MamboとJoomla:分裂から1年

時に2005年8月、オープンソースの申し子的存在であるMamboコンテンツ管理システム(CMS)から袂を分かったコア開発スタッフたちがJoomlaという派生プロジェクトを立ち上げたことに端を発し、これら2つのシステムは円満とは言い難い対立関係に引き込まれることになった。果たしてこれらの開発者たちは、管理組織の庇護なくして、生き延びることができたのだろうか? 一方、開発陣に立ち去られた側のMamboは、その後も立ちゆくことができたのだろうか? 少々信じがたいことではあるが、いずれのプロジェクトも今日、それなりに順調に進行しているのである。ここでは、両プロジェクトの生い立ち、開発者たちの織りなす人間模様、サポートコミュニティとの関係を振り返り、両者の将来的な展望を考察してみることにする。

開発者のMark Stewart氏は、これら双方のシステムを利用するユーザを対象にチュートリアルやニュースを提供するMambotasticの編集者でもあるが、同氏の意見によると、現状におけるJoomlaとMamboとの相違点は一見しただけでは分からない程度に止まっているという。「確かにJoomlaについてはセキュリティ関係の修正が多数施されていますが、第三者的立場にあるサードパーティ開発者として私が作成したMambo用のコンポーネントは、どれもJoomlaで問題なく動作しますし、それは逆のケースでも同様で、特別な変更をする必要はないはずです。もっともJoomla側で固有のAPIが変更されている可能性も否定できませんが、私に限って言えば、今のところそうしたものに遭遇したことはありません。Joomla側の管理者は様変わりをしており、正直Mambo側の人間に比べると少々見劣りする感もぬぐえませんが、少なくとも現在のところはプロジェクトをかなり活発に進めていると言っていいでしょう」。

両プロジェクトにおける基本的な相違点としてStewart氏が考えるものは、Joomlaを支援している現行のコミュニティということになる。「彼らの仕事ぶりは全面的に順調であり、実際に良好なサポートを受けることができます。少なくとも彼らはコミュニティに対して真摯に接しており、その点に関しては支持者や仲間内だけでなく、競争相手たちからも称賛されています」。

Hagen Graf氏は『 Building Websites with Mambo 』および『 Building Websites with Joomla 』の著者であるが、同氏によると彼の知るクライアントの大部分はJoomlaに移行しており、その理由として挙げられる要素は「色々ありますが、主としてサードパーティ開発者の存在、セキュリティの高さ、良好なサポートレベルが挙げられます。なにしろJoomlaは、バージョン1.0.0から1.0.11というように、 ほぼ1カ月間隔で改良版がリリースされていますから」ということになる。

ただし、これまで行われたリリースの大半はセキュリティに関するものであった。果たしてユーザたちは、1週間おきにアップデート作業をするのに嫌気はささないのだろうか?

「そもそもこの種のリリースは、そうしたセキュリティ的な問題が存在することを知っている人間でないと、さほどの意味を成すものではありません。もっとも、問題箇所が見つかるごとにプロジェクトからパッチが公開されるというのは本来あるべき姿でもあるので、その点このJoomlaプロジェクトの運営は順調だと見て良いでしょう」とStewart氏は語る。Stewart氏が最後に指摘したのは、リリースの方針が明確化されるほど、エンドユーザは安心感を覚えるようになる、という点だ。「対するMamboについて私が抱いている不満の1つに、開発状況や関連ニュースの公開が不活発だという点があります」。

すべてはここから始まった

そもそもMamboは、オーストラリアに居を構えるMiro Software Solutionsがクローズソースのアプリケーションとして開発したソフトウェアであった。そして2001年4月に同社は、MamboをGPL下でもリリースするという、デュアルライセンスを採用したのである。こうした状況はそれなりに順調に成立していたが、それも2003年に法的な問題が勃発するまでのことであった。これに起因してMamboは、1つの非営利団体の管理下に置かれることになったのである。ところが新設されたMambo Foundationという組織のあり方は、開発陣に不満を感じさせるのに充分であった。主任開発者を務めていたAndrew Eddie氏は、コミュニティ宛のメールにて、Mambo Foundationの存在および、既に形成されていたコミュニティと同組織との関係に対する懸念を説明している。「私どもは、Mamboの将来を定めるのはユーザの要求と開発者の能力であるべきだと考える次第です。それに対してMambo FoundationはMiroに対して命令を下す立場として組織されており、そうした関係は同Foundationとコミュニティとの協力体制を不可能にするものです」とEddie氏は書いている。こうして2005年8月17日、Mamboのバージョン4.5.3を制作中の開発チームから、コアスタッフ全員が離職するという事態に至ったのである。

Mambo開発チームから去った総勢20名のコアスタッフたちは、Software Freedom Law Center(SFLC)の支援の下、これから設立するオープンソースプロジェクトの組織的、法的、財政的なサポートを行う目的でOpen Source Mattersという非営利団体を立ち上げた。そして2005年9月1日にはJoomlaという名称がアナウンスされ、9月16日にはJoomla 1.0がリリース されたのである。

これと対照的なのがMamboであり、こちらの陣営はダメージの対策に追われていた。分裂は様々な混乱を生じさせ、そうした事態を沈静化させるべく、同プロジェクトはフォーキングに関するFAQを用意し、Mamboは消滅した訳でもなければ名称を変更したのでもないという状況を説明している。Mambo開発のコアチームを引き継ぎ、そのリーダに就任したのがMartin Brampton氏であった。そして2005年10月下旬、Mambo Foundationは、Mambo Steering Committee(MSC)の再設立および、Andrew Eddie氏とBrian Teeman氏の離籍によって生じたコアスタッフの空席が埋められたことをアナウンスしたのである。

新たにMamboの主任開発者として就任したMartin Brampton氏は、2005年10月に、Joomlaを(当時)率いていたAndrew Eddie氏に対してコラボレーションに関する公開書簡を提出したが、これはEddie氏から出されていた「双方のプロジェクトに関係するであろうセキュリティ上の問題については情報を共有する」という提案に答えるものであった。Brampton氏は同意の姿勢を示していたが、その際には「その他にも、双方のコミュニティにとって共通の利害を有する問題が存在する」という点が追加されていた。同氏が主として懸念していたのはサードパーティ開発者たちのことであったが、その発端はJoomlaのリリース時に加えられたインタフェース上のわずかな変更に気づいたことであり、同氏としては「サードパーティ開発者が利用するメインインタフェースの標準化に関する合意」が双方のチーム間で可能であるかを確認したかったのである。この件については、MamboコミュニティおよびJoomlaコミュニティの双方で討論が繰り広げられたが、最終的にはMamboフォーラムにて、Eddie氏がMamboサイドからの提案を拒絶する旨をBrampton氏に対するプライベートなメッセージで回答したことがアナウンスされて終わった。

新規リリースとセキュリティリリース

2005年11月上旬、刷新されたMambo Steering Committeeおよびコア開発チームの手によりポリシステートメントが公開され、将来的なMamboの開発プランが示された。そこに一覧されていたのは、開発を集中する分野、従うべき方針、短期および長期的な開発目標といった内容である。新たに編成されたコア開発チームは、以前のチームが残していったコードを調査し、確認されたバグをつぶし、セキュリティ上の問題点に対処した。こうして11月末には、分裂後の最初のバージョンとなるMambo 4.5.3が、新たな開発チームからリリースされる運びとなった。このソフトウェアは既存コミュニティからも好意的に受け取られ、10日間で200,000件ものダウンロードを記録している。

2006年5月、Mamboチームは4.5.x系の最終版となるバージョン4.5.4をリリースし、今後はバージョン4.6の構築に集中することとした。Team Mamboの名前で公開された年次報告には、「バージョン 4.6では、クライアントサイド、管理サイド、コンテンツなどの点で、全体的なインターナショナル化を進めることになるでしょう。また完全に刷新されたロールベースのアクセス制御スキームも採用される予定です」と記されている。このMambo 4.6がリリースされたのは、つい先週の話である。

一方のJoomlaは、いくつかのセキュリティリリースへの対処で手一杯の状態にあった。もっともJoomla 1.1ロードマップを見てみると、この時点で同チームは、サードパーティ開発者向けの新機能、インターナショナル化のサポート、MySQL以外のデータベースへの対応などを約束している。また新規のコアでは大幅な変更が予定されていることから、次に公開されるバージョンはJoomla 1.5と位置づけることが開発者たちにより決定されていた。

双方のプロジェクトで共通していた問題点は、安定したリーダーシップの不在だと言っていいだろう。例えば先のBrampton氏は4月の段階でMambo評議会から離脱し、Mamboプロジェクトから全面的に手を引いてしまっている。同氏によると、Mambo Foundationの現状は職務の妨げであり、提出された辞表の中ではこの組織の活動を“非合法”であるとまで記している。その後、Mamboのコア開発チームを率いる任にはChad Auld氏が選ばれ、Mamboの開発作業は現在も継続されている。

一方のJoomla側も、決して順風満帆な状況ではなかった。こちらの陣営でも、4月にはコアスタッフであるBrain Teeman氏が、Open Source Mattersの評議会から離脱しプロジェクトから決別していたのである。その後を追うようにMitch Pirtle氏とArno Zijlstra氏がコア開発チームから離脱したのは7月のことであった。この月は、コア開発チームを引き連れてMamboを飛び出しJoomlaを設立した当事者であるAndrew Eddie氏も同プロジェクトからの離脱をしているが、同氏の場合は、今後もワーキンググループの1つからプロジェクトに貢献することに同意している。

コミュニティの形成

Joomlaの初回リリースから約1カ月が経った2005年10月、ロンドンで開催されたLinuxWorldにてBest Linux/Open Source Project for 2005が同ソフトウェアに対して与えられた。またコア開発チームの1人であるBrian Teeman氏も、UK Individual Contribution to Open Source for 2005を受賞している。対するMamboは、2006年3月にオーストラリアで開催されたLinuxWorldにてBest Open Source Software Solutionを受賞した。もっとも再度2005年に遡れば、こちらのソフトウェアも、ボストンおよびサンフランシスコで開かれたLinuxWorldの席上で2度の受賞に輝いている。

ユーザの獲得はすべてマーケッティングにかかっている、と語るのはStewart氏である。「忘れていけないのは、私の知る限りにおいて、Pleskがあれば大抵はMamboもインストールされているという事実で、もはやデフォルトインストレーションの一部と化していることです。これは非常に有利な立ち位置だと言えるでしょう」。対するJoomlaの場合、同氏の指摘するところによると、多数のホスティングプロバイダによって、優れたサイト構築用ソリューションとしてのマーケッティング活動が進行中の段階にあるとのことだ。

また「古くからのユーザを見ていると、Mamboの名声も過去のものになった気がしますね」と語るのはGraf氏である。「ただしブランド名としてのMamboには、未だ力強いものがあります」。同氏の見解では、「新規ユーザにとっては両者に際だった違いはなく、どちらかと言うとJoomlaコミュニティの方が活気づいていると見ているでしょう」となるそうだ。

こうした意見にはStewart氏も同意している。「私の見る限り、Joomlaの活動はすべて順調だと言えるでしょう。Webサイトを見るだけで、サードパーティ開発者およびサービスプロバイダから発信されているコンテンツの多さが推し量れます」。同氏によると、こうしたコンテンツの充実は質の点でも評価するに値するものがあり、仮にJoomlaが今後数カ月ないし数年以内にMamboを脅かす存在になっても不思議はない、としている。「コミュニティの古株メンバの大半にとって、すべての始まりはMamboであったことを思い合わせると、少し寂しい気がしますね」。

2つのプロジェクトの争いは、出版界にも反映されている。先に紹介したGraf氏の著作以外の関連書籍を探せば、Wiley and Sonsから出版されている『Mambo Visual Blueprint』などが見つかるはずだ。Graf氏によるMamboの解説書は分裂劇の6カ月前に出版されたものであるが、これに関してはCMSの内容や使用法についての質問がMamboユーザから多く寄せられたのに対して、Joomlaユーザからは主としてフィードバックが寄せられたとのことである。

Stewart氏に寄せられている質問は、現状ではJoomla関連のものが多いと言う。「大部分のユーザはCMSで何ができるかを見極めようとしている段階ですが、小規模ながら急速な発展を支えるためにCMSの機能を活用している企業も確かに存在しており、その数が上昇傾向にあるのは間違いありません」と同氏は語る。

いずれのプロジェクトについても、豊富なオンラインドキュメントが存在し、関連フォーラムも活発な活動をしているので、新規のユーザであってもシステムを導入する上での敷居はそんなに高くないだろう。この点、Graf氏の言葉を借りるならば、どちらのシステムであっても「Webベースのインストーラが用意されており、初心者にとって非常に優しい構成になっている」ということになる。もっともStewart氏によると、どちらのシステムが初心者にとって優しいかは、単純に比較できるような代物ではないそうだ。「問題は、この初心者というのがどのレベルにあるかでしょう。個人や組織を相手に、これらのCMSを半ば強制的に扱わせるような経験をしたことが何度もありますが、やはり技術に疎い人間だと基本的なコンセプトを理解するのは難しいようですし、そもそもそうした人々は学習しようという意欲に欠けているように感じます。大手の企業から、正式なトレーニングを施すよう依頼を受けたのも結構な回数になりますよ」というのが同氏の意見だ。

Joomlaプロジェクトはその活動を開始した時点で、Mambo 4.5.2からJoomla 1.0への移行ユーザを想定したガイドを提供していた。また同プロジェクトからは、非営利団体におけるCMSのニーズを啓蒙するための支援フォーラムを設ける旨のアナウンスがされている。これは2005年12月段階の集計であるが、Joomlaのフォーラムに対する購読数は16,000を超えている。

サードパーティ開発者に対する配慮

Mambo FoundationおよびOpen Source Matters(OSM)の両組織が実施している活動としては、サードパーティ開発者向けに、これらが提供するオープンソースないし商用の製品やサービスを紹介するショーケース的な環境を整備するという試みがある。

2006年2月、Mamboチームは開発および配布用のWebサイトMamboXchangeを再編成する一方で、コミュニティとの連絡に用いるThe Sourceという別サイトを用意する旨をアナウンスした。

対するJoomla陣営が3月に立ち上げたものとしてはExtensions Directoryというサイトがあり、これはJoomlaForgeに用意された機能拡張の数が多すぎて必要なものを見つけにくい、というユーザからの声に応える形で整備されたものである。これに先がける形で2月には、コア開発者とサードパーティ開発者との連携を図ることを目的としたDeveloper Network Portalが公開されている。

「これは無料で提供されているサービスであり、非常な成功を収めています」とStewart氏は語る。「これらのCMSアプリケーションに対するサードパーティ製ソフトが豊富になれば、その分だけCMSアプリケーションとしての販売力も高まり、双方が恩恵に与れるという、誰もが理解している共存共栄の関係なのですが、最近のケースとしては最も成功した事例の1つだと言えるでしょう。またサードパーティ開発者側から見た場合、これらのサービスだけでなく、ドキュメント、チュートリアル、API、サポート体制の充実といったものが、双方のシステムを非常に魅力的な存在としている訳です」。

この夏、いずれのソフトウェアにおいても、プログラム的な欠陥のある機能拡張に起因したセキュリティ上の問題が発生した。「Joomlaチームはセキュリティリリースを用意することで迅速な対応をしました」とGraf氏は語る。同氏によると、次に公開されるJoomla 1.5によってこうした体制は更に強化されるだろうとのことであり、その理由として、新規のJoomlaは単なるCMSシステムではなく1つのフレームワークとして仕上がるはずであり、サードパーティ開発者の協力がより得られやすくなるという点が挙げられている。

将来的な展望

いずれのプロジェクトも各自のロードマップに従った新規の開発が進んでいるが、それは、両者の相違点が将来的に拡大してゆくことをも意味する。

「Joomlaの掲げる積極的な将来プランによると、分裂の度合いは高まるをえず、こちらの陣営はバージョン1.5のリリースを契機とした大幅な市場の開拓を狙っています」とStewart氏は語る。これがGraf氏になると、真の意味でのJoomla Projectはバージョン1.5をもって始まる、とまで極言している。

それでは、双方のシステムに通じている人間として、Graf氏とStewart氏は将来のバージョンをどう予想しているのだろうか。Graf氏の意見によると、Webの世界はこの2年間でその様相を大幅に変えており、今や流行語ともなったWeb 2.0の登場やmashupsとも呼ばれるWebサイトやブログの融合化は特に大きな現象だということになる。「重要度を高めているのが、テンプレート化です。動画のダウンロードや地理サービスは、もはや不可欠です」。

一方のStewart氏が見ているのは、何らかの方法でMySQLのくびきを脱して、商用データベースの分野に歩を進めることである。「私自身がMySQLの価値が下がると考えている訳ではありませんが、企業のマーケティング部門はそう見なすだろうとは考えています」。同氏がそう考える理由としては、「PHPが商用部門で普及し、OracleやIBMなどの企業とのパートナーシップが形成されたことで、この種の開発活動で得られるメリットや思考法にビジネス世界の人間が慣れてきた」ことが挙げられるとのことだ。

それでは、生き別れとなったこれら2つのシステムは、ただでさえ過密状態のCMS業界の中で、今後も競い合いながら生き延びてゆくことになるのだろうか? 「そうですねぇ、コカコーラが好きな人間もいれば、ペプシコーラが好きな人間もいますからねぇ」と、Stewart氏は肩をすくめて見せた。

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