今、何故Debian? VAリナックスが障害解析サービスでDebianに対応する理由

VA Linux Systems Japan株式会社(VAリナックス)の提供するLinuxカーネル障害解析サービス「VA Quest」だが、つい先日にDebian GNU/Linuxに対応した専用メニューが発表された。今この時期に何故わざわざDebianなのか?その真意を聞いた。(OTPを運営するOSDNは、VAリナックス社の一事業部である。)

VAリナックスは、昨年4月に同社が誇るLinuxカーネル開発陣を活用したLinuxカーネル障害解析サービス「VA Quest」を提供開始し、その後数ヶ月間で伊藤忠テクノサイエンス、UFJIS、NTTコムウェアといったソリューションプロバイダーの他、海外を含むハードウェアベンダーまでも顧客に抱えるまでに至り、昨年5月には契約殺到による人員不足により新規受注を停止を発表し、体制強化が行われた後に受注再開するという事態もあった。その人気からエンタープライズLinuxソリューションにおける「トラブルシューティングの番人」を自称するVAリナックスであるが、突然発表された「Debian GNU/Linux専用メニュー」に至るまでの経緯、Debianの展望等について、VAリナックス社のエンタープライズOS事業ユニット長兼カーネル解析ユニット長の小田逸郎氏に聞いた。

OTP:まず、VA Questについてですが、簡単にサービスの概要をお聞かせ願えますか?

小田:実は弊社のVA Questは元々は特にメニュー化されているようなサービスではありませんでした。我々が最も得意とするLinuxカーネル関連の開発案件をこなしていくうちに、Linuxカーネルの障害解析や性能解析の要望が多く寄せられるようになりまして、そこでエンタープライズ領域のミッションクリティカルなシステム向けには需要があるのだろうと踏んで、体系的なメニュー化を行い、VA Questとして世に出したものです。

非常に簡単な一言で済ませば、VA QuestとはLinuxのカーネルレベルで根本的なソリューションを提供するサービスです。これでは分からないと思うので、もう少し丁寧に言えば、システムクラッシュ、システムハングなどのLinuxカーネルに起因する問題、あるいはアプリケーションとカーネルの切り分けが困難な問題などのLinuxシステムの障害に対して、Linuxカーネルのソースコードやメモリダンプに基づいた詳細調査を行い、障害の解析、障害原因の追及、回避方法の提案、そしてえーっと… そう、修正パッチの提供までも行うサービスです。

基本的なメニューにはプラチナとゴールドの二種類がありますが、プラチナ契約では、Linuxカーネルにプローブを挿入し、顧客のシステムの性能ボトルネックの原因究明や性能改善を目的とした解析を行ったり、他にも顧客の要望に沿っていろいろよろず相談にのったりしています。

OTP:本当ですね。確かにメニューにまでよろず相談と書かれていますね…

小田:我々の会社は最後の駆け込み寺ですからね。どんなにクリティカルな事態であっても解決しますよ、という意味で捉えてくれれば結構だと思います。ただし、コードが読める範囲もしくはコードから他のハード、アプリの動きが推測できる範囲までではありますが。

OTP:今までの解析事例にはどのようなものがありますか?

小田:サービスの性質上事例は言えないことばかりなのですが、言える範囲であれば、カーネルOops出力解析やハングの原因調査といったものから、特殊な用途で長時間運用時に空きメモリが減少を続けるといった現象の追求といったもの、この他にも様々な現象について対応を行っています。非常に簡単に思われるかもしれませんが、Linuxカーネルのソースコードレベルで解析を行い、解決手段を提供するのは非常に多くの知識、経験が必要です。これだけのことを一つのビジネスとしてサービスを展開できる能力がある集団は世界にもそうはないでしょう。

OTP:今回の本題のDebian GNU/Linux専用メニューについてですが、わざわざDebian専用メニューを設けるということは今までもそれなりに事例があったということでしょうか?

小田:いえいえ、逆ですね。逆というより、我々の感覚からすれば、ミッションクリティカル性が要求されるようなエンタープライズ領域でLinuxが使用されている場合、そのディストリビューションはほぼRed Hat Enterprise Linux(RHEL)で間違いないというのが現実だと思います。我々が今までこなしてきた事例においても、RHELとDebianにはかなりの数の差があります。他のディストリビューションよりは多いですけどね。

OTP:それでは敢えてDebian専用メニューを設ける理由は何なのでしょうか?

oda
VA Linux Systems Japan(株)
エンタープライズOSユニット長
小田 逸郎 氏

小田:二つ理由がありますが、今の市場に一石を投じてみようかな、ということと、我々がまだ知らない市場にも踏み入れてみようかな、ということに尽きるかと思います。

現在のエンタープライズLinuxの市場はRHEL一色で染まっていると言って過言ではありませんが、完全にフリーなディスリビューションであるDebianに期待する声というのは決して小さいわけではありません。また、オープンソースが普及してくれば、それなりの規模のソリューションベンダーであればディストリビューションベンダーにロックインされるのを避けるためにDebianという方向性を模索することはあり得ることでしょう。かと言って、本当に困ったときにDebianでは保証がないということが企業ユースへの進出へのネックになる可能性もあるわけで、我々としてはそのような場合に 最後尾で控える役目だけは果たせますよ、と市場に宣言したわけです。全体からみれば我々がVA Questでサポートする範囲は大きくはないと思いますが、一番下を支えておく役割というのは重要なことだと思います。我々としては池に小石を一個投げてみたので、後は反応をじっと眺めるという状況ですね。

あと、もう一点。我々が知らない市場ということですが、VAリナックスの顧客は非常に大きな企業ばかりで、どちらかと言えばかなり大きな社会インフラを支えるような会社が多いのですが、Debianを大量に使用するような企業は比較的若くてこれから成長しようとする会社が多く、業種はもっと上位の技術を得意とするネットサービス系の会社が多いような気がします。マーケティング部が持ってきた資料によれば、SNSのGreeでは90%のサーバーがDebianということですし、幾つかのブログサイトもDebianを使用していると聞いたことはあります。そうそう、GoogleもかなりDebianラブなようで、何人も開発者を雇ってますね。ホスティング系の会社もかなり大量の使用していると思いますが、おそらくそれがNetcraftの調査でRedHatに次いでDebianが25%程度のシェアを握っていることにつながっていると思います。

OTP:なるほど、それではDebianサーバーを大量に使用するネットサービス系の会社をターゲットにするということですね。

小田:いえいえ、そんなに話は単純ではありません。その手のネットサービス系の会社がDebianを使用するのは、無償、自由、両方の意味でフリーだからだと思います。おそらく自分達の力で全て何とかして自己責任でサポートするといった意識が強いのでしょう。なので、我々が提供するサービスを契約すること自体が頭にないという傾向が強いかもしれません。

かと言って、そのような会社が成長すればOSのレイヤーに注力することは難しくなりますし、我々のようなOSの専門家に頼ったほうが良い状況というのは往々にして存在すると思います。そういったことを総合的に考えて、Debian限定で価格を安く、サービスを限定したVA Questでまずお試ししてもらって、そこからじっくりと我々の価値を考えて頂ければいいかなということですね。

世の中は絶えず上層のレイヤーへと進んでいくような気がしていますが、我々が得意とするLinuxカーネルという下層レイヤーの重要性というものは消えるわけはないですので、我々はじっくり焦らず愚直に力を蓄えてサービスを提供していくつもりです。

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