本題:SCOが仕事に与える影響

知的所有権(IP)を巡る問題や、Linuxに関してだれがどんなことを書いたのかという話はもうたくさんだ。早速、本題に入ろう。今、読者はどんな仕事にお就きだろう。Linuxを扱う仕事だろうか。それとも、SCO OpenServerUnixWareを扱う仕事だろうか。

仮にLinuxを扱う仕事だとしよう。そんなあなたの元を、SCOの弁護士が訪ねてくるだろうか。そのことについて真剣に考えた方がよいだろうか。答えはノーだ。SCOは言うまでもなく、アナリストもみんながみんなすぐにでも顧問弁護士の意見を聞くよう助言するはずだ。

それでよいのかどうか一言で片づけるのは難しい。しかし、こちらの指示どおりに動いてくれる敏腕弁護士を抱えているのでもない限り、そんな議論をしても何の役にも立たない。それよりも、顧問の法律事務所や社内弁護士がIP法を知っているのか考えてみよう。勤務先が大企業なら、そんな心配はいらない。しかし、ほとんどの企業弁護士は契約や税法については知っていても、IP法については知らないというのが現状だ。

私見だが、今のままLinuxを使い続けた方がよいと思う。SCOがLinus Torvalds氏を訴えると脅しているが、そんなことは無視すればいい。Novellの威嚇も、あちこちから沸き上がるLinuxファンの怒声も、みんな無視しよう。大きな訴訟は1つだけ。SCOがIBMを訴えたというものだ。その訴えを立証するために、SCOはいったい何をしなければならないのか。

私は法律家ではない。この訴訟で私が一番注目しているのは、LinuxにUNIXコードが組み込まれているかどうかではない。何百行もの同じコードが存在するのは間違いない。「hello world」を書き込んだり、ファイルを開いたりする効率的な方法がC言語にいくつもあるとは思えないからだ。Linuxに関する限り、問題の焦点はIBMがUNIXからコードを盗んだかという点だ。また、陪審員は気付いていないかもしれないが、だれが最初にコードを組み込んだのかという肝心な問題もまだ残っている。どうすれば合理的疑いの余地なくIBMの有罪を立証できるのか。私には見当がつかない。

先月指摘したように、SCO自体が、合併の前も後も、UNIXとLinuxを一体化してきた。その経歴は明らかだ。長年に渡って、SCOはUNIXの助けも借りて業界トップクラスのLinuxオペレーティングシステムを作ろうとしてきた。したがって、たとえ直接コピーしたという事実があったとしても(公的証拠はないままだが)、IBMが「違法な」コードを組み込んだことを立証するのは不可能だ。それは、何十個もの苺をミキサーに投げ入れてピューレを作った後、その中の1つの苺がどのような経緯をたどったのか解明するようなものだ。

そのうえ、SCOはこの4月になってもまだLinuxをGPLとしてリリースしていた。しかも、SCOの主張によれば、その中に独自のLinuxコードが組み込まれているという。フリーソフトウェア・ライセンスの下でUNIXの機密を公開した会社が、それと同じIP情報をIBMのせいで失ったと主張しているわけだ。果たして、裁判所はその主張を妥当なものとして受け入れるだろうか。

ノーだ。ただノーと言うしかない。もしSCOの主張をすべて受け入れたら、IPという輝く水がSCOの歴史という泥で汚れてしまう。SCOが今回の訴訟で勝つとは思えない。そのことはSCOも十分に承知していると思う。

したがって、CEOのDarl McBride氏がインタビューの中で、IBMによるSCOの買収という考えを披露したときも、まったく驚かなかった。以前から、SCOの実行可能な撤退戦略は買収しかないと思っていたからだ。

つまりどういうことかと言うと、Linuxを使っているなら使い続けなさいということだ。Linuxがなくなることはない。

SCOのオペレーティングシステムを使っているのはどうか?

SCO Linuxを使っている方には、申し訳ないが、はっきり指摘させていただく。あなたは騙されている。SCOは、顧客のサポートを続けると約束し、6月2日の時点でも、次のように述べている。「当社はLinuxのお客様との契約関係を遵守し、今後ともサポートを続ける所存です」。しかし、これはどういう意味だろう。SCOはLinuxへの反対運動を展開しているのではないのか。盗まれたと主張するコードのバグフィックスを今後もリリースするというのか。考えただけで頭がくらくらする。

SCOのリセラーから聞いた話によると、SCOはSCO Linuxの顧客に対してUnixWareへの切り替えを奨励しているという。SCOの企業広報マネージャーであるPaul Hatch氏に話を聞くと、切り替えを奨励しているのではなく、SCO Linuxが今後UnixWareへとアップグレードしていくことを説明しているだけだという。顧客にしろリセラーにしろ、そのような説明を聞いても少しもわくわくしない。リセラーの多くは、前からその道を歩んでいるし、SCOはOpenServerのリセラーに対してUnixWareへの切り替えを押し進めようとした。しかし、うまくいかなかった。それは今も変わらない。UnixWareは、可もなく不可もないサーバ用オペレーティングシステムだが、普及しているとはとても言えない状況だ。

また、UnixWareでもLinuxでも動作するアプリケーションがほとんどない。もちろん、Linux Kernel Personality(LKP)を必要とするアプリケーションは除いてある。SCO Linux のサポートのような混乱した状況になるからだ。

では、SCO Linuxユーザはどうすればよいのか。私が話を聞いた人のほとんどは、Red Hatへの移行を予定している。Red Hatに問題があるとは思わないが、これまでサーバとしてSCO Linuxに投資してきたのなら、SuSEへの移行を考えてみたらどうだろう。SCO LinuxもSuSE Enterprise LinuxもUnitedLinuxをベースにしているので、両者間なら設定とアプリケーションをスムーズに移行できるはずだ。要するに、SCO Linux 4からSuSE Enterprise Server 8への移行の方が、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)ASまたはESへの移行よりも、負担が少ないということだ。

私個人は、2台のSCO Linux 4サーバをSLESに移行した。アプリケーション、ユーザとグループの設定、カスタマイズなどを移行したが、朝から始めて午前中のうちにすべての作業を終えることができた。

OpenServerを使用しているなら、特に特殊用途のためにOpenServerを使用しているのなら、今のところは何も心配ない。しかし、数年後には本当の問題がやって来る。そのときあなたはどんな仕事をしているか。SCO Linuxは、OpenServerが市場から撤退したときのために用意してあるのだ。私が話を聞いたOpenServerのリセラーとユーザは、2004年以降自分たちがどうなるのか本当に心配している。それも無理からぬ話だ。

SCOが事業を撤退するか身売りをしたら、彼らは大変だ。身売り先がOpenServerの存続にまったく関心のないMicrosoftだとしたらなおさらだ。SCOがIBMの手に渡れば、少し事情は異なる。OpenServerの存続に関心を示さないのは同じだと思うが、別の会社にOpenServerを売却するか、OS/2と同じく目立たぬように残しておく可能性がある。後者の場合、最高の運命ではないが、少なくともOpenServerは存続し続けるわけで、LinuxはOpenServerの長期オペレーティングシステム保険として日の目を見る。

UnixWareに関してはよく分からない。一番問題の多いオペレーティングシステムかもしれない。特殊用途や中小企業でOpenServerが占める位置にUnixWareが割って入ったことはなかった。ましてや、エンタープライズ・オペレーティングシステムとして踏み出したこともなかった。将来、買収先がUnixWareを存続させるとは思えない。残ったとしても実を結ぶことはないだろう。

そういうわけで、私が今UnixWareを持っているとしたら、すぐにでも移行の計画を立てる。最善の選択は何か。UnixWareの強みを考えると、SuSE Enterprise ServerやRHELに移行するのが一番だろう。あるいは、Windows 2000 Serverでもよい。Windows 2003 Serverでもかまわないが、サーバ・アプリケーション・サポートがほとんどない

残念ながら、ここで取り上げたオペレーティングシステムには共通して欠けていることが1つある。強力なリセラー・チャネルである。広く普及するに至っていない理由がそこにある。一方、Microsoftのリセラー・チャネルは実にすばらしい。しかし、その恩恵にあずかるには、トップクラスのディーラーになるか、Microsoftとの長い歴史を築く必要がある。そのうえ、他の何千ものインテグレータやリセラーとの競争が待っている。挙げ句、Licensing 6がリセラーとエンドユーザーの足かせになるかもしれない。

これまで長い間、数多くのSCO製品とサービスを愛用し、紙上で推奨してきた人たちと同じように、私もこのような結論に達したことは不本意である。しかし、SCOはかつて私が知っていた会社ではない。今の仕事がSCOに依存しているのなら、のんびり構えている時間はない。今後も変わらずSCOと仕事を続けていけるとは思わない方がいい。