韓国Linux事情:金融機関が移行を先導する
韓国郵政庁と韓国農業協同組合(NACF)は、韓国情報通信省のオープンソースソフトウェア採用促進計画に従い、大晦日までには、Linuxユーザのためにそれぞれのシステムを立ち上げ、稼動させたいとしている。
情報通信省は、従来から、新しいネットワークシステムを開発する際はLinuxを採用するよう、郵政庁・国防省・統一省などの公的機関に働きかけてきた。
韓国では、いまのところ、Microsoft社のWindowsオペレーティングシステムとInternet Explorerブラウザがないとオンラインバンキングが行えない。
「Microsoft社による独占は望ましくないので、Linuxなどのオープンソースソフトウェアを使用するよう、情報通信省から常々言われていました」と、郵政庁高官Oh Kwang-sooがKorea Herald紙上で語っている。「それに、Linuxシステムユーザの間にも、新しいバンキングシステムを望む声が高まってきていました。ですから、公的機関としての責任を考えて、システムの立ち上げを決めました。郵政庁のLinuxオンラインバンキングシステムが成功すれば、民間もつづいてくれると信じています」
NACFでもシステム開発はすでに終わっていて、あとは政府からセキュリティテストのゴーサインが出るのを待つだけだという。
「現在、Windowsシステムで使用できるすべての取引メニューが、Linuxユーザにもご利用いただけます」と、NACFインターネットバンキング部門のトップ、Jung Jae-hunは言う。「いま、Linuxユーザフォーラムで利用促進キャンペーンをやっていますが、最初から大勢のユーザに利用していただけるとは思っていません」
韓国でのLinux普及度がどれほどのものか、はっきりしたデータはない。そのため、民間銀行のなかには、Linuxオンラインバンキングサービスの導入に消極的なところもある。NACFは、20万人を超えるLinuxユーザがいると見込んでいるが、韓国郵政庁の数字は3万人と、かなり控え目である。
民間銀行の1つ、新韓銀行は、昨年、Apple Macintoshコンピュータユーザ向けにオンラインバンキングソフトウェアをリリースしているが、まだLinux版はない。現在検討中であり、来年のリリースはあるかもしれないと言っている。Korea IT Newsオンラインサービスによると、SC第一銀行がLinuxサービスの来年導入を考えているが、国内最大手の国民銀行には、いまのところ非Windowsユーザ向けにサービスを新設する計画はない。
韓国政府は、来年、オンラインバンキング以外のさまざまな公的サービスにもLinuxを導入する計画であり、民間企業がそれにならってくれることを期待している。来年中に少なくとも1000億ウォン(約1億ドル)をかけてオープンソースソフトウェアの採用キャンペーンを打ち、将来における電子政府実現への1歩にしたいと考えている。
韓国企画予算処(MPB)は、来年、23の政府機関における37のプロジェクトでオープンソースソフトウェアを使用する計画を立てている。たとえば、 教育人的資源部には次世代eラーニング品質管理システム、気象局には気象情報交換システム、食品医薬品安全庁には食品・医薬品統合情報システムの構築計画があって、いずれも対象となる。
MPBの見積もりでは、当該37プロジェクトでオープンソースソフトウェアが使用されると、61億ウォンの経費節減になる。ハードウェアとオペレーティングシステムに当てられている予算の総額が280億ウォンだから、約22%減らせることになる。
MPBの意向で、使用するソフトウェアの選択は個々の政府機関に任されることになるようだ。MPBには、韓国ソフトウエア振興院と協力して、ソフトウェア技術者のためのオープンソース教育を支援する計画もある。
オープンソース関連の動きで今年特筆すべきことは、Linuxのビジネス利用を推進する世界的非営利組織OSDL(Open Source Development Labs)に、韓国のいくつかの団体が参加したことだろう。第1号は韓国電子通信研究院(ETRI)で、現在、OSDLのCarrier Grade Linux(CGL)、Data Center Linux(DCL)、Desktop Linuxの各作業グループで活動を開始している。
民間からもHaansoft社が参加した。同社は、ソフトウェア開発の韓国最大手であり、韓国語オフィスソフトウェアでは他の追随を許さない。とくにワードプロセッサでは、市場の70%を占有している。Haansoft社も、やはりOSDLのCGL作業グループに属している。また、中国の紅旗軟件技術有限公司、日本のミラクル・リナックス社と共同で、Asianux Linuxサーバオペレーティングシステムを開発している。
2005年に韓国からOSDLに加入したその他の団体としては、韓国ソフトウエア振興院(KIPA)がエンタープライズサービス作業グループに属し、Miji Research社がMobile Linux Initiative(MLI)に属している。Miji Research社は、11月15日に発足した国際標準グループ、Linux Phone Standard(LiPS)の幹事メンバーにもなっている。KIPAには、同標準グループの韓国支部を設立したい意向があり、現在、OSDLとの話し合いを進めている。
2005年は、韓国の民間Linux開発業者にとってよい1年だった。Linuxベースのファイルシステムを開発するMacroimpact社は、売上高を昨年比で60%伸ばした。迷惑メールの阻止技術を専門にするTerrace Technology社は、Korea Telecom社、韓国科学財団(KOSEF)、NC Soft社などにLinuxベースのソリューションを納入した。これで、同社の技術でカバーされるサイトは20%増になったという。「ポータルサイトがSolarisなどのUnixシステムからLinuxに移行しはじめていますから、来年のわが社の売上高は今年から倍増するでしょう」と、同社幹部Ji Seung-yeongがKorea IT Newsで発言している。
Linuxベースのクラスタリングソリューションを販売するClunix社は、売上高の大幅増を計上し、Linuxへのシフトが起こりつつあることを報告している。「企業は、Linuxベースのクラスタリングソリューションへ傾きつつあります」と同社CEO、Gwon Dae-seokは言う。「企業へのLinuxシステム導入が拡大していることが理由の1つ、価格がUnixソリューションの半額であることがもう1つです」
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