williamson氏がブログで出したグラフを見ると、確かにMandriva Forumsの登録ユーザも投稿数も増えている。特に投稿数はかなり急激な伸びである。Ubuntuにしても、質問やその答えといったユーザ同士のコミュニケーションは、メーリングリストというよりはウェブ掲示板のUbuntu Forumsを中心に行われているようだ。ちなみに私が知る限り、Debian開発者は洋の東西を問わず皆掲示板なるものが嫌いだと思うのだが、そのDebianにしてもDebian User Forumというのがあって、最近ではなかなか盛況のようである。

私が思うに、メーリングリストというもの自体が、特定多数によるコミュニケーション手段としては時代遅れになりつつあるのではなかろうか。一般的なユーザは、どういうわけか掲示板が大好きなのである。これは2ちゃんねるやスラッシュドット・ジャパンを擁する日本に限らず、世界的な傾向のようだ。私などは、どう考えてもメーリングリストのほうが書くのも読むのも運営するのも楽だと思うのだが、そういう考えの持ち主はもはや少数派らしい。

もちろん、書き込みに応じたユーザのレーティングが付いたり、RSSフィードを吐いたり、更新通知がメールで来たり、読み書きのインターフェースが改善されたり、そもそもネットワークの回線速度が速くなったりと昔のプリミティヴな掲示板システムと比べて技術面でずいぶん改善されているということもあるのだが、そういった細かいことはさておいて、とにかくウェブブラウザから書けて敷居が低いというのが重要のようだ。さらに言えば、何か掲示板的なインターフェースそのものにそれ特有の魅力、あるいは人間の生理に対する適合性のようなものがあるのではないかとすらも思われる。それが何か、スパッと指摘できないのが情けないところだが…。いずれにせよ、今後新たに何かオープンソースによるバザール型開発プロジェクトを興すならば、ユーザ向けにはメーリングリストではなく、掲示板を用意したほうが良いということは言えそうである。開発者向けにはメーリングリストのほうが良いと思うが…。

ところで、昔NetNewsというものがあった。今もあるが、率直に言って多くの人にとっては存在しないも同じである。あれほど隆盛を極めていたNetNewsが、ほとんど数年のうちに全く姿を消してしまったというのが、私にとっては極めて印象的な出来事だった。メーリングリストに関しても同じような急激な絶滅が見られるのだろうか。今後しばらく注目していきたいと思っている。