FLOSSカンファレンスを開催するには

アルゼンチンのCaFeLUG(the Local Free Software User Group in Capital Federal)において、インストール大会、テクニカルミーティング、年次カンファレンス、数年間続いている伝統的なLUGミーティングといったさまざまなイベントを我々は行ってきた。テクニカルカンファレンスの開催方法について、そこから多くのことを学んだ。本稿では、イベントを実施する前に考えるべきすべてのことを取り上げる。我々にとって何が有効に作用して何がそうでなかったかを知れば、おそらく同じ過ちをせずに済むだろう。

まずは、カンファレンスの目的を定義することだ。FLOSS(Free/Libre and Open Source Software)の考え方を普及させることが一般的な目的だろう。あるいは、行政機関(公的な管理機構)へのFLOSSの導入や、エチオピアのティグライ州で使用されるフリーのバイオメトリック・ソフトウェアに関するものなど、より具体的な目的を設定してはどうだろうか?

目的は、明確に定めなければならない。スポンサー、基調講演の講師、主催者、そして当然、カンファレンスに参加してもらいたい人々と共有すべきものだからだ。目的が明確であれば、スポンサーはどこにお金をかければよいかがわかり、基調講演の講師は準備をどう進めるべきかがわかり、主催者はより効率的に意思疎通を行うことができ、そして参加予定者は何が得られるかを的確に判断できる。ほとんどの場合は目的が定められているが、そのことが全員に周知されていないことがある。カンファレンスの背後にある考え方は誰もが理解すべきものだ。

予定している内容(その目的)に応じて、対象とする参加者は変わってくる。カンファレンスの中心になるのは、ターゲットになる参加者だ。この参加者のことを念頭に置いておけば、どこで宣伝を行うか、どこで開催するか、誰を基調講演の講師に招くかの決定がずっと容易になる。

場所を探す

カンファレンスのターゲット層がわかったら、どこで開催するかを決めなければならない。たとえ、資金が十分にあって開催地の選択肢を増やせたとしても、良い場所を見つけるのは容易ではない。十分な資金がないか、あるいは大学の空き施設を拠点にしてカンファレンスを開催するなら、あまり選択の余地はないが、限られた範囲内でもおそらくそれなりの場所を選定できるだろう。

場所を選ぶにあたって最も重要な要因の1つが、交通の便だ。誰もが車を持っているわけではなく、(旅慣れていない参加者の場合は)1時間の旅程でさえ嫌がる者もいる。そのため、アクセスが容易なほど多くの人々が参加してくれることになる (Webの登録フォームに名前を入力するのはたやすいが、実際に腰を上げて現地に向かうかどうかは別の話だ)。それから、雨が降ったらどうなるのかなんて考えないように。雨天だと人々が外出したくなくなるのはどうしようもない。

交通の便ほどではないが、講演が行われるすべての部屋を同じ階の遠くない場所にかためておくことも重要だ。階を分けなければならない場合は、すべての部屋への行き方を参加者に必ず説明するようにする。こうした情報は、参加者全員に渡すプログラムに載せたり、行き先を示す大きな案内板に表示することもできるだろう。これをしないと、行き交う参加者から何度も同じ質問を受けることになり、思慮が足らなかった、と後悔することになる。

日程を決める

目的と場所が決まったら、今度は具体的な日程を決めなければならない。カンファレンスのことを誰にも知られないうちに日程を決めることだ。日程を決めずに活動を開始を始めたり、あるいはもっと悪い場合として、仮決定の日程を公開したりすると、参加者および講演者の半数を逃してしまうことになるだろう。人々は、日程が決まらないことに戸惑うことはあっても、カンファレンスのWebサイトを毎日チェックしたりはしない。カンファレンスのことを知り、登録を済ませ、予定表に書き込んだら、当日まで思い出さないような人たちなのだから、日程は事前に決まっていなければならないのである。

また、カンファレンスの日程に重なったり前後する休日や長期休暇、あるいは土日を含む休暇には、注意が必要だ。

基調講演の講師を招く

基調講演の講師は、どんなカンファレンスでも参加者を集める格好の材料の1つだ。彼らはカンファレンスに参加したいと思う人々にとって重要な存在であり、それまで開催してきたカンファレンスのどんなことよりも大切であるかのように扱う必要がある。

基調講演の講師は、常識外れのロックスターとは違う。彼らは旅慣れており、休暇気分でカンファレンスにやって来るようなことはない。講演をするという仕事のために来るのであって、その価値があると考えれば数日間の旅程もいとわずに来てくれる。(たとえ主催者側が交通費と滞在費を負担するとしても)彼らがカンファレンスのためにわざわざ講演をしてくれる、という認識でいなければならない。決して、主催者側が彼らを呼んであげる、のではないのだ。

ゲストである講師たちが何を好み何を好まないかを知ろうと努め、常に率直に要点を伝えるようにする。また、彼らのことは十分に理解していないと肝に銘じることだ。違う地域や国の出身かもしれないし、もちろん自分たちと価値観が異なることもある。したがって、ごく当然と思っていることでも彼らにはそうではなかったり、失礼にあたる場合があることを心得ておくことだ。

基調講演の講師が旅慣れている場合は、さまざまなことで注文を付けてくることがある。反対に、あまり細かいことを気にしないこともあるが、だからといってそれを幸運と思ってはいけない。

考えられる最善の策はそれぞれの講師に1人ずつ担当者を割り当て、打ち合わせや電子メールのやりとりを任せて、その結果を正しく実施させることだ。講師にはできるだけ早く最終版スケジュールを渡し、講演場所は数日前に確実に知らせておく。特別なイベント(パーティー、夕食会など)がある場合は、決まり次第その詳細を伝える。そうすれば、彼らはイベントに参加するかどうかを判断し、装いなどその他のことを決めることができる。

講師が仕事をしたり、写真撮影や初めて訪れる地を楽しめるための時間も確保しておく必要がある。彼らにはなるべく担当者を張りつかせておく。ただし、つきまとわれるのを嫌がる場合には干渉してはならない。なお、次のことは覚えておくとよい。講師のほとんどが最も気にかけるのは、旅程をできるだけ価値のあるものにすること、つまり、すばらしい講演をして(可能であれば)遠隔で仕事をすることだ。彼らの滞在を可能な限り快適なものにするのは、あなたの努めである。

カンファレンス・グループ

カンファレンスは数多くの作業を伴う大きなイベントなので、すべてのプロセスのスレッドをうまく制御することが大切だ。そのためには、必要なすべての作業を定義することから始めるとよい。Wikiはこれを行う申し分のないテクノロジだ。

一般的に考慮すべき作業の項目には、以下のものがある。

  • 全体の調整
  • Webサイト
  • 広報活動
  • 基調講演
  • 一般講演
  • スポンサー対応
  • 参加者対応(登録処理)

全体の調整者または一般の調整者は、カンファレンスの全体を取り仕切る。彼らは、どんなことであれ些細なことには関わるべきでない。彼らの主目的は、誰が何をしており、ほかのあらゆる作業の責任者が誰かを把握しておくこと、そしてもちろん、万事が順調に運ぶようにすることだ。全体の調整者は、特定の領域の仕事を掛け持ちすることもできるが、そうした仕事を数多く抱えるべきでない。もちろん、カンファレンスに携わる人数が少ない場合には、それもやむを得ないことがある。

Webサイトは、イベントの開催前は皆が閲覧するので重要だ。Webサイトがしっかりと作られていれば、カンファレンスもうまく運営されるだろう、と参加者は思うはずだ。Webサイトの構築には、何でもいいので使いやすいアプリケーションを使う。Wikiが望ましいが、その他のコンテンツ管理システムも悪くはない。

広報活動の責任者は、電子的にではなく対面で人々との交渉ができなければならない (ただし、マニアの世界はこの限りではない)。報道関係者からカンファレンスについて問い合わせがあれば対応を任されるため、この役割に就く者は、講演にやって来る講師、対象とする分野や聴衆など、カンファレンスに関するあらゆることを知っておく必要がある。役割の中でも重要なのが、報道関係者への連絡を一手に引き受け、彼らの関心を捉えてカンファレンスの宣伝を行うことだ。

イベントの宣伝にはかなりの手間がかかるため、誰かが専任でうまく進めていく必要がある。最初はメールを使って電子的に行えばよいが、その後は電話をかけてアポを取り、面会しなければならない。この作業を甘く見てはならない。

ターゲット層にもよるが、(新聞、コミュニティのメーリングリスト、Webサイトなど)特定の場で宣伝を行ってもよい。うまく行けば集客効果が得られるが、そうはならないこともある。この類のカンファレンスの宣伝は報道関係者から敬遠される、とは考えないことだ。実際、そんなことはない。多くの新聞社やラジオ局は、定期的にコンピュータ関連の話題を取り上げている。報道関係者はニュースを求めている。提供してあげればいいのだ。

報道関係者はカンファレンスの内容を取り上げることに関心を持つはずだ。基調講演の講師をほかの業界から招きたいなら、彼らへのインタビューをジャーナリストに頼んでみるとよい。それほど難しいことではない。まずは、新聞社のWebサイトを訪れ、コンピュータ関連のインタビュー記事を探して、誰が書いたかを確かめる。次に、そのジャーナリストのメールアドレスを入手して(Googleで見つかることも多い)連絡を取り、基調講演の講師とその過去の業績を伝えて誘いをかけるのだ(結局のところ、最初に基調講演の講師を選ぶ理由はこの点にある)。

ラジオ番組にも連絡を取るためのメールアドレスがある。こうしたアドレスの一覧を掲載しているWebサイトを探すか、番組を聞いてアドレスを書き留めておく。運がよければ、番組中にカンファレンスについて何か話してくれるかもしれない。ラジオ番組ではニュースが毎日取り上げられているため、何週間も前にカンファレンスのことをメールで伝えても意味はない。メールを送るタイミングは、カンファレンスが始まる1日か2日前だ。

カンファレンスの宣伝がうまく行くほど、より大勢の人々が話を聞き、結果として会場に来てくれることになる。

一般講演およびその発表者とスポンサー

発表者が多い場合は、各講演について、誰がいつどこで行うのかを誰かが管理しなければ、混乱をきたすだろう。その他詳細(各発表者が必要とする備品など)については、別の協力者に担当させるのが好ましい。現地の発表者は多忙なので、彼らの出席を確認したらすぐに締め切りを伝え、確実に参加してもらわなければならない。各発表者の紹介は、講演に出席する誰かほかの人に依頼するとよい。発表途中における残り時間の通知やその他必要なことは、この紹介者にしてもらうことになる。

スポンサーの獲得は、商品の売り込みに似ている。どんな場合も「デモ」があるに越したことはない。デモがあれば、スポンサーはどんなものに資金を出そうとしているかを知ることができる。カンファレンスはソフトウェア製品と違うので、実際に「デモ」を見せることはできない。しかし、主催団体にとって初めての開催でなければ、過去にどんなカンファレンスを実施したかをスポンサー候補に説明することはできる。上品で簡素なカンファレンスのパンフレットは必須だ。このパンフレットには、カンファレンスの目的、ターゲット層、開催の場所と日時を記載しなければならない。また、パンフレットは電子的なものと印刷したものを用意する。

電子メールを使ってスポンサーに売り込みを行うのは避けることだ。どんな場合も直接会って話をするほうが効果が高い。電子メールでスポンサー契約にいたる可能性は比較的低い。

後援の見返りとしてスポンサーにどんなものを提供するかは、あなた次第だ。カンファレンスの種類に応じて多少に関わらず何らかのものを提供できるが、具体的に決めてすべて書き留めておくこと。中には、事前に契約書に署名する人もいるくらいだ。

各種の団体がカンファレンスのスポンサーになってくれるのは、商品の売り込みができるからだということを覚えておく必要がある。そのため、主催側はスポンサーが活用できるもの、彼らにとって価値のあるものを提供しなければならない。彼らに提供できるものを以下に挙げる。

  • ブースを設置できる場所
  • 講演の時間枠(宣伝用または学究的なもの)
  • 旗やバナーを掲げる特別な場所
  • 参加者のデータベース(絶対にスパムの送信に利用されないこと。予め参加者にはメールアドレスをスポンサーに提供することを知らせておく)
  • Webサイトでのスポンサーのロゴ表示
  • 毎回の記者発表でのスポンサー名の提示
終わりに

カンファレンスの開催までには十分な準備が必要だ。したがって、時間をたっぷり確保し、作業量の過小評価はしないこと。大規模で混沌としたカンファレンスよりも、小規模で管理の行き届いたカンファレンスのほうが常に効果が高いものだ。参加者はきっと、自分たちが聴いた講演と、そして運営のクオリティの高さを記憶に留めることだろう。

では、健闘を祈る!

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