完璧とは言い切れないLinux Mintの新リリース

 Linux MintはUbuntu 8.04 LTS派生のディストリビューションで、コミュニティによって高度にカスタマイズされている。プロジェクトによるとLinux Mintの目的は「エレガントで快適な最新のGNU/Linuxデスクトップディストリビューションの作成」だという。今月リリースされた最新版Linux Mint 5.0 “Elyssa”は、Ubuntuの安定性と機能のほとんどを継承しながらも独自の機能と調整を加えることで一線を画したものとなっている。このように素晴らしいデスクトップのMintだが、いくつかの問題点があるため完璧とはまだ言い切れない。

 Mintにはプロプライエタリなコーデックを含むメイン版と、プロプライエタリなコーデックが含まれない軽量版の2つの版がある。今回は、Elyssaの64ビット版が見当たらなかったので32ビットのメイン版をダウンロードしてインストールした。なおインストールしたテスト用マシンは、Athlon 64 X2 5200+ プロセッサ、2GBのメモリ、SLI(Scalable Link Interface)上の2枚のNvidia GeForce 8600GTビデオカード、160GBのSATAハードディスクを搭載している。

 Elyssaのインストール手順は、この一年ほどの間にUbuntuのどれかのバージョンをインストールしたことがあればすでに馴染みのものだ。つまりUbuntuと同じライブCDを用いたインストール方法を使用しているのだが、なぜかElyssaの場合には、標準的なUbuntuのCDよりもブートにほぼ2倍の時間がかかった。一方ブート後ハードディスクへのインストールにかかった時間は、同様のインストーラを使用しているどのディストリビューションともだいたい同じだった。

 初めてログインするとMint Assistantが表示されて、ルートアカウントをセットアップするためのオプションが提示される。ルートアカウントを作成すれば、(sudoを使用する代わりに)ルートユーザとして直接マシンにログインすることができるようになる。またGNOME端末を起動する度に面白いメッセージを表示する、端末用Fortuneを有効にすることもできる。このような機能が設定メニューに含まれているのは親切ではあるが、個人的にはMint Assistantでは、テーマの変更や新規ユーザの作成など、もっと役立つ設定を提供して欲しいと感じた。

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Linux Mint Elyssa

 Elyssaではブート時のスプラッシュ画面、GNOME Display Manager、GTKテーマがカスタマイズされている。デフォルトのテーマは以前の版と似ているものの、スライダにClearlooksエンジンを使うなど、統一感を持たせるための小さめの調整が少し加えられていた。見掛けはこぎれいだが、GTKのテーマのデフォルトが紫色なのは、その他のいたるところで使われている緑のアートワークとはあまり合っていなかった。とは言えデフォルトのテーマが気に入らなければ、それ以外のテーマもElyssaのデフォルトのインストールに含まれているし、そのうちのいくつかについてはGNOMEのAppearanceアプレットで色を変更することもできる。

 もう一つElyssaの注目すべきカスタマイズとして、通常のGNOMEアプリケーションランチャではなくmintMenuを使用しているということがある。mintMenuは一つの枠内にできるだけ多くのサブメニューを含めようとしていて、狭い画面の有効利用という観点からは素晴らしいものの、mintMenu自体がやや大きいと感じた。

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mintMenu

 ソフトウェアのアップデートはMint独自のmintUpdateソフトウェアで行なう。mintUpdateではソフトウェアアップデートが必要性や安定度に基づいて優先度ごとに分類されている。レベル1とレベル2のアップデートは優先度が高く(システムに悪影響を与える可能性が低い)、レベル3以下に分類されているものは必要な場合にのみインストールすることが推奨されている。アップデートを優先度によって分類するのは、システムの不具合を予防するという点で名案だと思った。Mintは独自のリポジトリも管理していて、その中にはUbuntuの標準であるMain、Universe、Multiverse、Restrictedリポジトリも含まれている。つまり利用可能なパッケージはUbuntuとまったく同等で、さらにいくつかのMint独自のパッケージが追加されているということだ。

 デフォルトのGNOMEデスクトップでは横長のパネルが2つ使われているのだが、Elyssaのパネルはデフォルトでは一つだけになっていた。パネルのデザインはよりすっきりしているが、モニタの解像度によってはすぐに取り散らかってしまうだろう。とは言えこれは小さな不満で、GNOMEの設定ツールを使えば好きなだけ多くのパネルを追加することができる。性能に関して言えば、Elyssaの実行はベースとしているUbuntuと同じくらい高速だった。

 個人的に気に入った新機能の一つとして、端末やパッケージマネージャを開かなくても不必要なアプリケーションをアンインストールできるということがあった。Mintでアプリケーションをアンインストールするには、mintMenuでランチャを右クリックしてUninstall(アンインストール)をクリックするだけだ。そして管理者パスワードを入力した後、同時に削除される可能性のある依存関係についての確認をすれば良い。これは、あらゆるディストリビューションで実装されるべき機能だと思った。

 もう一つ気に入ったのは、フォルダを右クリックしたときに、フォルダをルート権限で開くための選択肢があることだ。特定のフォルダに管理者権限でアクセスする必要がある場合、この方法の方が端末を使うよりもずっと手早い。ただしこの機能は慎重に利用するべきであることは言うまでもないだろう。

 Gnome-Doも外せない機能だ。Gnome-Doを使えば、(Superキーとスペースバーを押して)検索ウィンドウを表示して、実行したいアプリケーションやタスクを検索することができる。入力するにつれて実行候補のアプリケーション/タスクの項目数が減ってゆき、適切な項目を選択できるようになっている。KDEのKatapultに似ていて、アプリケーションがメニュー階層のどこにあるのか分からない場合に便利なツールだ。

 ユーザのホームディレクトリのバックアップに使用するツールmintBackupも目新しくて興味深い。mintBackupを使えば、ユーザのホームディレクトリ全体を一つのバックアップファイルに保存することができる。バックアップを元に戻すには、mintBakcupをインストールしてあるシステム上でなら、アーカイブ上でダブルクリックすれば良いだけだ。ただ残念ながら、home以外のディレクトリのバックアップはできないようだった。

 その他の小さめの新機能としては、mintMenu用の新たな設定ダイアログ、mintUpdateの新たな情報画面、ISOイメージのMD5チェックサムを右クリック経由で計算できる機能、PulseAudioの設定用ツールが含まれたこと、いくつかのユーティリティで必要なメモリ量が減ったことなどがある。

 当然ながらElyssaにはベースとしたUbuntu 8.04で施された改良が含まれていて、デフォルトでPulseAudioサウンドサーバを使用するようになったこと、印刷関連が改良されたこと、GNOME 2.22、Firefox 3.0 RC1、OpenOffice.org 2.4、Linuxカーネル2.6.24、Xorg 7.3が含まれていることなどもある。 またGIMP 2.4.5、Pidgin 2.4.1、Rhythmbox 0.11.5も含まれている。

難点

 一方で、Elyssaのすべてが手放しの成功というわけではない。例を挙げれば、デスクトップにmintMenuが追加されているのは親切なのだが、mintMenuはあらゆるユーザに向いているわけではない。mintMenuはシステム設定のほとんどを一ヶ所に集めたものなので、開いたときにデスクトップ上のかなりの場所を占有してしまう。解像度の低い画面では、おそらく画面のほとんどが埋まってしまうだろう。ありがたいことにGNOMEのMain MenuとMenu Barアプレットもまだ残されているので、解像度の低い画面を使用している場合や従来の方法でプログラムを起動したい場合には、パネルに追加することができる。

 もう一点Elyssaで遭遇した問題点は、今回使用した2枚のGeForce 8600GTビデオカード用のプロプライエタリなドライバのセットアップについてだ。Elyssaでは、プロプライエタリなATIドライバやNvidiaドライバの設定にEnvyを使うのだが、Envyはカードを検出したものの、適切に設定することはできなかった。再起動した際に、解像度の低いグラフィックスモードに設定されてしまって、ハードウェア構成を認識できないという内容のメッセージが表示された。画面の設定を調整してみたが、結局モニタを1280×1024の解像度にすることはできなかった。この問題を解決するためには、コマンドラインを使ってXorgの設定ファイルを再構築して、不必要な「BusID」の2行を削除する必要があった。対照的にUbuntu自体では、同じSLIチェーンの扱いにまったく問題はなかった。とは言っても、SLIチェーンの使用はLinuxの世界ではWindowsでのようには一般的でないため、このことが特に大きな問題のようには感じない。

 UbuntuのAdd/Remove Programsに対するMintの回答とも言うべきmintInstallには、まだ少し改善の余地があるかもしれない。実装されている機能はアイデアとしては素晴らしいのだが、インタフェースがあまり優れてはいない。例えば、GetDeb(リポジトリに通常含まれていないDEBパッケージを提供しているサイト)、Ubuntuリポジトリ、Mint独自のソフトウェアチャンネルからパッケージを検索することができるのだが、検索結果がFirefoxのウィンドウ(GetDebの場合)かテキスト文書(DEBパッケージかMintパッケージを検索した場合)として表示されるので、検索結果内から簡単にインストールすることができなかった。

 またMintではWorkspace Switcherがデフォルトでは追加されていないにも関わらず、ウィンドウを他のワークスペースに移動可能なのだが、このことに混乱するユーザもいるかもしれない。またゴミ箱がパネルやデスクトップなどすぐに使える場所ではなく、メニューの中にあった。64ビット版がないということも、最近では4GB以上のRAMを搭載したPCも多く売られるようになってきているので気掛かりだ。

 まとめると、Mintの最新版にはベースとしているUbuntuを越えんばかりの新機能が豊富に含まれていたものの、いくつかの問題点があるために実際に越えているとは言い切れない。とは言え、そのような新機能が含まれているため一見の価値はある。Mintは、完璧なディストリビューションとなるまでにいくつかの越えるべきハードルを持った素晴らしいディストリビューションだと言えるだろう。

Jeremy LaCroixは余暇に記事を執筆するIT技術者。

Linux.com 原文