LinuxメディアセンターPCは一体どうなった?

1年前、Linuxはホーム・メディアセンターPCの形で居間に根を下ろす態勢が整ったかに見えた。しかし、昨年の製品予告はLinuxベースの一般消費者向けシステムとしてまだ姿を現していない。

Hewlett-Packardの長としての職を失う以前、最高経営責任者のCarly Fiorinaは、HPの来るべきメディア・ハブという言葉をCES(Consumer Electronics Show)の基調演説の中に散りばめていた。これはテレビその他の表示機能を中心に据えたLinuxベースのマシンで、Digital Entertainment Center(DEC)— Windows XP Media Centerで動くPC寄りの最新システム — と一緒に発表されたわけだが、2005年秋までに登場するはずが、いまだその姿を見せていない。

しかし、Microsoft Windows XP Media Centerオペレーティング・システムで稼働するHPメディアセンターPCは早速登場した。TVチュナーを取り除いて価格を下げたので売り上げは好調と広報担当のPat KinleyはNewsForgeに話してくれた。

「メディアセンターPCはよく売れている。実際、MicrosoftがMedia Center PCオペレーティング・システムを400万ライセンス販売したと発表したうちの約100万セット — 実際は100万を超えた辺り — をHPが売ったわけだから、かなり好調だ」と彼女は言う。

しかし、Fiorinaが語ったようなLinuxベースのHPメディア・ハブ —「写真、音楽、テレビ、ビデオの各機能を統合したセットトップボックスとダブルチュナーのデジタルビデオレコーダから成る初のハイビジョンTV(HDTV)メディア・ハブ」という触れ込みだった— は、とっくに消えてしまった。

Kinleyによると、去年1月にCESでLinuxベースのメディア・ハブを発表して程なく、同社は方針転換を余儀なくされたようだ。

「その後間もなく、2カ月かそこらのうちだが、この種の技術はデジタルTVと統合した方がユーザーにとってずっとよいことがわかった。そこで、今から2カ月ほど前にAdvanced Digital Mediaと称するテクノロジを発表したわけだ。これは2006年に登場するテレビに組み込まれ、我々が思うところのユーザー期待の機能を備えることになる」と彼女は言う。

HPのこの新テクノロジをベースとするテレビは、正確には薄型テレビと言うべきだが、画面サイズが50〜65インチもあり、「この手の製品としては初のオンスクリーン・サムネール操作機能を備え、すべてのビデオ・ソースをテレビで見ることができる」とのことである。

実在しない市場と、統合の魅力

Jupiter Researchの副社長、Michael Gartenbergは、Linuxメディア・ハブとiAppleのiPodデバイス・サポートの発表後すぐにHPのマルチプラットフォーム戦略の終焉を予言した人物であるが、彼によればLinuxベースのメディア・ハブが「永久に缶詰にされた」のは驚くに当たらないという。

「ひとつにはプラットフォームが多すぎること。もうひとつは市場の問題だ。このタイプのメディア機器は時代の先端にある」

1年前にLinuxベースのホーム・メディアPCの製品化を考えたのはHPだけではなかった。ShuttleのハードウェアでオープンソースのCyberlink PowerCinemaスイートが動くとの予言があったが、その話は噂で終わった。

「多くの人々がLinuxでやりたいと考えていた」とGartenbergは言う。「だが、市場はそこになかった。そうした機器を買うと言っても、いくつもある選択肢の1つにすぎない。Windows Mediaの方がサポートが充実しているし、しかもXboxやiPodなどの機器も取り込んでいる」

Shuttleの製品市場担当部長、Kevin Tuによると、同社は主要なLinuxディストリビューションでXPCメディアセンターPCの検証を行っている最中だが、現在のところLinuxベースのマシンは販売していないとのことである。

「LinuxベースのメディアPCを低価格市場向けに提供する話は以前からずっとあった」とTuは言う。「数ヶ月前にはLinuxベースのIntel ViiV PCのすらあった。メディアPCが市場に本格的に浸透しないのはまだ価格が高すぎるからで、平均価格が通常のデスクトップPCの約2倍では無理もない。だからLinuxベースのPCに必要なものをすべて付けて売れば価格競争力はかなりあるはずだ」

Tuの説明によると、Microsoftより前にもメディアPCはあったが、それは消費者の望む機能 — DVR、音楽、写真、等々 — を提供するために多数のサードパーティ製プログラムを必要とした。しかも、そのソフトウェアは、まだ机でPCを操作する域を脱しておらず、とても居間でくつろぐための代物ものではなかった。

「Windows XP Media Center Editionの魅力は、さまざまな機能やインタフェースが高度に統合していることだ」とTuは言う。「もう複数のプログラムは必要なく、いくつものサードパーティ製プログラムを組み合わせる感覚はない。使い勝手がよく、1つのインタフェースでテレビ、音楽、写真を操作できる」

LinuxであれWindowsであれ、PCを家庭の居間に置くためには、消費者を納得させるためにもう一工夫必要だとTuは指摘する。

「消費者の教育にまだ時間と手間がかかる。ブルースクリーン、無料ソフト、ウィルスといった、PCに対する固定観念を払拭するのは容易でない。こうしたことに確実に対応できなければ、デスクトップPCが居間のメディアセンターに変貌するのはなかなか難しいだろう」

チュナーを取り去って市場を取る

Current Analysisのアナリスト、Toni Duboisによると、HPその他のLinuxベースのメディアセンターPCのアイデアが立ち消えになる一方で、Microsoftはテレビ・チュナーを取り去ってシステム価格を下げることで、メディアセンターPC市場の半分以上を手中にしたという。

「いろいろ試みはあったが、唯一ものになったのはWindows Mediaオペレーティング・システムだけだ」と彼女は言う。彼女の報告によると、MicrosoftのメディアセンターOSは2005年10月期に米国で販売されたデスクトップの52パーセントを占めている。

2001年10月期のWindows Mediaオペレーティング・システムの販売がデスクトップの約7パーセントにすぎなかったのと好対照で、Duboisはテレビ・チュナーを取り去ってメディアセンターPCの価格を1,000ドル以下に抑えたことが功を奏したと見ている。2004年にはチュナーを搭載しない(あるいはアップグレードしてチュナーを搭載できる)メディアセンターPCは売られていなかったが、現在はチュナーを搭載しないシステムが出荷量の80パーセント以上を占めるとDuboisは言う。

Endpoint Technologies Associatesの創設者で業界アナリストのRoger Kayは、Microsoftがメディアセンターで成功したのは、OSを改良して操作性と高め、しかも価格を下げたせいだと見ている。メディアセンターOSをWindows PCに簡単にインストールできるようにライセンスの条件を緩めたことも助けになっていると彼は言う。

一方、Linuxはどうかと言えば、HPのメディア・ハブのアイデアは悪くないが、たぶん市場では成功しないとKayは見ている。Windows Media OSの操作性と価格は、「より豊かな生態系」に支えられて、ベンダのサポートと消費者の心を簡単につかむことができるからだ。

「Linuxは特殊機能や特定の用途を持つ機器に限定されるだろう」とKayは言う。

Gartenbergは、TiVoなどの人気のDVR機器でLinuxは地味ながら売れていると指摘する。だが、OS自体がセールスポイントになっているわけではない。「重要なのは、その他の多くの製品がLinuxだから買うという位置づけになっていることだ。こんな理由で人は物を買わない」と彼は言う。

MicrosoftがLinuxに大きく水をあけたことは間違いないとDuboisは言う。「デスクトップPCと同様、苦しい戦いになる。Microsoftは有利な状況にある。これまでの3年間の取り組みが実を結びつつあるからだ」

MicrosoftとLinuxの次の戦いは、必須のストレージスペースで消費されている多数のメディアを統合することだとDuboisは言う。ここにLinuxのチャンスがあると彼女は示唆する。そのサーバーとしての能力を居間で活かすことができるかもしれないからだ。

「結局、我々はホームベースのサーバーを見ることになると思う。デジタル・メディアはたくさんあるので、テレビの中に入らないだろう」

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