Realの音楽配信サービスRhapsody.com――会費を払うだけの価値はあるか

Real Networksは、昨年11月、非Windowsユーザー向けに音楽配信サービスRhapsody.comを開始し、Linuxユーザーが使える最初の「合法的」音楽配信サービスとして大々的な宣伝を展開した。さて、その実力のほどは?

Linux向けのメディア・プレーヤーとしては、Realには実績のあるRealPlayerブラウザ・プラグインがある。にもかかわらず、Rhapsody.comサービス用には、別途、新たなプラグインが用意された。敢えてこう指摘するのは、LinuxのサポートがRealの明確な意思決定に基づくものだということをはっきりさせたかったからだ。このサービスの開始に当たって流れた報道の中には、RealPlayerから利用するとしたりブラウザを介して利用するのでOSには依存しないとしたりするなど不正確な情報を載せたものがあった。

サービスの実態

Rhapsody.comは、Windows版Rhapsody Jukeboxが備える機能の一部を提供するものとされている。オーディオ・コンテンツはRhapsody Jukeboxと同じライブラリ(現在提供されているトラック数はRealによれば130万)を利用するが、Rhapsody.comのクライアントはインターネットに接続していなければライブラリの利用はできない。これに対して、Rhapsody Jukeboxはオフラインでも再生やCDの編集・作成ができ、オーディオ・トラックを互換性のあるハードウェア機器に転送することもできる。

Rhapsody Music Store――Windows版RealPlayerからのみ利用可能――は、これらとはまた別の製品・サービスだ。購入できる曲は「secure RealAudio」形式(.rax)で、RealPlayer上で再生したりCDや携帯型機器に移したりできる。(Rhapsodyのトラックとは異なり)支払いをやめても「期限切れ」にはならない。

無料のRhapsody.comアカウントは電子メール・アドレスとパスワードがあれば直ぐに取得でき、ログインすると、専用プラグインのダウンロードおよびインストールに関する案内がある。Linux向けのRhapsody.comプラグインは、基本的に32ビットx86ハードウェア上のFirefoxバージョン1.0.xでしか動作しない。

公式のシステム要件によると、サポートされているプラットフォームはFedora Core 4とSUSE 9.3、ほかのディストリビューションの場合はGNU Cライブラリ(glibc)2.3が必要だ。Realのサポート・ボードには、ディストリビューションに同梱されているFirefoxバイナリでは動かないという苦情が数件寄せられている。うまく動かない場合は、直接、mozilla.orgから標準のFirefoxビルドをインストールするのが一般的な対策である。

無料のRhapsody 25アカウントでは、毎月25のトラックを自由に選び、25のRhapsody Radioストリーミング・オーディオ・チャネルにアクセスすることができる。また、ユーザーやRealあるいは多彩な有名人が作成したさまざまなプレイリストを利用することもできる。無料トラックの利用制限は再生した回数による。タイトル数ではない点に注意。したがって、今月の曲としてPhilip Glassの特定のトラックを25回聞けば、月間の割り当てを使い果たしてしまうことになる。

利用できるストリーミング・オーディオ・チャネルは、有料ユーザーが聞けるものの一部に限られているが、満遍なく見つくろってある。ほぼジャンル別になっており、品揃えは幅広い――ただし、軽音楽やクラシック・ロックで、インディー系アシッド・ジャズや60年代ブリティッシュ・フォークはない。スキッピングはRhapsody 25ではできないが、有料ユーザーはタイム・スロットごとに一定数――現在は3時間に30回――のスキッピングができる。

プレイリストの扱いは、ストリーミング・オーディオ・チャネルとは異なるようだ。有名人のプレイリストを聞いてみたが、プレイリストに含まれるトラックの再生が終わっても残り再生可能回数は減らず、スキッピングもできる。アクセスできないトラックは淡色表示され、ほかは(Brian Wilsonのプレイリストのインタビュー・トラックなど)無料と表示されていた。

プレイリストに適用される詳しいルールを知ろうとオンラインの解説を見たが判然としなかった。Realの場合、私の経験では、これはいつものことだ。質問には宣伝で応じ、情報へのリンクはマーケティング用ポータルに誘う。たとえば、インタフェースに使われているアイコン24種の解説を見るにはメッセージボードと知識ベースを検索する必要があるが、何と、それぞれ異なるサードパーティのサイトにあるという具合だ。

Rhapsody.comの利用法は、無料のRhapsody 25アカウントだけではない。月額10ドルを出せば、Rhapsodyのライブラリからトラックを無制限に再生し、すべてのストリーミング・オーディオ・チャネルを聞くことができる。ただし、すでに述べたように、スキッピングは3時間に30曲までという制限がある。このアカウントはRhapsody Unlimitedアカウントと呼ばれている。

アーティストの顔ぶれはiTunesと同様だ。メジャー・レーベルのアーティストはかなり揃っているが、ビートルズなどの大きな欠落もある。マイナー・レーベルのアーティストも同様だが、作品がすべて揃っていないことがままある。主要な演奏では、通常のアルバムのほかに、シングルと箱入りのセットがある。後者は、ヒットチャート上位のシングルだけでは飽き足らないユーザー向けのおまけである。

サービスの評価

さて、Rhapsodyは価値ある存在だろうか。無料アカウントについては、無料ストリーミング・オーディオ・チャネルを聞く価値はあると思う。音質は十分だし、RhapsodyプラグインをFirefoxにインストールすれば、利用も簡単だ。しかし、毎月25トラックの再生ができるサービスについては、大きな価値は見いだせない。

一方、ストリーミング・オーディオの有料サービスについては、月額10ドルを支払う価値はあるまい。インターネット・ラジオ・ステーションは珍しい存在ではないからだ。Shoutcastディレクトリ(あるいは、同様のサイト)にはRhapsody.comよりも多彩なチャネルがあり、MP3ストリームは無料だ。

Rhapsody.comはLinuxユーザーが使える最初の合法的音楽配信サービスだというRealの触れ込みは技術的な意味では正しいかもしれない(Linux用クライアントを提供している)。しかし、Shoutcastなどのサイトは特別なクライアント・アプリケーションが不要で、文字通りプラットフォームを選ばないのである。

しかも、現時点では、Rhapsody.comソフトウェアからRhapsody Music Storeを利用することはできない。RealがLinux用フロントエンドを提供する最初の音楽配信サイトを作ったと本当の意味で主張できるのは、それが可能になったときだ。しかし、そうなったとしても、Mindawn.com、AllofMP3.com、Magnatune.comなど、DRM抜きで音楽ファイルを販売するサイトの前では影は薄い。

Rhapsody.comサービスはさしたる利点を持たず、これだけを見ると失敗のように思える。しかし、会員サービスの提供はRealの主眼ではない。本当の目的はプレイリストや曲の共有機能にあると私は考える。Rhapsody.comの解説は主として「自分の音楽を共有する」という観点からプレイリストを説明しており、自分のプレイリストを作り、それをPlaylist Centralに登録したり、電子メールで友人に送ったり、ブログにリンクを張ったりするよう会員に勧めている。Rhapsody.comをあらゆるWebサイトで使われるクリック可能な音楽用リンクにすること。これこそが、このビジネス・プランの眼目なのだろう。

Realの目的はRhapsodyを電子メールやWebページに張る音楽用リンクの標準的存在にすることだろう、と私は見ている。そう考えれば、Mac用とLinux用のクライアントを提供していることも、それがRhapsody Jukeboxの機能を備えていないことも説明可能だ。Realは、以前、Webサービス・スペースへの取り組みに関心を示したことがある。目的がWebサイトに張る音楽用リンクをRhapsody.comで提供することにあるのなら、自由にリンクを張れる機能がプランに含まれるのは当然のことである。

ディジタル音楽市場は、その80%をiTunes Music Storeが押さえている。Realは、これに直接挑むことを当面断念し、無料の音楽共有市場を掘り起こそうとしているのだろう。Realがそれに成功すれば、Rhapsodyプラグインをインストールする利点はある。しかし、それまでは、Rhapsody.comサービスに推奨する価値はない。

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