Ulteo Application System試用記 - 新進気鋭ながら若干バグ気味

 Ulteo Application Systemは、KubuntuベースのGNU/Linuxディストリビューションだ。Ulteo Online Desktopサービスと連携して、別サイトへの自動バックアップや、Live CDの複数インスタンス間でのファイルの同期を行えるようになっている。ユーザによる設定やメンテナンスをできるだけ少なくすることを目指しており、ごく普通のディストリビューションとは一線を画すユニークな機能がいくつか搭載されている。

 私は今回、Sempron 2800と512MBのメモリを搭載したマシンでUlteo Application Systemを試してみた。Live CDからの起動には3分近くを要した。同じマシンで他のLive CDを使った場合に比べるとかなり遅い。だがその代わり、インストールを行ったときのファイルのコピーは速く、5分しかかからなかった。インストール中にユーザの操作はほとんど不要だ。ユーザ名とパスワード、地域を選択するくらいで済む。ただし私の場合は、ディスクのパーティション分割を、インストーラによる自動処理ではなく、手動処理で行った。

 ハードディスクからの起動は45秒と、まずまずの速さだった。初めての起動時、Ulteo Account Associationのセットアップを行うよう促すメッセージが表示された。Ulteo Online Desktopのアカウントを持っていない場合、そちらへの登録が必要となる。登録は簡単で、メールアドレスなどを入力するだけだ。ただし、複雑なパスワードを指定しようとすると、問題が生じることがある。私の場合、最初と2回目に選んだパスワードで英数字以外の文字を使ったところ、無効なパスワードとして拒否されてしまった。ローカルシステムとUlteoアカウントとの関連付けが済むと、ローカルシステムのホーム・ディレクトリの"sync"フォルダがUlteoサーバと自動的に同期されるようになる。同期できるデータ容量には、アカウントの種類に応じた制限がある。フリー版のアカウントの場合、合計1GBの領域が与えられ、1回の同期での転送量は最大10MBとなる。他のアカウントの種類と料金については、UlteoのWebサイトの一覧表を参照してほしい。

 Ulteo Application Systemの特徴の1つがUlteo Kickerメニューだ。[My Digital Life]、[All Applications]、[My Files]、[Ulteo Web]、[My Settings]という5つのカテゴリに分かれている。[My Digital Life]は、ネット上の説明によると、お気に入りのファイルやアプリケーションを整理して表示できるメニューのようだが、動作が万全ではなかった。私が試したところ、カテゴリの追加と削除はできたが、アプリケーションの追加はできなかった。他のユーザにも同様の問題が発生しているようだ。[All Applications]メニューはその名のとおり、すべてのアプリケーションを表示するメニューで、他システムにあるメニューと同様だ。[My Files]はメニューに組み込まれたファイル・ブラウザで、デフォルトではホーム・ディレクトリを参照できる。

 残る2つのメニュー項目には若干戸惑った面があった。[Ulteo Web]には、複数のWebサイト(Wikipedia、Google、Yahoo、MSN、Amazon、eBay)に対応した検索バーがあり、検索結果はFirefoxの新しいタブで表示される。この検索バーやFirefoxのツールバーでGoogle検索を行うと、検索結果はUlteo独自のGoogleページで表示される。基本的には通常のGoogleと同じだが、Ulteoのロゴと、いくつかの広告がある。この検索バーで戸惑ったのは天気情報の表示についてだ。私の環境では、デフォルトでスリランカのコロンボの天気情報が表示されてしまった。他のUlteoユーザの報告によると、天気情報はインストール時に選択した地域に応じて設定されるらしい。私がインストール時に選んだのはカナダのバンクーバーだった。場所の設定を変更しようとしたところ、1回目と2回目はKickerがクラッシュした。3回目は、私が指定した場所("Vancouver, BC")は無効だと表示された。4回目に"Vancouver, Canada"と指定したところ、ようやく設定できた。ところがその後も、天気情報のメニューを表示するときに、Kickerは何度かクラッシュした。

 [My Settings]メニューで設定できるのは、いくつかの項目に限られており、互いの項目どうしの関係もよくわからない。1つ目は言語サポート、2つ目はソフトウェア・リポジトリの安定度([Stable]、[Testing]、[Unstable])を切り替えるオプション、3つ目は[Delete This Machine]と示された機能だ。3つ目は、Ulteoのオンライン・システムからこのマシンを削除するという意味だろうと思うのだが、本当にそうかどうかは分からない。マウスオーバーでも何の説明も表示されなかった。[My Settings]内の残りのサブカテゴリには混乱を覚えた。[Applications]というサブカテゴリには、[Desktop Applications]、[Games]、[Development]というオプションがあり、いずれもデフォルトでは無効に設定されている。[Desktop Applications]と[Games]には有効化のためのボタンがあるのだが、なぜか[Development]にはない。私は[Desktop Applications]と[Games]を有効にしてみることにした。私はてっきり、その後しばらく待たされて、デスクトップ・アプリケーションとゲームがダウンロードおよびインストールされるのかと思っていたのだが、そうではなかった。両オプションに表示されている有効化ボタンが緑色のチェック・マークに変わり、有効になったことが表示されただけだった。私が見る限り、他の点でシステムに変更が加えられた形跡は全くない。この設定を変更したことで、新たなアプリケーションやゲームがインストールされたわけではないようだ。

 Ulteo Application Systemは、Ulteo独自のメニューとsyncフォルダ以外の面では、標準的なデスクトップ・ディストリビューションであり、各種のプログラムを完備している。GIMP 2.2、VLC 0.8.6c、Amarok 1.3、Firefox 1.5、Kopete 0.12.2、OpenOffice.org 2.3といったアプリケーションを利用でき、基本的な用途はおおむねまかなえるはずだ。VLC以外のアプリケーションはバージョンがかなり古いが、もっと新しいバージョンが必要なら、[My Settings]メニューで[Testing]や[Unstable]へのアップグレードが可能だ。デフォルトで入っていないアプリケーションは、APTツールで難なくインストールできる。私が使用しているハードウェアはすべてきちんと検出され、ビデオと音声の出力も問題なく行われた。一般的なディストリビューションに備わっている機能はすべて利用できた。

 Ulteo Application Systemならではの最大の特徴はフォルダ同期機能だ。どこからでも自分のファイルにアクセスでき、別サイトへの自動バックアップも可能となる。他のディストリビューションでは目にしない機能だ。似た機能を提供している企業は他にもあるが、完全なデスクトップ・システムに組み込まれているのは見たことがない。ネットワーク・サーバへのアクセス権があり、その方法も知っている人なら、他のGNU/Linuxディストリビューションでも同じ機能を実現できるが、Ulteoを使えば、その方法がわからない人でも、何の苦もなく簡単に利用できる。

 バグがあるとはいえ、Ulteo Application Systemは新たな方向性を明らかに目指しており、有象無象のディストリビューションとは一線を画そうとしている。他のディストリビューションでは、使いやすさ、安定性、最新プログラムなどを売り文句にしていることが多いが、最近のディストリビューションならそうした特徴は当たり前というのがUlteoの主張であり、その1歩先を目指している。もっとも、安定版リリースとされている現段階でも、Ulteo Application Systemはテストの域を抜け切れていないようだ。今すぐ試してみようと思い人は、多少の問題発生を覚悟しておく必要がある。

Preston St. Pierreは情報システムを専攻する学生。カナダのブリティッシュコロンビアにあるUniversity of the Fraser Valleyに在学中。

Linux.com 原文