GNU信者たち

読者の地元の教会でも、今度の日曜の朝、日曜礼拝の信徒席を見回してみれば、何人かのGNU信者の姿が目に入るかも知れない。彼らの中にはソフトウェア開発者やシステム管理者もいれば、教会の指導者たちもいる。彼らは神を信じ、キリストを信じ、そしてフリー/オープンソースソフトウェアを信じている。

Webサイトがいくつも開設され、参加する信者の数や教会・布教団体向けフリー/オープンソースソフトウェアの数が増え続けていることは、いずれも、キリスト教徒の間で新たな運動が進展し始めている証拠である。彼らはGNUを土台とする教会のテクノロジ基盤の構築を目指している。この動きの拡がりを具体的な数字で示すことは難しいが、フリー/オープンソースソフトウェア運動はキリスト教徒の間で地歩を固めつつある。

宗教者のためのフリー/オープンソースソフトウェア

GNUのルーツがRichard M. Stallmanという名の無神論者にあることは明白だ。しかし、(「GNU is Not Unix」を意味する)GNUは黄金律の考え方から生まれたものであり、キリスト教徒ならほとんど誰もが、聖書の教えに由来するこの考え方に深い共感を覚えるだろう。カント哲学に基づくStallmanの倫理観はさまざまな点でキリスト教の教義と衝突するが、黄金律の考え方は両者に共通のものだ。実際、Stallmanは私宛の私信の中で、キリスト教会はフリーソフトウェアの主要な擁護団体の1つになるべきだと確信している、と述べたことがある。

現実に、さまざまな宗教の信徒たちは、既にしばらく前からフリー/オープンソースソフトウェアを求める巡礼の旅を続けてきた。SourceForgeでも1999年以来、仏教、キリスト教、ユダヤ教、およびイスラム教の教徒のためのソフトウェアプロジェクトをホスティングしてきた。SourceForgeをブラウズすれば、宗教関連のアプリケーションや開発ライブラリが200近く見つかるはずだ。これらのうち少なくとも83のプロジェクトは2003年の初め以降に開始されたもので、約30のプロジェクトは今年に入ってから立ち上げられたものだ。

GNU/Linuxやその他一般のオープンソースアプリケーションに移行すべき理由はいくつも存在する。高価でしかも期待外れに終わることが多いプロプライエタリな製品の代わりとなるアプリケーションを求めている信者や教会は少なくない。技術的により優れたプラットフォームを低コストで導入できるだけでなく、GNU/Linuxとその上で実行可能なフリーアプリケーションのコピーを教会や地域の隣人たちに合法的に配布できることを知って、多くのキリスト教徒たちは喜びを感じている。

教会関係者の大部分は導入したらすぐに動かせる「既製」アプリケーションを好み、少なくとも最低条件として、インストールや設定に必要な技術的スキルが最小限で済むことを望む。だが、教会が世界のどんな場所にあるかを問わず、教会指導者たちがアプリケーションを多数の選択肢の中から選べる状況は既に実現しており、しかもそれらのアプリケーションは複数のオペレーティングシステムで実行可能な場合が多い。たとえば、聖書関連や教会管理、礼拝支援のアプリケーションなどが挙げられるが、これらは利用可能または開発中の多くのアプリケーションのほんの一部にすぎない。

SWORDプロジェクトは、クロスプラットフォームの聖書学習アプリケーション用開発ライブラリである。このプロジェクトは、聖書の翻訳、注釈、用語辞典など、キリスト教の各種重要文書をモジュールとして提供している。開発者は、アプリケーションの基盤としてSWORDプロジェクトを利用することにより、ユーザが好みに合わせて自由にモジュールを追加することを可能にできる。たとえば、J-SwordはGNU/Linux、Mac、またはWindowsのいずれのプラットフォームでも実行できるJavaベースの聖書ソフトウェアで、コンピュータを使用した経験が少ない初心者でも簡単にインストールできる。

Thomas Hagedornが1999年に開始したKDE用の聖書プロジェクトBibleTimeは、現在はJoachim AnsorgとMartin Grunerがリーダとなって開発を続けている。2000年に開発が開始されたGNOMEバージョンのGnomeSwordは、現在、Terry Biggsを中心とするグループが保守を行っている。ユーザは、他のほとんどの聖書学習アプリケーションと同様に、検索やメモの機能を活用できる。両者ともプログラムのサイズは小さく、ダウンロード用のファイルは1.5MB未満、インストールに必要な容量は約4MBである。BibleTimeとGnomeSwordのダウンロード回数は、既に合計100,000回近くに達している。

Perl Bibleは、英語とチェコ語で利用可能なGNU/Linuxシステム用の聖書学習アプリケーションである。このアプリケーションの大きな長所の1つは、インストールや使用が簡単なことだ。開発者のOndra Masakが設計したインタフェースは、技術的なことが苦手なユーザにも使いやすいシンプルなものである。チェコ語の翻訳の他に、欽定英訳聖書(King James Version)や、Darby訳、Young訳の聖書も収録されており、さらに、世界英語聖書(World English Bible)、および現代英語で書かれたパブリックドメインの聖書も利用できる。

現在Christ Gebhardtが中心となって開発を進めているInfoCentralは、既に500以上の教会で実際に使用されている会員管理アプリケーションである。公式サイトのFAQページによると、InfoCentralには会員数が2,500人を超える教会での使用実績があるという。InfoCentralは元々はサウスダコタ州スーフォールズのセントラルバプティスト教会のために開発されたアプリケーションだが、現在は2つのプロジェクトへの分割が進められており、新しいプロジェクトでは最大20,000人の会員を持つ大規模な教会をターゲットとする開発が行われる見通しである。

アプリケーションの中には礼拝グループの支援を目的とするものさえ存在する。シアトルの小さな教会で礼拝グループのリーダを務めるDaniel Azumaが開発したAsaphは、充実した機能を備えた音楽データベースであり、設定項目が豊富できめ細かな制御が可能な歌詞表示ソフトウェアでもある。現時点ではまだベータテストの段階だが、数か月後には最初の正式バージョンがリリースされる予定だ。現在、GNU/Linux、Mac、およびWindowsの各システムがサポートされているが、動作にはJava仮想マシンが必要となる。

OpenLPとOpenSongは、どちらも、MacおよびWindowsのシステムで歌詞を壁のスクリーンに映写する機能を提供する。OpenSongではコード譜や歌詞カードを作成することもできる。OpenLPは英国の若き開発者、Timothy Ebenezerが2月に開始したばかりのプロジェクトだが、既にかなりの支持を集めており、400以上の教会で使用されている。どちらのプロジェクトも複数の言語をサポートしており、GNU/Linuxへの移植も計画されている。

私が以前、自分の教会のWebサイトのために書いた記事「Penguin in the Pew(信徒席のペンギン)」がきっかけとなって、教会関係者にGNU/Linuxオペレーティングシステムと教会関連のさまざまなアプリケーションを試用してもらうための2枚の評価用CDが作成されることになった。これは、GNU/Linuxという名前を耳にしたことさえない人の多い「技術系が苦手な」教会指導者たちにフリー/オープンソースソフトウェアの能力を知ってもらうには格好の手段である。どちらのCDにもキリスト教関連の多様なアプリケーションが収録される予定で、その豊富な選択肢はGNUの柔軟性を示す良い例となるだろう。

アラバマ州ドーサンのPreston Boyingtonが中心となって進めているApologetix(別名Linux 4 Christians)CDプロジェクトは、Knoppixをベースにしたものだ。現在までに相当数の地元住民がメンバ登録しており、地元の2つのラジオ局でもプロジェクトの話題が取り上げられる予定である。もう一方のChristian Linux LiveCDは、英国人のDavey Mitchellが1人で運営しているプロジェクトで、J-Swordを含む約100MBのサイズとなる見通しだ。どちらも非常に有望なプロジェクトであり、教会を顧客とするコンサルタントに大きなメリットをもたらす可能性を持っている。

これらに加えて、布教団体に対してITの布教を行っているLightSys Technology Servicesというプロのコンサルタント組織もあり、そのコンサルタントたちはフリー/オープンソースソフトウェアを専門に扱っている。彼らは、アプリケーションサーバのCentrallixと、そのCentrallix上で動作する管理アプリケーションのKardiaを開発した。また、キリスト教関連ソフトウェア開発者向けのサイト、Christian Open Development Networkの運営にも携わっている。今後、このサイトがキリスト教関連の開発者に有益なワンストップリソースになることは間違いないだろう。

スコットランド人のBen Thorpが運営しているWebサイト、The Freely Projectも多くのキリスト教徒を集めている。Freelyは教会に対するチケットベースのサポート提供を準備しており、また、FreeNode上にIRCチャンネル(#freely)を開設している。このプロジェクトは開始後まだあまり時間がたっていないが、この2か月の間に参加者は確実に増え続けてきた。このサイトでは何編かの記事のほか、フリー/オープンソースソフトウェアをさまざまな側面から論じ合うためのフォーラムが提供されている。

元牧師のLinc Fessendenが運営しているLinux 4 Christiansのサイトには、2000年以降のキリスト教関連Linuxアプリケーションの情報がまとめられている。また、65人のメンバを擁するメーリングリストも開設されており、そのメンバの多くは最近2か月の間に加わった新しい参加者である。

教会や宗教関連の非営利組織が利用できるアプリケーションの幅の広さとプロレベルの質の高さには目を見張るものがあり、各種のプロジェクトによる多数の言語やオペレーティングシステムに対するサポートの充実ぶりもすばらしい。Christian Open Developer Network、The Freely Project、およびLinux 4 Christiansの各サイトは、いずれも、フリー/オープンソースソフトウェアの利用や開発に関心を持つあらゆるキリスト教徒や聖職者にとって、欠くことのできない貴重な情報源の1つと言えるだろう。

Don Parris:ノースカロライナ州シャーロットの小さな家庭教会Matheteuo Christian Fellowshipの牧師。「Penguin in the Pew(信徒席のペンギン)」および「IT as Ministry(聖職としてのIT)」の著者でもある。フリー/オープンソースソフトウェアに関する関心事や活用方法について読者の声を聞きたいと望んでいる。