SCO訴訟:最悪のシナリオ

3年前、私は大手ソフトウェア企業がコンピュータを家庭内への”足がかり”として利用し、暮らしを人知れずコントロールすることを企んでいると警告した。なるほど、当時と事情はだいぶ変わっている。名指しした3社(IBM、AT&T、Microsoft)のうち、Linuxユーザーの脅威として残っているのは、SCOを手下とするMicrosoftだけだ。

SCO告訴の法的な分析は本稿のテーマではない。私よりもはるかに優れた頭脳がすでにそれに携わっている。私がしたいのは、おぞましい可能性について論じることである。それは、SCOが勝訴した場合にどうなるかだ。

SCOの主張が正しいと証明されると言いたいのではない。同社の告訴にはスイス・チーズよりもたくさんの穴が空いている。しかし、法廷がどのような判断を下すか、一般常識で計ることは難しい。SCOが法廷で勝利する可能性は排除できない。当然の用心を怠るのは愚か者だけなので、当然の疑問についてここで検討したい。LinuxがSCOの著作権を侵害していると法的に断定された世界で、果たしてLinuxユーザは生きていけるだろうか。

最良のケースは、SCOの勝訴後、著作権を侵害するコードがすみやかに一掃され、置き換えられることだ。システム管理者にとっては、単純なパッチ/コンパイル/インストール/LILOの問題にすぎない。しかし、言うはやすし、行うは難し。元のコードを変更し、同じ機能を実装するのは簡単ではない。Linuxカーネルのように結び付きの強いものだと、少しの変更でがらりと動作が変わってしまう可能性がある。こういった作業を適切な期間内に完了できないとしたら、どうなるだろうか。

今でさえSCOから直接訴えられる危険に身を置いている企業ユーザは、おそらく足手まといのLinuxから手を引くだろう。コンサルタントがそれ以外のアドバイスをするとは考えられない。多くの企業ユーザがMicrosoft Windowsを基本とするサーバ環境に移行するだろう。一部のユーザは、BSDシステム、Solaris、AIXなどの別種のUNIXに切り替えると思われる。また、ファイル、プリント、メールの各サービスやファイアウォール、バックアップの管理を処理する専用のアプライアンスを個別に持つクローズソースのアプライアンス・セットアップに切り替えるユーザもいるだろう。企業Linuxインストールベースの減少は、Linuxの減少率において最大の比率を占めると予想される。

個人ユーザの事情はまた別だ。意図的な著作権侵害を1人1人について立証するのは、SCOにとってコストがかさむ。そういった摘発を展開するコストを回収できる見込みはまずない。だからといって、SCOが個人の追及をしないとは言えない。

SCOが勝訴した場合、個人ユーザの選択肢として次のものが考えられる。

  • Linuxを使い続ける。リスクはあるが、システムでLinuxを利用していることを隠す方法はある。
    • 外部から見えるインターネットサービスのネットワークデータから、Linuxの存在を示すいっさいの情報を削除する
    • TCPスタックの初期シーケンス番号生成処理を修正する(アルゴリズムを「より貧弱」にするとベンダ独自UNIXに見える)
    • SSL対応インターネットサービスを使って、インターネットトラフィックに含まれる単語”Linux”を見えにくくする 
    • 最新のnmapSteve GibsonのShieldsUP!をシステムに定期的に実行する
    完全な対策ではないが、オペレーティングシステムが特定されるのを遅らせる効果はある。
  • BSDのどれかに変更する。確かに、Linuxとはライセンスが違う。確かに、デザインの思想が違う。だが、Linuxを使い慣れたユーザが*BSDに切り替えるのは、おそらく最初にLinuxに切り替えたときよりも楽だろう。それに、BSDの歴史を考えると、横槍の入らない未来が保証されているも同然だ。
  • ベンダ独自UNIXか、安価なUNIXに切り替える。かつてのSolarisがこれに該当する。おそらく後継者はすぐに現れるだろう。独自UNIXベンダは、間違いなく今回の訴訟を注意深く見守っている。Linuxの後退は、新規ユーザ獲得の絶好のチャンスなのだから。
  • Microsoft Windowsをインストールする。勝ち目がないならすり寄る、ということだ。

私にはFreeBSDを使った経験があるので、SCOが勝利を収めた場合にどうするかに迷いはない。私が愛用するLinuxデストリビューションSlackwareは、BSDをベースとしている。切り替えにはそれなりの手間がかかるだろうが、後で後悔することはないはずである。

さて、ここでLinuxコミュニティに1つ質問したい。SCOが勝訴したら、あなたはどうするのか。

Mark McGrewは1997年以来のLinuxユーザ。1999年以降はLinux一筋である。個人Webサイトに思いつくまま掲載した意見が一部で好評を博す。